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【弁護士が解説】カーボン・クレジットの概要(後編)~関連する法律・留意点など~

2020年10月、日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言し、これに向けた動きが加速しています。日本政府が目標として掲げるカーボンニュートラルとは、人為的な温室効果ガスの排出量と人為的な温室効果ガスの除去量が釣り合っている状態を意味しています。したがって、カーボンニュートラル達成のためには、再生可能エネルギーの導入などによる排出量削減が必要になりますが、排出量削減に努めたとしても一定の温室効果ガスは排出されてしまいます。この点、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動への投資などを行うことでこれを埋め合わせるカーボン・オフセットという考え方があり、その文脈でカーボン・クレジットの活用も検討されてきています。「【弁護士が解説】カーボン・クレジットの概要(前編)~類型・認証要件・日本国内の動向~」では、カーボン・クレジットの類型や近時の動向について解説しました。後編では、カーボン・クレジットに関連する法律・留意点などを解説します。

【弁護士が解説】カーボン・クレジットの概要(後編)~関連する法律・留意点など~
SUSTAINABILITY
PROFILE

2017年東京大学法学部卒業、同年司法試験合格。2018年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、同年西村あさひ法律事務所入所。2022年7月、法律事務所ZeLo参画。スタートアップ・ファイナンスやストック・オプションの設計・発行を含む、スタートアップ企業に対する包括的な支援を強みとしつつ、M&A案件、競争法が問題となる案件などにも携わる。また、地球温暖化・気候変動といった環境問題に対する取組み、ビジネスと人権の理解促進といったテーマに関心を有する。

カーボン・クレジットの取引に関する法律

まず、現時点では、日本国内において、カーボン・クレジットの取引を包括的に規律する法律は存在しません。すなわち、基本的には、日本国内において、カーボン・クレジットの売買などは自由に行うことができます。

例外的に、銀行法、金融商品取引法及び保険業法との関係では、カーボン・クレジットの取引が業務範囲内にあるかという観点から問題となります。以下では、具体例として金融商品取引法を紹介します。

金融商品取引法第35条
2 金融商品取引業者は、金融商品取引業及び前項の規定により行う業務のほか、次に掲げる業務を行うことができる。
(略)
七 その他内閣府令で定める業務

金融商品取引業等に関する内閣府令第68条
十六 算定割当量(地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)第二条第七項に規定する算定割当量その他これに類似するものをいう。次号において同じ。)の取得若しくは譲渡に関する契約の締結又はその媒介、取次ぎ若しくは代理を行う業務
十七 次に掲げる取引又はその媒介、取次ぎ若しくは代理を行う業務
イ 当事者が数量を定めた算定割当量について当該当事者間で取り決めた算定割当量の相場に基づき金銭の支払を相互に約する取引その他これに類似する取引
(略)

前提として、金融商品取引業者のうち、第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者には業務範囲に関する規制があり、行うことができる業務が一定の範囲に限定されています(金融商品取引法第35条第1項及び第2項)(なお、第二種金融商品取引業又は投資助言・代理業のみを行う者は、カーボン・クレジットに係る業務を制限なく行うことができますが、届出が必要になる場合があります(金融商品取引法第29条の2第1項第11号及び第31条第1項)。)。

その上で、取り扱おうとするカーボン・クレジットが、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)第2条第7項に規定される算定割当量に類似するものとして、「算定割当量」(金融商品取引業等に関する内閣府令第68条第16号及び第17号)に該当する場合、金融商品取引業者は業務範囲規制に抵触せず、一定の業務を行うことができるとされています。

カーボン・クレジットの「算定割当量」該当性については、金融庁が公表している「カーボン・クレジットの取扱いに関するQ&A」(2022年12月26日公表)を踏まえると、以下のとおり整理されます。

  • J-クレジット及びJCMクレジット(二国間クレジット制度)は「算定割当量」に該当すると考えられます。
  • ボランタリークレジットについても、個別具体的な判断にはなるものの、Verified Carbon Standard(VCS)のように、審査・承認手続が厳格であり、レジストリによる管理がされるなど帰属が明確であるものは、「算定割当量」に該当する可能性が高いです。

したがって、J-クレジット、JCMクレジットに加えて、VCSのようなボランタリークレジットは、第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者であっても、

  • 当該クレジットの取得若しくは譲渡に関する契約の締結又はその媒介、取次ぎ若しくは代理(同内閣府令第68条第16号)
  • 当該クレジットのデリバティブ取引又はその媒介、取次ぎ若しくは代理(同内閣府令第68条第17号)

を行うことができます。また、銀行や保険業者についても、第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者と概ね同様の整理がされています。

カーボン・クレジットの取引に関する留意点

近時、前編で言及した東京証券取引所のカーボン・クレジット市場に加え、民間事業者の提供する取引プラットフォームも現れており、今後、カーボン・クレジット取引は増加することが予想されます。現在のカーボン・クレジットを取り巻く状況は、暗号資産の黎明期と類似するとも言われており、法規制も含む動向に注視が必要です。

【弁護士が解説】カーボン・クレジットの概要(前編) ~類型・認証要件・日本国内の動向~

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また、仮に法規制の動きがなくとも、カーボン・クレジット取引に際しては、対象となるカーボン・クレジット特有のリスクを検討し、必要に応じた手当てが必要となります。

まず、多くのカーボン・クレジットは、レジストリへの記録により管理され、当該記録が権利移転の効力要件とされています。カーボン・クレジットの法的性質が定かでないことにも鑑み、確実に権利移転を受けられるような条項を定めておくことが重要です。

