連載④:スタートアップ・ファイナンス本論~シード期の資金調達方法 デット・ファイナンス編
スタートアップは、事業を推進し拡大するにあたって、第三者からの資金調達を実施する必要があり、その資金調達方法については成長段階に応じて様々な選択肢があります。特にシード期のスタートアップにおいては、公的金融機関等からの融資制度等を用いた「デット・ファイナンス」や、エンジェル投資家・VC等に株式や新株予約権を発行する「エクイティ・ファイナンス」の資金調達方法を活用することが多いです。手法は様々あるため、自社のファイナンス目的や今後の展望に即して、適切な資金調達方法を選択・検討することが重要です。連載記事では、シード期の資金調達方法について、デット・ファイナンス、エクイティ・ファイナンスの2本に分けて、解説します。今回は、デット・ファイナンスについて、その概要を紹介します。
2011年東京大学法科大学院卒業。2013年弁護士登録(東京弁護士会所属)。2017年法律事務所ZeLo参画。主な取扱分野は、ベンチャー・スタートアップ、IPO、ジェネラル・コーポレート、ブロックチェーン・暗号資産・トークンファイナンス、FinTech、ファンド、訴訟・紛争解決、知的財産権、データ保護法、サイバーセキュリティ、IT・IoT、AI、ファイナンス。著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)など。
シード期スタートアップの資金調達
スタートアップは、成長段階に応じて資金調達を行います。創業後間もないシード期においては、一般的な銀行融資ではなく公的金融機関等からの融資制度(デット・ファイナンス)や、エンジェル投資家・シード投資を行うVC等から、数百万円~数千万円程度の資金調達(エクイティ・ファイナンス)をすることが多くあり、エクイティ・ファイナンスの方が主流といえます。
また、シード期のスタートアップはバリュエーションが低く、優先株式を用いるコストが割に合わないため、将来の優先株式の発行に備えた「コンバーティブル投資手段」が活用されるケースが多い点が特徴的です。(コンバーティブル投資手段の詳細は、経済産業省「コンバーティブル投資手段」に関する研究会『「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン』(公開:2020年12月28日)が参考になります。)
以下では、シード期のデット・ファイナンスについて、公的な創業融資・制度融資といった制度などを取り上げ、その概要を紹介します。
※資金調達の手段や特徴などの概論はこちらをご参照ください。
日本政策金融公庫の融資制度
100%政府出資の政府系金融機関である株式会社日本政策金融公庫は、創業時支援としてシード期のスタートアップを含む創業者・中小企業に対し有利な条件での融資制度を複数設けています。
以下にて、日本政策金融公庫の主な制度を抜粋してご紹介します。
その他融資制度については、日本政策金融公庫のウェブサイトで利用目的別に制度が整理されておりますので、ご参照ください。
【日本政策金融公庫の融資制度】
融資制度名称 | 概要 |
---|---|
新創業融資制度 | ① 対象者:新事業開始~事業開始後税務申告2期終了前 ② 融資限度額:3000万円(うち運転資金1500万円) ③ 特徴:無担保・無保証人(原則) |
新規開業資金 | ① 対象者:新事業開始~事業開始後おおむね7年以内 ② 融資限度額:7200万円(うち運転資金4800万円) ③ 特徴: ・長期・固定金利 ・担保・保証人は応相談 |
資本性ローン(国民生活事業) | ① 対象者:次の(ⅰ)(ⅱ)を充足 (ⅰ)新規開業資金(事業に新規性・成⻑性がみられる等の場合に限定)等の融資制度の対象 (ⅱ)次の要件を充足 ・地域経済活性化にかかる事業を行うこと ・所得税等を完納(原則) ② 融資限度額:7200万円 ③ 特徴: ・借入債務を金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことが可 ・無担保・無保証人 |
信用保証協会の制度融資
制度融資とは、金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が債務保証し、地方自治体(都道府県、市区町村等)が利息を一部負担することによって、低金利での融資が受けられる制度をいいます。
制度融資は、据置期間(元本の支払が猶予される期間)が長く、金利が低く設定されるため、スタートアップに有利といえます。
原則として、経営者保証が必要である点には注意が必要ですが、最近では、創業時の経営者保証を不要とする創業時の制度融資(スタートアップ創出促進保証)が登場し、2023年3月15日から開始されています。
