企業主導のルールメイキング~グレーゾーン解消制度・規制のサンドボックス制度・新事業特例制度~
こんにちは。弁護士の松田大輝です。法律事務所ZeLoでは、2020年12月、規制領域や法規制の未整備な分野に挑戦する企業への支援をさらに強化したいとの思いから「パブリック・アフェアーズ部門」を設立しました。2017年3月の事務所創設以来、最先端の領域における起業や新規事業立ち上げを目指すクライアントとともに、パブリック・アフェアーズに取り組んでまいりました。そこで得た知見を活かし、今後は新設した部門を中心にパブリック・アフェアーズの領域へ注力し、企業によるルールメイキングの実務を支援してまいります。以下では、企業主導のルールメイキングに活用できる制度について解説します。
新しい技術やビジネスモデルによってイノベーションや社会課題の解決に取り組む企業にとって、法規制がビジネスの障壁となることがしばしばあります。既存のビジネスを想定した法令が新規事業に対してどのように解釈・適用されるのか不明確であったり、そもそも現在の法規制や行政解釈の下では事業展開が困難であったりといったことが考えられます。
他方で、見方を変えれば、こうした領域においては、法規制の問題をクリアにすることが大きなブレイクスルーとなる可能性を秘めています。現実に対応した法解釈を確立したり、法令や通達の変更を実現したりすることが、新たな市場を切り開くことにつながるといえます。
こうした法規制の問題に企業がチャレンジすることは、様々な面でハードルが高いのも事実です。しかし、課題の最前線にいる企業のイニシアティブにより規制改革を実現すべく、事業者単位で活用できる制度の整備が進んでおり、徐々に実績も積み上がってきています。
以下では、主要な制度として、①グレーゾーン解消制度、②規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)、③新事業特例制度の3つを紹介します。
目次
グレーゾーン解消制度
グレーゾーン解消制度は、法規制の解釈・適用が不明確な場合に、事業者が、個別の事業計画に即して、あらかじめその適用の有無を確認できる制度です。
制度の活用場面としては、次のような場合を挙げることができます。
〇 従来の行政解釈を前提とすると、法規制の適用を受けてしまうリスクが高く、事業の実現が困難な場合
〇 法規制がどのように新規事業に適用されるかが見通せず、ビジネスの障害・リスクとなっている場合
〇 自社としてはビジネスの適法性を整理・確認できているものの、今後の事業展開や投資家・取引先への説明コストなどの観点から、行政の公式回答という「お墨付き」を得ておきたい場合
このように、グレーゾーン解消制度は、行政による法規制の解釈・運用の変更を試みるものから、ビジネスに関わる法的論点を確認的にクリアにしておくようなものまで、幅広い活用が想定されます。もっとも、あくまで既存の法規制の「解釈」の範囲内での解決を探る必要があること、従来の行政解釈の変更は本制度によっても相応に高いハードルとなることには留意が必要です。
グレーゾーン解消制度を利用する際の流れは下図のとおりです。事前相談期間を経た上で、事業者が事業所管大臣を通じて規制所管大臣に照会を行い、回答を得るという枠組みとなっています。
もっとも、実際にほとんどの期間を占めるのは事前相談の期間であり、回答が得られるまでの時間はこの期間に左右されます。事前相談は、基本的に事業所管官庁(主に経済産業省)を窓口として行います。事業所管官庁は、事業者と規制所管官庁の間に立って調整を行い、照会内容や回答方針を整理していきます。事前相談期間は、長い場合には1年を超えることもありますが、事業所管官庁の協力を得て規制所管官庁と調整できるという本制度の大きな特徴・意義にもなっています。
グレーゾーン解消制度の流れ
グレーゾーン解消制度の活用事例
規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)
規制のサンドボックス制度は、新たな技術・ビジネスモデルの実装に関して法規制が障害となっている場合に、事業者単位で国の認定を受けて実証を実施し、実証結果を活用して規制の見直しにつなげていくものです。2018年6月に施行された生産性向上特別措置法に基づいて創設された比較的新しい制度です。
具体的には、次のような場合などに活用を検討することができます。
〇 現行の法規制の下では事業を行うことができず、法律・政省令や通達などの規定の変更が必要となる場合
〇 事業の実施のためには行政による法規制の解釈・運用の変更や確認が必要だが、グレーゾーン解消制度の利用等によって直ちに期待する回答を得ることが難しいと考えられる場合
