【2022年6月7日公表】「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」「規制改革実施計画」の注目ポイント
2022年6月7日、岸田政権になって初めてのいわゆる「骨太の方針」、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」及び「規制改革実施計画」が閣議決定されました。国の政策方針を基礎づけるこれらの政策文書は、それぞれ数十ページに及ぶものであり、全てに目を通している人は極めて少ないかもしれません。ですが、これらの政策文書の記載内容からは、これから政府はどのように日本を変えていこうと考えているのかを読み解くことができ、ビジネス上も重要な示唆を得られる場合があります。是非、この記事をヒントに、ご自身のビジネスに関係のあるパートだけでも目を通していただければ幸いです。なお、当記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
2018年東京大学法学部卒業。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLo参画。主な取扱い分野は、スタートアップ・ファイナンス、M&A、パブリック・アフェアーズ、フィンテック、web3(ブロックチェーン/暗号資産/NFTなど)、ベンチャー・スタートアップ法務、ジェネラル・コーポレートなど。主な著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)、論文に「スタートアップの株主間契約における実務上の論点と対応指針」(NBL 1242(2023.5.15)号)など。
目次
政府の1年の方針が打ち出される「3つの閣議決定文書」
「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」とは
いわゆる「 骨太の方針 」は、正式名称を「経済財政運営と改革の基本方針」と言います。この文書は、内閣府に設置されている経済財政諮問会議での議論を取りまとめたものですが、同会議の機能は、「経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策に関する重要事項についての調査審議すること」とされています(内閣府設置法19条1項1号)。ここで押さえておきたいのは、毎年12月上旬に閣議決定される「予算編成の基本方針」についても、同会議で議論されているということです。
次年度予算は、各省庁で骨太の方針の閣議決定前から議論が始まっています。骨太の方針の閣議決定後、財務省により各省庁からの予算要求に関する本格的なヒアリングが行われ、年末に予算編成の基本方針が閣議決定された後に、政府予算案の確定、国会での審議といった流れを経て予算が成立します。この1年の流れにおいて、骨太の方針は重要な起点になる文書ということができるでしょう。
また、骨太の方針には、毎年副題が付けられておりますが、2022年の副題は「新しい資本主義へ ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」です。岸田政権に変わって初めての骨太の方針の策定であり、岸田政権の掲げる「新しい資本主義」が前面に打ち出されているといえます。
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」とは
次に、岸田政権が掲げる新しい資本主義の内容を示す文書として注目すべきなのが、「 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 」です。岸田政権の発足に伴い、いわゆる「成長戦略」を議論していた成長戦略会議が廃止され、その検討等を引き継ぐ会議体として設置された新しい資本主義実現会議において議論された内容及び与党における検討が取りまとめられた文書となっています(参考:「 『成長戦略会議の開催について』の廃止について 」(2021年10月15日内閣総理大臣決裁))。つまり、成長戦略の後継文書と考えることができるでしょう。
他方、従来の成長戦略会議では、議長を内閣官房長官とし、副議長を経済再生担当大臣・経済産業大臣、構成員を有識者(8名)として会議が構成されていました。議長である内閣官房長官は、必要があると認めるときは、その他の国務大臣を構成員として参加させ、または関係者に出席を求めることができるとされています(参考:「 成長戦略会議の開催について 」(2020年10月16日内閣総理大臣決裁))。
これに対し、新しい資本主義実現会議では、内閣総理大臣が議長を務め、副議長に新しい資本主義担当大臣・内閣官房長官、構成員として財務大臣・厚生労働大臣・経済産業大臣・有識者(15名)を採用しています。議長である内閣総理大臣は、必要があると認めるときは、構成員の追加または関係者の出席を求めることができます(参考:「 新しい資本主義実現会議の開催について 」(2021年10月15日 新しい資本主義実現本部決定)」)。このような会議体の構成の変化は、新しい資本主義のコンセプトでもある「成長と分配の好循環」における「成長と分配」への配慮が示されていると考えられます。
従来の「成長戦略」は、「骨太の方針」で示された中長期的な経済財政運営と改革の基本的な方針の下で、制度改正等の改革を具体化する役割を果たしていました(参考:「 成長戦略会議の設置について 」(2020年10月16日公開))。新しく策定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においては、骨太の方針にも示されている新しい資本主義の中身となる施策を具体化する・グランドデザインを含めて示す役割を果たしていると考えられます。また、従来の「成長戦略」と同様、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においても5年間の具体的な工程表が策定されています(参考:「 新しい資本主義実行計画工程表 」(2022年6月7日公開))。
「経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議のデマケについてご質問がありましたが、経済財政諮問会議というのは、正にマクロ経済と、それから財政の運営というものを担っている機関です。ですから、当然マクロ経済がどうなっているかということや、中長期的に見て、そのバランスがしっかり取れていくかを議論していく場所になります。更には、その進捗もしっかり見ていかなくてはいけませんし、それを実現するための予算の裏付けもここで議論をすることになります。毎年、骨太の方針を示しておりますが、これも経済財政諮問会議で示すということになります。
