AI活用企業必見!AI関連発明の特許出願動向を解説

弁理士
法橋 宏高

弁理士
足立 俊彦
田代 巧

近年、生成AI(Generative AI)の発展が目覚ましく、これに伴って様々な事業領域で生成AIを活用したビジネスが展開されています。このような状況のもとでは、企業の競争優位性を確保するために知的財産の保護が企業にとって重要な課題となります。実際、生成AI関連の特許出願は急増しており、特に、日本では各事業領域に適用した技術に関する特許出願が多くなされています。しかし、どのような発明が特許として出願され、また、特許として成立しているかの具体的なイメージが沸かない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、直近半年間ほどで登録された最新の生成AI関連の具体的な特許事例を紹介します。生成AI関連のサービスを開発した場合に特許取得を目指すべきか否かを検討する際の参考にしていただければ幸いです。
目次
生成AI(Generative AI)とは、人工知能の一種で、テキスト、画像、音声、動画などさまざまな形式のデータを生成する技術です。生成AIは、機械学習モデルを活用して、大量のデータを用いて学習を行い、新たなデータを生み出します。生成AIは、例えば、小説、エッセイなどを執筆したり、イラスト、写真風の画像を生成したりすることができます。また、音楽の作詞作曲をしたり、アニメーションを生成したりすることができます。テキスト生成AIとしては、ChatGPT、Claude、画像生成AIとしては、Stable Diffusion、Midjourneyなどが有名です。近年は、生成AIを活用したチャットボットなども広く普及しています。
特許庁は2024年10月にAI関連発明の出願状況調査を公開しております。これによると、AI関連発明の出願数は2014年以降急増していいます。また、AIを各技術分野に適用したAI適用発明の出願数(ピンク色の棒が示す値)がAIのアルゴリズムなどに関するAIコア技術の出願数(黄色の棒が示す値)を上回っています。つまり、AI関連発明の多くは、AIそのものの発明というよりも、AIを各技術分野に適用した発明です。
直近半年間に登録された生成AI関連発明の中から10件の特許事例をピックアップしました。生成AI関連発明は、様々な技術分野において出願されていますが、特定の技術分野に偏らないように、かつ、比較的理解しやすいものをピックアップしております。なお、以下の事例における発明概要は、理解を助けるために発明を要約したものであり、発明を必ずしも正確に示すものではないこと、また、コメントも筆者個人の主観に基づくものであることをご承知おきください。
<発明概要>生成AIを利用して無人飛行機の動作プログラムを生成するシステム。このシステムでは、生成AIがユーザの表情、声などからユーザの感情を推定し、推定したユーザの感情に応じて無人飛行機の行動パターンを調整する。
<特許番号>特許7628640
<出願人>ソフトバンクグループ株式会社
【請求項1】
生成AIを利用して複数の無人航空機を同時に制御するためのシステムであって、
ユーザからの自然言語の指示を受け取り、AIによって解析された後、前記無人航空機の動作プログラムを生成する生成手段と、
前記ユーザの感情を認識する認識手段と、
前記認識手段によって認識された前記ユーザの感情に応じて前記無人航空機の行動パターンおよびカメラ設定を調整する感情反映手段と、を含むシステム。
<コメント>ユーザの感情を無人飛行機の飛行パターンに反映させるために生成AIを活用した発明です。この発明は、例えば、ユーザが喜びを示している場合に無人飛行機をダイナミックな飛行パターンで飛行させることができます。
<発明概要>未成約顧客に適したセールストーク例を出力する営業支援システム。未成約顧客の年齢、性別、年収などの属性情報が入力されると、未成約顧客に適したセールストーク例を生成するためのプロンプトを作成して大規模言語モデルに入力し、セールストーク例を大規模言語モデルに出力させる。
<特許番号>特許7628332
<出願人>ライフデザインパートナーズ株式会社
【請求項1】
情報処理システムが、未成約顧客に適したセールストーク例を出力することにより営業支援を行う方法であって、
