前人未到のWeb3領域。共に開拓し、挑戦し続ける「戦友」-株式会社Ginco
Attorney admitted in Japan
Tomonori Nagano
Attorney admitted in Japan
Kohei Kanzawa
法律事務所ZeLo代表弁護士。2009年早稲田大学法学部三年次早期卒業、2011年東京大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2017年法律事務所ZeLo創業。主な取扱分野はブロックチェーン・暗号資産、FinTech、IT・知的財産権、M&A、労働法、事業再生、スタートアップ支援など。
Graduated from the Faculty of Law at the University of Tokyo (LL.B) in 2017. Passed Japan Bar exam in 2018. Qualified to Practice Law in 2019 (Daini Tokyo Bar Association). Joined ZeLo in 2020. Specializes in providing legal advice in cutting-edge technology fields such as AI, web3, and Fintech, as well as a wide range of corporate matters including M&A involving Cross-border Transactions, Stock Options, Startup Finance, and Litigation/Dispute Resolution.
目次
平成29年はビットコインバブルとICOの年、平成30年は仮想通貨流出の年、令和元年はLibraの年(日本ブロックチェーン協会(JBA)では「ブロックチェーン元年」を標語に盛り上がりました)、令和2年はルールメイキングの成熟と本丸のブロックチェーン企業の成長期といったところでしょうか。3年前は過剰に加熱していた業界も、今は冷静さを持ち、地に足をつけて進んでいるという感覚があります。
激動の中を走っているブロックチェーン業界はいつも足らないルールと隣合わせで発展してきました。仮想通貨、仮想通貨デリバ、マイニング、カストディ、ICO、STO、ステーブルコイン、ブロックチェーンゲーム等々については、既存の法律をもとに多くの工夫に基づいて発展してきたように思います(今般の法改正前の一定の整理として弊所拙書である『ブロックチェーンビジネスとICOのフィジビリティスタディ』参照)。
令和2年5月1日施行の改正資金決済法・金商法等と政令・内閣府令等は、ブロックチェーン業界において議論されてきた様々な事象・ビジネスモデルについて一定の解を与えるルールメイキングの集大成であり、大きな意味を持ちます。まだ明確な解が出ていないステーブルコインの論点等実務の中での解釈に委ねられる部分があるものの大きな枠は示されたといってよいと思います。
この記事では、改正の全体像を、①法令等改正までの経緯、②法令等の概要と留意点、③ブロックチェーン業界に与える影響に分けて、少しずつブレイクダウンしながら、なるべくわかりやすく解説したいと思います。
もしこの記事でわからないことがありましたら、弊所のお問合わせまでお気軽にご連絡ください。
平成29年4月1日施行の資金決済法及び犯罪による収益の移転防止に関する法律の改正により、仮想通貨の売買・交換等が規制の対象となりました。仮想通貨交換業者の登録制を通じて、利用者保護に関する一定の制度的枠組みを整備するとともに、登録業者に本人確認義務等のマネロン・テロ資金供与対策に係る義務を課すものです。
その後、複数の仮想通貨取引所への不正アクセスにより、仮想通貨交換業者が管理する利用者の仮想通貨が流出する事案が複数発生し、仮想通貨交換業者の態勢整備が不十分であることが明らかになりました。また、仮想通貨が決済手段として用いられるよりも、むしろ、投機的な取引に用いられることが多くなり、それに合せて適切な規制がどのようなものかが議論されるようになりました。
このような流れから、金融庁は有識者からなる「仮想通貨交換業等に関する研究会」(座長 神田秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)を組成し、平成30年4月より、計11回にわたり、仮想通貨交換業等をめぐる諸問題について、制度的な対応の検討を行いました。そして、同研究会は、平成30年12月21日に報告書を公表しています(下記表No1)。
この報告書を基盤にしながら、法律、金融庁ガイドライン、政令・内閣府令、自主規制団体である一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の自主規制規則、パブリックコメント等が作られ、適用又は施行されるに至っています(下記表No2~11参照)。
これだけ多くのルールがあるとこれらを追っていくことが難しいですが、以下に時系列に合せて制定されたルールの状況等や公表資料を整理していますのでご参照ください。
