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【速報】ドワンゴ社の特許訴訟にて「属地主義」に対する判断基準が提示。弁理士が概要を解説

2023年5月26日、動画配信サービスを手掛けるドワンゴ社が、動画にコメントを流す特許を侵害されたとして、FC2社に配信差し止めと10億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が知財高裁の大合議より出されました。大合議判決では、請求を棄却した一審判決を覆してFC2社側の特許侵害を認め、配信差し止めと約1100万円の賠償を命じました。今回の判決では、グローバル化とIT化が進む昨今において、日本の特許権の原則「属地主義」の判断基準を提示しています。本記事では、判決概要とその判断基準について、法律事務所ZeLoの青木孝博弁理士が速報としてお届けします。

【速報】ドワンゴ社の特許訴訟にて「属地主義」に対する判断基準が提示。弁理士が概要を解説
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「属地主義」とは

皆さんは「属地主義」という言葉をご存知でしょうか?これは、法律の適用範囲について、その法律が施行されている国の領域内に限ることを意味しています。わかりやすく言えば、日本の特許権は日本でしか使うことができません。米国で競合会社がビジネスをしている場合、それに対して日本の特許権のみでは対抗することができず、それに対抗するには米国で特許権を持つ必要があります。

クラウドサーバなどを利用する場合の「属地主義」による問題

ところで、スタートアップの皆さんは、AWS等などのクラウドサーバを利用したシステムの開発を行うケースが多いと思います。そのようなシステムに基づいて特許出願を行うと、当該クラウドサーバで行われている処理を特徴として、例えば下記のような「…システム」という権利が取得されることがあります。

サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
前記サーバは、
前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
前記コメント情報は、
前記第1コメント及び前記第2コメントと、
前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、
前記端末装置の表示装置には、
前記動画と、
前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、
が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、コメント配信システム

出典:特許情報プラットフォームJ-PlatPat(最終閲覧日:2023年5月29日)より引用・太字下線は筆者による強調

ここで、皆さんは自社が開発しているシステムにおいて、そのクラウドサーバがどこの国にあるのかご存知でしょうか?多くのクラウドサーバでは、その設置位置が非公開で、仮にどこかにあるとしても日本国内にある可能性は低いのではないでしょうか
そこで問題となるのが、冒頭でご紹介した「属地主義」です。上記のような「…システム」という特許権を取得し、この特許権を使って競合他社のビジネスに対抗しようと思った場合、一見すると、競合他社のシステムで使われているサーバが日本国内に存在していなければ、対抗することは不可能なように思えます。仮に「・・・システム」という特許権を持っていたとしても、サーバが日本国外にある場合には、競合他社にその特許権を簡単に回避されてしまうこととなり得ます。

ドワンゴ社の特許技術を巡る知財高裁による大合議判決

2023年5月26日に、この論点に関して、非常に重要な大合議判決が知財高裁によって出されました[1]。知財高裁の正式名称は、「知的財産高等裁判所」で、知的財産に関する事件を専門的に扱う裁判所で、地方裁判所(一審)が管轄した知財に関する判決や、特許庁が出した審決について争うところです。そして、「大合議判決」というのは、知財高裁で扱う事件の中でも、一定の信頼性のあるルール形成及び高裁レベルでの事実上の判断統一が要請されるような事件において出されるものであり、この点からも、この論点の重要性がお分かりいただけると思います[2]

この事件は、原告(=特許権者)が株式会社ドワンゴ(以下、「ドワンゴ社」)で、被告(=特許権によって対抗された側)がFC2, Inc.および株式会社ホームページシステム(以下、「FC2社」)となります。対象となった特許は、皆さんも一度はご覧になったことがあるかもしれませんが、動画配信で配信される動画に重ねてコメントが右から左に流れるように表示させるためのシステム(特許第6526304号)です。

 一審では、FC2社のシステムについて、動画配信用サーバやコメント配信用のサーバはいずれも米国内に存在しており、日本国内に存在していないことを理由として、属地主義の原則により、ドワンゴ社の特許権は侵害していないと判断されました[3]。

これに対し、今回の知財高裁による大合議判決では、一審の判断を覆し、サーバが米国内に存在していた(=日本国内に存在していない)としても、FC2社の特許権の侵害を認めました
ただし、これは「属地主義」の採用を日本がやめたというわけでは決してありません。一定の場合に、そのサーバが外国にあったとしても、FC2社の行為が日本国内で行われものに該当するというものであります。したがって、「一定の場合」がどのように判断されるのかを理解することが非常に重要です。

大合議判決では、この「一定の場合」に該当するか否かは、以下の①~④の要素を例示して、これらを総合考慮するとしています。

①ネットワーク型のシステムを新たに作り出す行為の具体的態様
②当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割
③当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所
④当該システムの利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響

出典:知的財産高等裁判所大合議事件「令和4年(ネ)第10046号 特許権侵害差止等請求控訴事件 」より引用・加工

実際に、ドワンゴ社対FC2社の事件では、大合議判決において以下のように判断されています。

総合考慮される各要素について

「具体的態様」について

米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる。

「当該発明において果たす機能・役割」および「当該発明の効果が得られる場所」について

被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は本件発明1の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている

「経済的利益に与える影響」について

被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することが  できるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るものである。
そして、当該事件では、上記を総合考慮した結果、FC2社のサーバが米国、つまり日本国外にあったとしても、FC2社の特許権の侵害を認めるに至っています。

ちなみに、大合議判決では、上記①~④について、「…『等』を総合考慮し」と記載されています。つまり、必ずこの①~④のみで判断しなければいけないわけではなく、場合によっては他の要素も考慮されることが示唆されています。

今回の判決を踏まえて今後必要となる対応

今回の大合議判決は、AWSなどのクラウドサーバを使ったシステム開発をするスタートアップ企業などにとっては極めて重要な判決となります。
特に、自社が特許出願を行う場合は、日本国内に存在するスマートフォンやPCなどが果たす機能を十分に理解して、この機能を特徴とした特許出願を行っていく必要があります。
 また、将来的にIPOなどを目指すうえで、自社が提供するシステムが他社の特許権を侵害していないかのリスクを正確に把握することは極めて重要です。その際に、「自社のシステムはサーバが国内にないから」という理由で特許権は侵害しないと判断していた場合には、これを機に再考する必要があります。

弁理士に相談のうえ、適切な知財戦略の構築・運用を

繰り返しになりますが、今回の大合議判決は、攻め(自身が特許出願を行って競合他社のシステムに対抗したい場合)と守り(自身のシステムが競合他社の特許権を侵害しないようにする場合)の両面において、極めて重要です。
今回の大合議判決を踏まえて、自社の知財戦略を見直したいという方やご不明な点などがございましたら、お気軽に法律事務所ZeLoまでお問い合わせください。


[1] https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/R4ne10046.pdf

[2] https://www.ip.courts.go.jp/aboutus/current/index.html#:~:text=%E7%9F%A5%E7%9A%84%E8%B2%A1%E7%94%A3%E6%A8%A9%E4%BA%8B%E4%BB%B6,%E3%81%8C%E5%B0%8E%E5%85%A5%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82

[3] https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/124/091124_hanrei.pdf

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