前記情報処理システムが、顧客の属性情報及びこれに関連付けられた成約因子を含む教師データにより、前記未成約顧客の属性情報が入力されると、その属性情報と相関する成約因子を予測成約因子として出力するように機械学習された成約因子予測モデルを用いて、入力された前記未成約顧客の属性情報から前記予測成約因子を出力するステップと、
前記情報処理システムが、前記未成約顧客の予測成約因子とそれを予測するために用いた前記属性情報とに基づいて、前記未成約顧客に適したセールストーク例を生成するためのプロンプトを作成して大規模言語モデルに入力することにより、前記未成約顧客に適したセールストーク例を取得するステップとを含み、
前記属性情報は、年齢情報、性別情報、年収情報、婚姻情報及び子供情報を含むとともに、
前記属性情報は、職業情報、表情情報、洋服の色目情報、会話のペース情報、会話の抑揚情報及び会話の口調情報の少なくとも一つをさらに含む、
ことを特徴とする営業支援方法。
<コメント>生成AIを活用して営業支援を行うSales Techに関する発明です。この発明は、未成約顧客の属性に応じたセールストーク例を生成AIに出力させることができます。
<発明概要>ゲームで獲得されたオブジェクト(アイテム)の外観などに関する詳細データを生成AIに入力して、オブジェクトに関するストーリーデータを生成AIに出力させる。
<特許番号>特許7626896
<出願人>株式会社コロプラ
【請求項1】
コンピュータを、取得したオブジェクトの詳細データを、生成AIに入力して、前記オブジェクトに関連するストーリーデータを生成させる生成手段として機能させ、
前記生成手段は、前記詳細データのうちの少なくとも一部が決定された後で且つ前記ストーリーデータを含む第1画面の表示を指示する第1操作がなされる前に、前記生成AIに前記ストーリーデータを生成させる、プログラム。
<コメント>ゲームに生成AIを活用した事例です。生成AIにオブジェクトのバックストーリーを生成させることにより、オブジェクトの価値を高めたりユーザに興趣を与えたりすることができます。
<発明概要>新聞記事の文章データ(モデル文章データ)と、その文章データ中に回答が存在する質問及びその質問に対する回答の出力指示とを言語モデルに入力して、質問と回答とのペアを言語モデルに出力させる。また、言語モデルから出力された質問を記事のペイウォール画面に表示させる。
<特許番号>特許7624108
<出願人>株式会社日本経済新聞社
【請求項1】
文章データの識別情報を受信する受信部と、
前記文章データの識別情報に紐づけられた文章データを、文章データベースから取得する文章データ取得部と、
前記文章データの識別情報に紐づけられた質問回答データを、質問回答データベースから取得する質問回答データ取得部と、
前記文章データおよび前記質問回答データを送信する送信部とを備え、
前記質問回答データベースは、複数の質問回答データを含み、
前記質問回答データは、モデル文章データと前記モデル文章データ中に回答が存在する質問の出力の指示とを、言語モデルに入力することで得られた質問と、前記文章中の回答とが紐付けられたデータである、情報処理装置。
<コメント>新聞記事の内容についての質問と回答とをその新聞記事に基づいて生成AIに生成させる技術に関する発明です。質問と回答を出力させる点に特徴があります。
<発明概要>取引対象の商品に関する複数の投稿文を生成AIに入力してこれらの投稿文の要約文を生成AIに生成させる。要約文における肯定的な内容と否定的な内容の比率は、生成AIに入力される投稿文におけるそれらの比率と同等となるように生成される。
<特許番号>特許7606028
<出願人>楽天グループ株式会社
【請求項1】
ユーザにより投稿された取引対象に対する投稿文を取得する投稿文取得部と、
ユーザにより投稿された取引対象に対する評価が肯定的な評価であるか否かに関する投稿評価結果を取得する投稿評価結果取得部と、
前記投稿文取得部が取得した前記投稿文と、前記投稿評価結果取得部が取得した前記投稿評価結果と、前記投稿評価結果に基づく肯定的な内容と否定的な内容との比率となるように調整した取引対象に対する前記投稿文を要約した第1要約文を生成する指示とを大規模言語モデルに送信することにより、前記投稿評価結果取得部が取得した前記投稿評価結果に基づく肯定的な内容と否定的な内容との比率となるように調整された前記第1要約文を取得する第1要約文取得部と、
を備える、
情報処理装置。
<コメント>多くの投稿文に関する要約を生成AIに生成させる装置に関する発明です。この発明を利用することにより、ユーザは、要約文を参照すればよく、商品に関する多くの投稿文を閲覧する必要がなくなります。