No. | 時期 | 種類 | 名称 | 状況 | URL・備考 |
1 | 平成30年12月21日 | 報告書 | 「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書 | 公表 | URL |
2 | 令和元年5月31日 | 法律 | 「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号) | 成立 | URL |
3 | 令和元年6月7日 | 法律 | 「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号) | 公布 | URL |
4 | 令和元年9月3日 | 金融庁ガイドライン | 事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果(以下「金融庁事務ガイドラインパブコメ」といいます。) | 公表 | URL |
5 | 令和元年9月3日 | 金融庁ガイドライン | 事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(以下「金融庁事務ガイドライン」といいます。) | 適用 | URL |
6 | 令和元年9月27日 | JVCEA自主規制規則 | ・「新規仮想通貨の販売に関する規則」及び「新規仮想通貨に関する規則に関す るガイドライン」の制定 ・上記に関するパブリックコメント募集の結果 | 公表・適用 | URL |
7 | 令和2年1月14日 | 政令・内閣府令等 | 令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表(パブリックコメントの募集開始) | 公表 | URL |
8 | 令和2年3月31日 | 政令・内閣府令等 | 令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等 | 閣議決定 | URL |
9 | 令和2年4月3日 | 政令・内閣府令等 | ・令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令等 ・上記政令・内閣府令等に対するパブリックコメントの結果(以下「金融庁内閣府令等パブコメ」といいます。) | 公布 | URL |
10 | 令和2年4月24日 | JVCEA自主規制規則 | ・「定款施行規則、業務規程及び自主規制規則の改正及び制定」 ・上記に関するパブリックコメント募集の結果 | 公表・適用 | URL |
11 | 令和2年5月1日 | 法律・政令・内閣府令等 | ・「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号) ・令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令等 ※ 法律の内容についてはNo3・URL・備考参照。政令・内閣府令等の内容についてはNo9・URL・備考参照。 | 施行 | ー |
令和2年5月1日より、改正資金決済法や金商法等の法律とそれに伴う政令や内閣府令等が施行されました(上記表No11)。仮想通貨の呼称も「暗号資産」に変更されています。
暗号資産に関するルールは、上記のとおり、法律、金融庁事務ガイドライン、政令・内閣府令、自主規制規則、パブリックコメント等が入り組んで複雑なものになっていますが、今回の記事では、令和2年5月1日施行の政令・内閣府令等にあたって金融庁が公表した概要項目をもとに(上記表No11、下記参照)、既に適用されている金融庁事務ガイドライン(上記表No5)や自主規制規則(上記表No10)にも触れながら、法令等の改正の全体像を把握できるようにその概要と留意点を説明をしたいと思います。
【令和2年5月1日施行の政令・内閣府令等の概要】
「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」より引用
(1)暗号資産交換業に係る制度整備
1. 暗号資産交換業の登録の申請、取り扱う暗号資産の名称又は業務の内容及び方法の変更に係る事前届出等に関する規定を整備する。
2. 暗号資産交換業者の広告の表示方法、禁止行為、利用者に対する情報の提供その他利用者保護を図るための措置、利用者の金銭・暗号資産の管理方法等、暗号資産交換業者の業務に関する規定を整備する。
3. 取引時確認が必要となる取引の敷居値の引下げを行う。(2)暗号資産を用いたデリバティブ取引や資金調達取引に関する規制の整備
1. 暗号資産を用いたデリバティブ取引や資金調達取引を業として行う場合における金融商品取引業の登録の申請、業務の内容及び方法の変更に係る事前届出等に関する規定を整備する。
2. 金融商品取引業者等の業務管理体制の整備、広告の表示方法、顧客に対する情報の提供、禁止行為、顧客の電子記録移転権利等の管理方法等、暗号資産を用いたデリバティブ取引や資金調達取引を業として行う金融商品取引業者等の業務に関する規定を整備する。
3. 電子記録移転権利等に係る私募の要件、有価証券報告書の提出要件・免除要件、有価証券届出書等の開示内容等に関する規定を整備する。(3)その他