そして新しい資本主義の会議体では、これは正にそういったマクロ経済を上向かせていくために、成長と分配の好循環が必要であるという観点から、新しい資本主義をグランドデザインも含めてお示ししていく、そしてその中身をしっかり詰めていくという作業をしなくてはいけません。言ってみれば、岸田内閣の一番やらなくてはいけない、あるいは一番やりたいと思っている政策を議論する場が新しい資本主義実現会議になっており、そこで政策の中身を詰めていくということになります。
それらを結局、マクロの経済運営という視点から見た時、あるいは中長期的に見た時の財政運営との整合性がどうあるかということは、やはり経済財政諮問会議とある意味コラボをしながら整合性を取っていく必要があるわけでして、その両者でしっかりキャッチボールをしながら、最終的に岸田内閣としてどのような経済運営をしていくかが決まっていくということでして、そういう理解をしていただければと思います。」
参考:「 第2回経済財政諮問会議(令和4年3月3日)山際内閣府特命担当大臣記者会見要旨 」
「規制改革実施計画」とは
最後に、内閣府本府に設置されている規制改革推進会議での議論が取りまとめられているのが「 規制改革実施計画 」です。同会議では、「経済に関する基本的かつ重要な政策に関する施策を推進する観点から、内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革(情報通信技術の活用その他による手続の簡素化による規制の在り方の改革を含む。)に関する基本的事項を総合的に調査審議すること」と「諮問に関連する事項に関し、内閣総理大臣に意見を述べること」とされています(内閣府本府組織令32条1項)。規制改革実施計画の特徴は、政府が今後実施する規制改革の内容として、具体的に何をいつまでにどのように実施するのかが記載されているところです。本計画に定められた事項の実施状況については、全てフォローアップを行うこととされているため、その進捗状況についても随時確認をすることができます。
2022年の「規制改革実施計画」では、「デジタル原則を踏まえた規制の横断的な見直し」を重要項目として大きく取り上げていることに特徴があります。令和4年6月3日に開催された第4回デジタル臨時行政調査会において取りまとめられた「 デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン 」に基づき進められていくこととされており、こちらのプランも注目されます。
閣議決定文書を読み解く上での注目点
閣議決定は、合議体としての内閣の意思決定であり、その内容が表れているのが閣議決定文書です。そのため、もちろん文書の中身としてどのような内容が盛り込まれているのか、ということは非常に重要ですが、文章を読む際には、文末にも注目しながら読むことが肝要です。
例えば、規制改革実施計画の中でも、「検討を行う」、「周知する」といった表現から「必要な法案を提出する」といった表現まで文末の文言は様々です。特に、具体的な時期や実施内容が記載されている場合は、急速に政府での検討が進む場合もあるため、自身のビジネスに関連する事項があれば、その動きをよくフォローする必要があります。
また、毎年出される閣議決定文書は、過去のものと比較することで、今の政権がどのような分野に力を入れようとしているのかもよくわかります。目次を並べたり、取り上げられている紙幅を比べたりするだけでもその特徴を掴むことができると思います。
2022年の骨太の方針の注目ポイント
2022年の骨太の方針では、「新しい資本主義に向けた重点分野」として、「人への投資と分配」、「科学技術・イノベーションへの投資」、「スタートアップ(新規創業)への投資」、「グリーントランスフォーメーション(GX)への投資」、「デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資」が掲げられています。
ここで注目したいのは、スタートアップへの投資です。
これまでも、岸田政権の新しい資本主義を実現するために、その柱の1つである「科学技術・イノベーション」の中の要素の1つとして、スタートアップに対する支援が触れられてきました。例えば、第1次岸田政権発足後初めて行われた所信表明演説では、下記のように触れられています。
新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略とそして分配戦略です。まず、成長戦略の第一の柱は、科学技術立国の実現です。
参考:国会会議録検索システム「 第205回国会参議院本会議第2号 令和3年10月8日国会議事録 」
学部や修士・博士課程の再編、拡充など科学技術分野の人材育成を促進します。世界最高水準の研究大学を形成するため、十兆円規模の大学ファンドを年度内に設置をいたします。デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など、先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行います。民間企業が行う未来への投資を全力で応援する税制、実現していきます。
また、イノベーションの担い手であるスタートアップの徹底支援を通じて、新たなビジネス、産業の創出を進めます。
しかし、2022年の骨太の方針では、「科学技術・イノベーションへの投資」とは項目を分けて、「スタートアップへの投資」が1つの項目として取り上げられています。また、2021年の骨太の方針においては、イノベーションの促進及び対日直接投資の促進の文脈でそれぞれ一部にスタートアップという言葉が出てくるのみでした。さらに、2022年は骨太の方針の副題においても、「~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」として、スタートアップへの言及があります。
このような文章の建付けや過去との比較等からも、政権として力の入った施策ということを読み取ることができるでしょう。
骨太の方針に記載されている施策の具体例としては、以下が挙げられます。
- IPOプロセスの見直し
- ストックオプション等の環境整備
- 海外VCの誘致を含む国内外のVCに対する公的資本による投資拡大
- 個人保証等に依存しない形の融資への見直し
また、スタートアップ関連の施策については、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」でより詳細に取り上げられており、こちらもあわせて確認することで理解を深めることができます。
具体的な方向性についてはまだ明らかになっていない部分も多いですが、スタートアップ企業の事業展開に影響を与える可能性もあり、今後の動向に注目です。
今回は、政府のこれからの1年の方針が打ち出されている3つの閣議決定文書について触れました。今後の事業戦略を考える上で、政策文書も参考にしていただければ幸いです。