<発明概要>特許の審査基準、審査ガイドライン、裁判例などを学習した学習モデルに、拒絶理由を入力して応答案を出力させるシステム。
<特許番号>特許7586386
<出願人>株式会社レゾナック
【請求項1】
特許関連書面の作成作業を支援する応答書面案作成支援装置と通知書面案作成支援装置とを有する特許関連書面作成支援システムであって、
審査基準、審査ガイドライン、裁判例、及び判例の情報の少なくともひとつを蓄積する第1のデータベースと、
出願の審査経緯の情報を蓄積する第2のデータベースと、
前記審査経緯の情報に含まれる出願書類書面、特許庁からの通知書面、及び前記通知書面に対する応答書面の関係を学習した第1の大規模言語モデルを用いて、新たに取得した出願書類書面及び特許庁からの通知書面から、応答書面の案文を作成する応答書面案作成部と、
前記審査経緯の情報に含まれる出願書類書面、特許庁からの通知書面、及び前記通知書面に対する応答書面の関係を学習した第2の大規模言語モデルを用いて、新たに取得した出願書類書面及び応答書面から、特許庁からの通知書面の案文を作成する通知書面案作成部と、
作成した案文を表示させる表示制御部と、
を有し、
前記応答書面案作成部は、前記新たに取得した出願書類書面及び前記通知書面案作成部が作成した前記特許庁からの通知書面の案文から、前記応答書面の案文を作成する
特許関連書面作成支援システム。
<コメント>特許の出願手続きにおける応答案の作成に生成AIを活用する発明です。大規模言語モデルの学習に利用するデータ、および出力されるデータに特徴があります。
<発明概要>ユーザの表情、声のトーンなどに基づいてユーザの感情を特定し、業界、ターゲット層、サービス内容、および特定したユーザの感情の状態を生成AIに入力してサービスの名称を出力させるシステム。また、システムは、出力された名称の各国での登記可能性、および商標権侵害の可能性の有無を判断する。
<特許番号>特許7597971
<出願人>ソフトバンクグループ株式会社
【請求項1】
感情エンジンを用いて、ユーザの感情状態を特定する手段と、
特定のパラメータに基づき名称を生成する手段と、
生成された名称の各国での登記可能性を確認する手段と、
生成された名称が各国で商標侵害にならないかを確認する手段と、
上記確認結果をリスト化する手段と、
登記の申請情報を整理する手段を含み、
前記生成する手段は、ユーザの感情状態と、前記ユーザから提供された前記特定のパラメータとしての業界、ターゲット層、及びサービス内容を組み合わせたプロンプト文に基づいて、生成AIモデルを用いて、名称を生成するシステム。
<コメント>サービスの名称を決定ために生成AIを活用した発明です。名称を決定する際にユーザの感情を考慮している点に特徴があります。
<発明概要>ケア対象者又はその家族の希望、およびその希望を実現するために解決が必要な課題等を生成AIに入力することによってケアプランを出力させる。
<特許番号>特許7607892
<出願人>株式会社ゼロワン
【請求項1】
ケア対象者又はその家族の希望、前記希望を実現するために解決が必要な課題、及び前記課題の解決のために設定される目標のうち1又は2つの情報を含み、前記課題を解決するため若しくは前記目標を達成するために必要な実施事項を実施する期間若しくは頻度又は前記目標を達成する達成期限を生成する要求を含むリクエストを大規模言語モデルに入力する入力手段と、
前記リクエストに対して前記大規模言語モデルから出力される情報を取得する取得手段とを備えることを特徴とするケア支援システム。
<コメント>ケア対象者などのケアに対する希望などに基づいてケアプランを生成AIに生成させる発明です。生成AIに入力する情報、および生成AIから出力される情報に特徴があります。
<発明概要>ユーザと会話を行うアバターに関する発明。ユーザへの送信メッセージの生成に際し、過去にユーザとやり取りした過去メッセージをプロンプトとしてLLMに入力するが、古い過去メッセージは要約して入力し、さらに、過去メッセージが古いほど短い要約を作成する。これにより、効率的かつ効果的な会話メッセージを生成することができる。
<特許番号>特許7620369
<出願人>株式会社I'mbesideyou
【請求項1】
ユーザとの間で送受信したメッセージである過去メッセージを前記ユーザに対応付けて記憶するメッセージ記憶部と、