1. 「暗号資産」に関する用語の整理等のほか、投資信託の投資対象、金融機関の業務範囲等について、所要の規定の整備を行う。
2. 金融商品取引業者の自己資本規制における暗号資産の取扱い等に関する規定を整備する。
3. 暗号資産や電子記録移転権利等に関する監督上の着眼点や法令等の適用に当たり留意すべき事項等について明確化を図る。
改正資金決済法において、「仮想通貨」から「暗号資産」へ呼称が変更された上で(後述(3)ア)、暗号資産交換業の登録の申請等に関して、主として以下のとおりの変更がされています。
① 暗号資産カストディ業務に対する規制
② 暗号資産交換業の登録拒否事由
③ 取り扱う暗号資産の名称等の変更に係る事前届出制
改正資金決済法においては、暗号資産カストディ業務が暗号資産交換業に該当するとされています。
改正前の資金決済法においては、①仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換、②これらの行為の媒介、取次ぎ又は代理、③これらの行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすることが仮想通貨交換業とされていました。改正資金決済法においては、これらの行為に加えて、暗号資産交換業に「他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)」(改正資金決済法2条7項4号)が追加されました。
本規定が想定しているのは、暗号資産の売買等を伴わずに、利用者の暗号資産を管理し、利用者の指図に基づく利用者が指定するアドレスに暗号資産を移転させる、いわゆる暗号資産カストディ業務です。
本規定の「他人のために暗号資産の管理をすること」の意義について、金融庁事務ガイドラインによれば、「法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当するか否かについては、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべきであるが、利用者の関与なく、単独又は関係事業者と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。」(金融庁事務ガイドラインⅠ-1-2-2③)とされています。
金融庁内閣府令等パブコメによれば、「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、…「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。」(金融庁内閣府令等パブコメNo9)とされています。
また、「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵の一部を保有するにとどまり、事業者の保有する秘密鍵のみでは利用者の暗号資産を移転することができない場合」や「事業者が暗号資産を移転することができ得る数の秘密鍵を保有する場合であっても、その保有する秘密鍵が暗号化されており、事業者は当該暗号化された秘密鍵を復号するために必要な情報を保有していないなど、当該事業者の保有する秘密鍵のみでは利用者の暗号資産を移転することができない場合」(金融庁内閣府令等パブコメNo11~12)は、他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられるとされています。
したがって、事業者が、秘密鍵を保有していない、マルチシグの一部しか保有してしない等のため、暗号資産を移転できない場合には、本規定に該当せず、暗号資産交換業に該当しないと考えられます。
改正資金決済法においては、「暗号資産交換業者をその会員…とする認定資金決済事業者協会に加入しない法人であって、当該認定資金決済事業者協会の定款その他の規則…に準ずる内容の社内規則を作成していないもの又は当該社内規則を遵守するための体制を整備していないもの」(改正資金決済法63条の5第1項6号)が暗号資産交換業者の登録拒否事由として追加されています。
改正前の資金決済法においては、仮想通貨交換業者の登録の要件として、認定資金決済事業者協会への加入は義務付けられていませんでした。しかし、平成29年4月施行の資金決済法において仮想通貨交換業者の登録制が導入されて以降、平成30年10月に一般社団法人日本暗号資産取引業協会(令和2年5月1日に一般社団法人日本仮想通貨交換業協会から名称変更。以下「JVCEA」といいます。)が仮想通貨交換業に係る認定資金決済事業者協会として認定を受け、それ以降は事実上、仮想通貨交換業者においては、JVCEAに加入し、JVCEAの自主規制規則に準じて社内規則を作成する等の対応が取られていました。改正資金決済法においては上記のとおり登録拒否事由が追加されたことから、JVCEAへの加入及び自主規制規則の準ずる社内規則の作成等は法律上の義務になったといえます。