また、売主から買主にレジストリの名義を変更するのではなく、買主のために無効化・償却をするケースも見られます。その場合、確実に無効化・償却がされ、その証明書の交付を受けられるような条項を定めておくことが重要です。

さらに、プロジェクト現場における人権侵害が第三者の人権団体から指摘されたことにより、当該プロジェクトに基づくカーボン・クレジットの発行が中止される事態も発生しています。このような事態に鑑みれば、取引対象となるカーボン・クレジットの全部又は一部が発行に至らない(入手できない)リスクを踏まえた条項を定めておくことも重要です。

カーボン・クレジットの活用方法

前編で整理したとおり、カーボン・クレジットには様々な種類がありますが、概ね以下のような活用が認められています。

温対法

温対法における排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の調整後排出量の報告では、J-クレジット及びJCMクレジットの活用が認められています。

省エネ法

エネルギーの使用の合理化および非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)の定期報告における非化石エネルギー使用量及び共同省エネルギー事業の報告では、J-クレジットの活用が認められています。もっとも、全てのJ-クレジットを等しく活用できるわけではないため、目的との関係で、J-クレジットの種類には留意が必要です。

GXリーグ

GXリーグにおける排出量実績の報告では、適格カーボン・クレジットとして認められているJ-クレジット及びJCMクレジットの活用が認められています。今後、他のカーボン・クレジットについても活用が認められる可能性があります。

自主的なカーボン・オフセット

環境への貢献のPR、企業のブランディングなどの目的であれば、J-クレジットなどに加えて、いわゆるボランタリークレジットの活用も認められます。

カーボン・クレジットの活用に関する留意点

特に、自主的なカーボン・オフセットのためにカーボン・クレジットを活用する場合には、環境に配慮しているように見せかける、いわゆるグリーンウォッシュに注意する必要があります。

2024年3月には「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」及び「カーボン・オフセットガイドラインVer.3.0」が改訂・公表されました(環境省ウェブサイト参照)。

これらによれば、カーボン・オフセットの取組みに対する信頼性確保の観点から、環境表示ガイドライン」も参照しつつ、消費者に誤解を与えないよう正確かつ十分な情報提供を行う必要があるとされており、グリーンウォッシュを防止するための1つの施策と言えます。

具体的には、カーボン・オフセットの対象活動の内容、カーボン・オフセットの対象とする活動の範囲・期間、算定排出量、温室効果ガス排出削減の取組内容、オフセット量又は算定排出量に対するオフセット比率、クレジットのプロジェクト名・タイプ、クレジットの発行年と排出削減・除去が行われた年、クレジットの無効化日・無効化方法などを公開することが必要とされています。

また、関連する動向としては、2022年12月、消費者庁が、生分解性プラスチック製品を販売した10社(エアガン用BB弾の販売事業者5社、ゴミ袋及びレジ袋の販売事業者2社、釣り用品の販売事業者1社並びにカトラリー、ストロー、カップなどの販売事業者2社)に対して、優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)に係る措置命令を出したことが挙げられます。

これらの事案は、各社が、投棄され又は埋め立てられても自然環境の中で微生物によって水と二酸化炭素に分解される生分解性を有するかのような表示をしていたものの、合理的根拠を示す資料がなかった(景品表示法第7条第2項)というものであり、まさに、環境に配慮しているように見せかけた表示に対する措置命令と評価できます。

このように、カーボン・オフセットの取組みが進んできていること、直近で環境に関連する表示に対する措置命令がなされたことなどを併せ考えれば、例えば、商品の料金とは別にオフセットにかかる料金を消費者から徴収する際に、料金の内訳が消費者にとって不明確であるような場合や、カーボン・オフセットを理由に「地球に優しい」といった抽象的な表現を用いる場合などには、景品表示法に基づく措置命令が出される可能性もあると考えられます。

なお、欧州では、2024年2月、「不公正取引方法指令」(Unfair Commercial Practices Directive)と「消費者権利指令」(Consumer Rights Directive)を改正する形で、「グリーン移行のために消費者の権利を強化する指令」(Directive on empowering consumers for the green transition through better protection against unfair practices and better information)が EU理事会により採択され、同年3月27日に発効されました。

この指令は「環境に優しい(environmentally friendly)」などの一般的な環境に関する主張につき、これを実証できない限り禁止する点や、カーボン・オフセットのみに基づき、環境に中立的である(neutral)、環境への影響を和らげる(reduced)、環境に好影響を与える(positive)などと主張することを禁止する点で、日本の動向とも軌を一にするものと言え、注目に値します。

カーボン・クレジットに関するご相談は弁護士へ

カーボン・クレジットに関する法的な取扱いは必ずしも明確ではないため、カーボン・クレジットに関連するサービスを設計したり、カーボン・クレジットの取引を行ったりする際には留意が必要です。

法律事務所ZeLoは、訴訟・紛争解決などの伝統的な企業法務領域はもちろんのこと、web3・AIなどの最先端領域や、新しいビジネスモデルに関する支援に強みを有しており、カーボン・クレジット創出事業者/カーボン・クレジット取引プラットフォーム事業者などに対するサポートや、パブリック・アフェアーズ部門を中心として規制当局に対する働きかけを行うこともできます。

また、新規ビジネスを行うに当たって資金を調達する際のサポート、カーボン・クレジット創出事業者/カーボン・クレジット取引プラットフォーム事業者などに対する出資・買収に関するサポートなどにも強みを有します。

個社のニーズやビジネスモデルに応じて、柔軟にアドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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