2つ目は法解釈のレベルでのアプローチですが、期間・場所などを限定した実証の場面に限ることで踏み込んだ法解釈を出してもらい、実証を通じてその妥当性を確認するといった活用が可能であるとされています。
規制のサンドボックス制度の活用の流れは、下図のようになっています。内閣官房を窓口とする事前相談を通して実証計画の内容を固めた上で、主務大臣に対して申請を行います。実証計画の認定後は、計画に基づいて実証を行い、結果を報告します。報告を受けた規制所管官庁は、規制の見直しについて検討をしなければならないとされています。
グレーゾーン解消制度と同様、期間・内容ともに事前相談の比重が大きくなっており、ケースバイケースではあるものの、事前相談期間として1年近く見ておく必要があります。
規制のサンドボックス制度の流れ
規制のサンドボックス制度の利用にあたっては、以下の点に留意する必要があります。
規制のサンドボックス制度の留意点
① 実証実験は原則として現行の法規制の枠内で行う必要があること
実証のために特例措置を設ける仕組みもあるものの利用のハードルが高く、原則として法令に違反しないようなスキームに調整して実証を行うこととなります。そのため、実証計画の策定においては、法令に適合する(暫定的な)スキームとしながらも、目標とする規制改革に意義のある実証内容とするための工夫が求められます。②〈実証計画の認定=規制の見直し〉ではないこと
特に法令改正を目標とする実証実験の場合、計画の認定を受けて実証を実施したとしても、直ちに規制の見直しが実現するわけではありません。実証計画の策定段階から、どのように最終的な規制の見直しにつなげていくのか、その過程でどう事業展開していくのかを考えておく必要があります。
規制のサンドボックス制度の活用事例
新事業特例制度
新事業特例制度とは、法規制が新規事業の支障となっている場合に、事業者の提案に応じる形で規制の特例措置を設けた上で、安全性等の確保を条件として、具体的な事業計画に即して、事業者単位で当該特例措置の適用を認める制度です。「特例措置」という形で直ちに規制改革に結び付けられる点が最大の特徴となっています。
新事業特例制度は、下図のように①規制の特例措置の創設と②当該特例措置の適用を受けるための事業計画の認定の二段階の仕組みとなっています。特例措置が一度創設されれば他の事業者でも活用することができ、この場合には第2段階のみが必要となります。
新事業特例制度の流れ
新事業特例制度は、特例措置という形で事業者単位での規制改革を実現できる強力な制度となっていますが、その反面、他の制度と比べて活用のハードルも高くなっています。そのため、規制のサンドボックス制度による実証実験を先行して行い、実証後の「規制の見直し」の一内容として、本制度に基づく特例措置の創設に移行するといった例も見られます。
新事業特例制度の活用事例
おわりに
以上のように、企業単位での規制改革・ルールメイキングの実現を目指した様々な制度が存在します。もちろん、常に当初の期待どおりの結果を得られるというわけではありませんが、規制領域におけるビジネスを成功させるための強力なツールとなるはずです。各制度の特徴やメリット・デメリットを踏まえて、積極的に活用していくことが期待されます。
また、実際の制度利用にあたっては、準備段階や事前相談期間を通じて、適宜ビジネスモデルの調整も行っていく必要があります。ビジネスとして譲れないところ/譲れるところはどこか、ビジネスモデルごとの法的論点や獲得目標は何かなどを整理しながら、事業展開のスケジュールも踏まえて、戦略をしっかりと構築しておくことが重要となります。
法律事務所ZeLoでは、今回紹介した制度の活用によるルールメイキングをサポートしています。ぜひお気軽にご相談ください!
【告知】WEBセミナー『新規ビジネス創出に向けたルールメイキングの実践』※アーカイブ動画あり
法律事務所ZeLoでは、12月9日(水)17:00~18:30、WEBセミナー『新規ビジネス創出に向けたルールメイキングの実践~規制のサンドボックス活用事例』を開催します。※本セミナーは終了いたしました。こちらのリンクよりアーカイブ動画をご覧いただけます。
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gooddaysホールディングス様が行われている実証実験は、「電子契約システムを用いたマンスリーマンション事業に係る定期借家契約書面の作成に関する実証」で不動産事業における書面の電子化を目指すものです。セミナーでは、制度利用に至った背景なども深堀りできればと考えております。
新規事業に挑むスタートアップ経営者や事業開発担当の方、ぜひご参加いただけますと幸いです。
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