改正前の資金決済法においても、「仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる内閣府令で定める基準に適合する財産的基礎を有しない法人」(改正前資金決済法63条の5第1項3号)は仮想通貨交換業者の登録拒否事由とされていました。今回の改正に伴い「仮想通貨交換業者に関する内閣府令」が改正され、上記の内閣府令で定める財産的要件について、以下の下線部分が追加されました(暗号資産交換業者に関する内閣府令9条1項)。すなわち、後述(イ③)の履行保証暗号資産がある場合には、履行保証暗号資産の金額を加えずに純資産の額が負の値でないことが求められます。
① 資本金の額が一千万円以上であること。
② 純資産の額…が負の値でないこと(暗号資産の管理を行う者にあっては、履行保証暗号資産の数量を本邦通貨に換算した金額以上であること。)。
改正前の資金決済法においては、登録申請書記載事項を変更する場合は事後の届出が必要とされていましたが、改正資金決済法においては、登録申請書記載事項のうち「取り扱う暗号資産の名称」又は「暗号資産交換業の内容及び方法」のいずれかを変更する場合、原則として、事前の届出が必要とされることとなりました(改正資金決済法63条の6第1項、63条の3第1項7号、8号)。
なお、「取り扱う暗号資産の名称」又は「暗号資産交換業の内容及び方法」のいずれかを変更する場合であっても、「暗号資産交換業の利用者の保護に欠け、又は暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれが少ない場合として内閣府令で定める場合」(改正資金決済法63条の6第1項)は除外されています。これを受けて内閣府令においては、取り扱う暗号資産についてその取扱いをやめようとする場合、取り扱う暗号資産において用いられている技術又は仕様の変更を理由として当該暗号資産の保有者に対して新たな暗号資産が付与される場合、暗号資産交換業の内容又は方法のうち所定の事項以外の事項を変更しようとする場合(暗号資産交換業者に関する内閣府令11条)は事前の届出を要しないとされています。
改正資金決済法において、暗号資産交換業者の広告等に関して、主として以下のとおりの変更がされています。以下それぞれ概要を説明します。
① 広告・勧誘に関する規制
② 利用者の保護等に関する措置
③ 利用者財産の保全義務等
改正資金決済法においては、暗号資産交換業者は、その行う暗号資産交換業に関して広告をするときは、以下の事項を表示しなければならないとされています(改正資金決済法63条の9の2)。
① 暗号資産交換業者の商号
② 暗号資産交換業者である旨及びその登録番号
③ 暗号資産は本邦通貨又は外国通貨ではないこと
④ 暗号資産の性質であって、利用者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして内閣府令で定めるもの
そして、広告の表示方法については、内閣府令において、これらの事項について明瞭かつ正確に表示しなければならないとされており、上記③及び以下の各事項(上記④)の文字又は数字は、当該事項以外の事項の文字又は数字のうち最も大きなものと著しく異ならない大きさで表示するものとされています(暗号資産交換業者に関する内閣府令17条)。なお、上記④を受けて内閣府令では以下の事項が規定されています(同18条)。
・暗号資産の価値の変動を直接の原因として損失が生ずるおそれがあるときは、その旨及びその理由
・暗号資産は代価の弁済を受ける者の同意がある場合に限り代価の弁済のために使用することができること
改正資金決済法においては、暗号資産交換業者又はその役員若しくは使用人は、以下の行為をしてはならないとされています(改正資金決済法63条の9の3)。
① 暗号資産交換契約の締結等をするに際し、虚偽の表示をし、又は暗号資産の性質その他内閣府令で定める事項についてその相手方を誤認させるような表示をする行為
② 暗号資産交換業に関して広告をするに際し、虚偽の表示をし、又は暗号資産の性質等について人を誤認させるような表示をする行為
③ 暗号資産交換契約の締結等をするに際し、又はその行う暗号資産交換業に関して広告をするに際し、支払手段として利用する目的ではなく、専ら利益を図る目的で暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換を行うことを助長するような表示をする行為
④ 暗号資産交換業の利用者の保護に欠け、又は暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものとして内閣府令で定める行為
そして、内閣府令では、上記①を受けて誤認させるような表示をしてはならない事項が定められており(暗号資産交換業者に関する内閣府令19条)、また、上記④を受けて禁止行為が定められています(同20条)。
改正前の資金決済法においては、仮想通貨交換業者による広告・勧誘等について特段の規制はなく、これらの広告・勧誘に関する規制は改正資金決済法により新たに追加されたものです。