制度融資の利用条件や融資限度額、利率、返済期限等の条件は、地方自治体や制度によって異なります。そのため、詳細は各地方自治体の制度を参照する必要があります(例:東京都庁ウェブサイト「東京都中小企業制度融資」(最終閲覧:2023年8月10日))。
【スタートアップ創出促進保証制度概要】
保証対象者 | 創業予定者(これから法人を設立し、事業を開始する具体的な計画がある者) 分社化予定者(中小企業にあたる会社で事業を継続しつつ、新たに会社を設立する具体的な計画がある者) 創業後5年未満の法人 分社化後5年未満の法人 創業後5年未満の法人成り企業 |
保証限度額 | 3,500万円 |
保証期間 | 10年以内 |
据置期間 | 1年以内(一定の条件を満たす場合には3年以内) |
金利 | 金融機関所定 |
保証料率 | 各信用保証協会所定の創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せした保証料率 ※保証料率は各信用保証協会にお問い合わせ下さい。 |
担保・保証人 | 不要 |
その他 | ・創業計画書(スタートアップ創出促進保証制度用)の提出が必要。 ・保証申込受付時点において税務申告1期未終了の創業者にあっては創業資金総額の1/10以上の自己資金を有していることを要する。 ・本制度による信用保証付融資を受けた方は、原則として会社を設立して3年目および5年目のタイミングで中小企業活性化協議会による「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」(後日掲載予定)に基づいた確認および助言を受けることを要する。 |
取扱期間 | 2023年3月15日より保証取扱いを開始。 |
補論:補助金・助成金
スタートアップにおいて給付が受けられる制度の一つとして、補助金・助成金が挙げられます。
補助金とは、主に経済産業省や地方自治体が管轄する、事業・経済活動を支援するために支給される金銭をいい、助成金とは、主に厚生労働省が管轄する、雇用・労働関係の改善を支援するために支給される金銭をいいます(なお、「補助金」「助成金」との名称が付されているものでも実質は異なる場合もあります)。
補助金・助成金は、いずれも返済義務のない金銭支給となりますが、いずれも資金支出が先行し、相当期間を経て事後的に支給されるものであるため、通常の資金調達方法とは異なる点に注意が必要です。
なお、補助金と助成金は、以下のような相違点があります。
【補助金と助成金の主な相違点】
補助金 | 助成金 | |
---|---|---|
審査・受給率 | 形式審査+実質審査・低確率 | 形式審査・ほぼ100% |
給付額 | 多(数百万円~数億円以上) | 少(数十万~百万円程度) |
募集時期・期間 | 通年・長期間 | 区々・数週間程度 |
【補助金・助成金の例】
名称 | 概要 |
---|---|
ものづくり補助金 | 詳細:全国中小企業団体中央会「ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト」 ものづくり・サービスの新事業創出のための、革新的な設備投資やサービスの開発、試作品の開発等に対する補助金 |
IT導入補助金 | 詳細:一般社団法人 サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2023」 業務効率化・自動化のためのITツールの導入(DX化)に対する補助金 |
キャリアアップ助成金 | 詳細:厚生労働省「キャリアアップ助成金」 有期雇用労働者等に対する正社員化、処遇改善の取組(キャリアアップ)を実施した事業主に対する助成金 |
弁護士などの専門家とも連携し、適切な資金調達方法の検討を
今回は、シード期のデット・ファイナンスについて、公的な創業融資、制度融資、補論として補助金・助成金を取り上げ、その概要を紹介しました。次回の記事では、シード期スタートアップのエクイティ・ファイナンスをテーマに、普通株式、みなし優先株式、J-KISS、新株予約権付社債(CB)といった主要な資金調達方法の概要やメリット・デメリットなどをお伝えします。
スタートアップにとって、資金調達は、その成長を左右する重要なものであるため、自社のファイナンス目的や今後の展望に即して、慎重に検討する必要があります。
法律事務所ZeLoは、シード期からレイター期まで、スタートアップ・投資家の両サイドでの豊富な資金調達案件の実績に基づき、資本政策やトレンドを踏まえた手法の選択・設計も含めた、実務に即したアドバイスを提供しています。
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