対話相手の前記ユーザに対応する前記過去メッセ-ジと新規に前記ユーザに送信するメッセージである送信メッセージを生成する指示とを含むプロンプトを大規模言語モデルに与えて前記送信メッセージを生成するメッセージ生成部と、
削除される前記過去メッセージを要約した要約メッセージを作成する要約部と、
を備え、
前記メッセージ生成部は、前記対話相手のユーザに対応する前記過去メッセージの一部を前記プロンプトから削除し、削除される前記過去メッセージに代えて前記要約メッセージを前記プロンプトに含め、
前記要約部は、古い前記過去メッセージほど短い前記要約メッセージを作成すること、
を特徴とする情報処理システム。
<コメント>送信メッセージの生成方法に特徴があります。過去メッセージが古いほど送信メッセージへの反映の度合いを小さくすることができます。
<発明概要>過去の決算報告書から財務諸表を生成し、さらに、対象企業の経営者へのインタビューまたは質問事項に対する回答を取得して学習モデルに入力して要約文を出力させ、要約文を財務諸表とともに出力するシステム。
<特許番号>特許7626505
<出願人>GIP株式会社
【請求項1】
複数の年度それぞれにおける対象企業の決算報告書を示す情報が含まれる決算報告書情報を取得する決算情報取得部と、
前記決算情報取得部によって取得された前記決算報告書情報によって示される複数の決算報告書それぞれからテキストを取得するテキスト取得部と、
前記テキスト取得部によって取得されたテキストから、複数の勘定科目および合計項目を含む項目を示す項目情報と、各項目に対応する金額を示す金額情報を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって抽出された前記項目情報および前記金額情報に基づいて、前記各勘定科目および前記合計項目における金額の推移に関する情報を含む財務諸表を生成する財務諸表生成部と、
前記対象企業の経営者へのインタビューまたは質問事項への回答を示す回答情報を取得する回答情報取得部と、
前記回答情報取得部によって取得された前記回答情報を、入力された文章を要約して出力するように機械学習された学習済みモデルに入力して要約文を生成する要約生成部と、
前記財務諸表生成部によって生成された前記財務諸表と、前記要約生成部によって生成された前記要約文を合わせて出力する出力部と、
を有する財務デューデリジェンス資料作成支援装置。
<コメント>財務デューデリジェンス資料の作成に生成AIを活用した事例です。財務諸表と経営者へのインタビューの要約とを合わせて出力する点に特徴があります。
今回ピックアップした特許は、AIを各事業領域に適用したAI適用発明です。AI適用発明ではAIそのものに特徴はなく、主に、AIへの入力データ、およびAIからの出力データ、または、AIが学習に用いる学習データに特徴があります。例えば、事例2では、入力データが顧客の属性、出力データがセールストーク例です。また、事例4では、入力データは新聞記事、出力データが新聞記事に関する質問とその質問に対する回答です。また、事例6では、特許の審査基準、審査ガイドライン、および裁判例などが学習データとして用いられています。
このように、入力データ、出力データ、または学習データを具体的に特定することにより、AI適用発明に関する特許を取得することが可能な場合があります。また、今回具体例としてピックアップはしませんでしたが、プロンプトの生成に特徴があったり、生成AIに入力するデータの前処理、学習データの前処理等に特徴があったりする場合も特許を取得することができる場合があります。つまり、AIコア技術に限らず、AI適用発明でも特許を取得して貴社の事業を守ることができる可能性があります。
本記事では、特許の活用方法、特許を取得することのメリットなどについては触れませんが、特許は、スタートアップ企業が事業価値を高めるために利用できる有効な手段のひとつです。生成AIを活用した事業を展開される場合には特許の取得を検討されることをお勧めします。
法律事務所ZeLoの知財部門では、国内外の特許出願に限らず、出願前の調査や侵害調査、企業内部で行われた発明の取扱いを定める職務発明規程の作成、出願管理業務・そのノウハウの提供、特許紛争まで、企業の知財部として必要とされる様々な業務をワンストップで対応します。特許出願を検討している方や自社の知財業務で気になることがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。