改正資金決済法においては、利用者の保護等に関する措置として、従前の仮想通貨と本邦通貨又は外国通貨との誤認防止の説明に代わりより広く暗号資産の性質に関する説明義務が追加され(改正資金決済法63条の10第1項)、これを受けて内閣府令では、暗号資産の性質に関する説明に関する規定(暗号資産交換業者に関する内閣府令21条)に改正されたほか、利用者に対する情報の提供の規定(同22条)及びその他利用者保護を図るための措置等に関する規定(同23条)が改正されています。
改正資金決済法においては、暗号資産交換業の利用者に信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合には、内閣府令で定めるところにより、当該暗号資産の交換等に係る契約の内容についての情報の提供その他の当該暗号資産の交換等に係る業務の利用者の保護を図り、及び当該業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならないとされています(改正資金決済法63条の10第2項)。これを受けて内閣府令では、暗号資産信用取引に関する特則の規定(暗号資産交換業者に関する内閣府令25条)が設けられています。
暗号資産信用取引は、内閣府令において、「暗号資産交換業の利用者に信用を供与して行う暗号資産の交換等」(暗号資産交換業者に関する内閣府令1条2項6号)と定義されていますが、「信用を供与」とは金銭の貸付けのみならず暗号資産の貸付けも含まれます(金融庁内閣府令等パブコメNo34)。なお、暗号資産信用取引を行うに際して、暗号資産交換業者が利用者に対する金銭の貸付けを行うときは、貸金業の登録を受ける必要があります(金融庁ガイドラインⅡ-2-2-2-1)。
改正資金決済法においては、暗号資産交換業者は、利用者の金銭を、自己の金銭と分別して管理し、内閣府令で定めるところにより、信託会社等に信託しなければならないとされています(改正資金決済法63条の11第1項)。これを受けて内閣府令では、暗号資産交換業者が利用者の金銭を信託するときは、信託会社等への金銭信託であって、利用者区分管理信託に係る契約が満たす必要がある要件が規定されています(暗号資産交換業者に関する内閣府令26条)。
利用者の金銭の分別管理については、改正前の資金決済法においても規定されていましたが、改正後の資金決済法においては上記のとおり信託義務が追加されました。
改正資金決済法においては、暗号資産交換業者は、利用者の暗号資産を自己の暗号資産と区別して管理しなければならないとされています(改正資金決済法63条の11第2項)。また、「利用者の利便の確保及び暗号資産交換業の円滑な遂行を図るために必要なものとして内閣府令で定める要件に該当するもの」を除き、暗号資産交換業者は、「利用者の暗号資産…を利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法」で管理しなければならないとされています(同項)。
これを受けて内閣府令では、利用者の暗号資産の管理の規定(暗号資産交換業者に関する内閣府令27条)が追加されています。
上記の「利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法」は、以下の方法とされています(同条3項)。
①暗号資産交換業者が自己で管理する場合には、利用者の暗号資産を移転するために必要な情報を、常時インターネットに接続していない電子機器等に記録して管理する方法その他これと同等の技術的安全管理措置を講じて管理する方法とされており、
②暗号資産交換業者が第三者をして管理させる場合には、暗号資産交換業の利用者の暗号資産の保全に関して、当該暗号資産交換業者が自己で管理する場合と同等の利用者の保護が確保されていると合理的に認められる方法
この常時インターネットに接続していない電子機器等は、いわゆるコールドウォレットを指しますが、金融庁ガイドラインによれば、「一度でもインターネットに接続したことのある電子機器等は「常時インターネットに接続していない電子機器等」に該当しないことに留意するものとする」(金融庁ガイドラインⅡ-2-2-3-2(3)⑤)とされており、金融庁内閣府令等パブコメによれば、ハードウェア・ウォレットを秘密鍵の生成、PINの変更、ぜい弱性対応などでベンダーにインターネット経由で接続した場合にも「常時インターネットに接続していない電子機器等」に該当しないとされています(金融庁内閣府令等パブコメNo48)。
また、上記の「利用者の利便の確保及び暗号資産交換業の円滑な遂行を図るために必要なものとして内閣府令で定める要件」は、上記の暗号資産交換業者に関する内閣府令27条3項に定める方法以外の方法で管理することが必要な最小限度の暗号資産とされており(同条2項)、これは「当該暗号資産の数量を本邦通貨に換算した金額が、その管理する利用者の暗号資産の数量を本邦通貨に換算した金額に百分の五を乗じて得た金額を超えない場合に限る」(同項括弧書)とされています。すなわち、暗号資産交換業者は、利用者の暗号資産のうち、95%以上を暗号資産交換業者に関する内閣府令27条3項に定める方法(コールドウォレット等)で管理する必要があり、5%以下についてはこれ以外の方法(ホットウォレット等)で管理することができます。
改正資金決済法においては、暗号資産交換業者は、利用者の暗号資産のうち前述の「利用者の利便の確保及び暗号資産交換業の円滑な遂行を図るために必要なものとして内閣府令で定める要件」に該当する暗号資産と同じ種類及び数量の暗号資産(以下「履行保証暗号資産」といいます。)を保有し、分別管理することが義務付けられています(改正資金決済法63条の11の2)。履行保証暗号資産については、利用者の暗号資産の管理と同様に、「利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法」による管理が必要となります(暗号資産交換業者に関する内閣府令29条)。
改正資金決済法においては、利用者は、暗号資産交換業者に対して有する管理を委託した暗号資産の移転を目的とする債権に関し、当該暗号資産交換業者が分別管理を行う利用者の暗号資産及び履行保証暗号資産(いずれも第三取得者に移転したものを除く。)について、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有します(改正資金決済法63条の19の2、民法333条)。
すなわち、改正前の資金決済法においては、仮想通貨交換業者に利用者の仮想通貨の分別管理義務があるものの、あくまで仮想通貨交換業者の財産であり、仮想通貨交換業者に法的倒産手続が開始された場合には、利用者が仮想通貨交換業者に対して有する仮想通貨の返還請求権は一般債権として扱われるにすぎませんでした(倒産手続における債権の取扱いについては弊所ジャーナル『新型コロナウイルスに関する企業法務の実務(債権回収編)』参照)。
これに対し、改正後の資金決済法においては、利用者が暗号資産交換業者に対して有する暗号資産の返還請求権は、当該暗号資産交換業者が分別管理する利用者の暗号資産及び履行保証暗号資産について優先弁済を受ける権利を有し、その結果、暗号資産交換業者に法的倒産手続が開始された場合でも、暗号資産の管理を委託した利用者は、分別管理する利用者の暗号資産及び履行保証暗号資産について他の債権者に優先して弁済を受けることができます。ただし、暗号資産交換業者が利用者の暗号資産及び履行保証暗号資産を第三取得者に移転した後は、利用者は当該優先弁済を受ける権利を行使することはできません(改正資金決済法63条の19の2第2項、民法333条)。
改正資金決済法における暗号資産交換業者は、改正前の仮想通貨交換業者と同様に犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」といいます。)上の特定事業者とされています(犯収法2条2項31号)。そのため、改正資金決済法において、暗号資産の交換等を行わずに暗号資産の管理に係る業務を行う暗号資産カストディ業者も暗号資産交換業者とされたことから、暗号資産カストディ業者も犯収法に基づく確認義務等を負います。
暗号資産交換業の関する経過措置として、改正法施行の際(令和2年5月1日)、現に暗号資産管理業務(改正前の資金決済法2条7項3号に該当するものを除く。)を行っている者は、施行日から起算して6月間は、当該暗号資産管理業務を行うことができるとされており(改正法附則2条1項)、当該期間内に暗号資産交換業の登録申請を行った場合にはその申請について登録又は登録の拒否があるまでの間は当該暗号資産管理業務を行うことができるとされています。ただし、施行日から起算して1年6月を経過するまでに登録を受けられない場合には暗号資産管理業務を行うことはできません(同条2項)。
これまで暗号資産を原資産とし、または暗号資産に関する指標を参照するデリバティブ取引(以下単に「暗号資産デリバティブ取引」といいます。)については、何ら法規制が及んでいませんでした。しかし、暗号資産が金商法上の「金融商品」に追加されたことにより(改正金商法2条24項3号の2)、暗号資産に関する店頭デリバティブ取引又はその媒介、取次ぎ若しくは代理を業として行う場合には第一種金融商品取引業者の登録が必要になりました(改正金商法2条8項4号、28条1項2号、29条)。
また、暗号資産の価格又は暗号資産の利率等も「金融指標」に追加されましたので(改正金商法2条25項)、暗号資産の指数を参照する取引についても上記と同様の規制に服することになります。
金融商品取引業者の登録の申請を行う場合、暗号資産又は金融指標(暗号資産の価格等に限られます)に係るデリバティブ取引について、一定の金融商品取引行為を業として行う場合には、登録申請書にその旨を記載する必要があります(改正金商法29条の2・1項9号)。
そして、その登録申請書には当該暗号資産デリバティブ取引の原資産及び金融指標の名称を記載し(改正後の金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」といいます。)8条12号)、当該暗号資産及び金融指標の概要を説明した書面を添付することとされました(業府令9条10号)。
なお、金商法上の「特定業務内容」(改正金商法31条3項)について、事前届出が必要とされている点にも注意が必要です。つまり、既に金融商品取引業者として登録されている者が暗号資産デリバティブ取引を取り扱おうとする場合、金融商品取引業者の変更登録が必要ですが(改正金商法31条4項)、新たに取り扱う暗号資産や金融指標の名称についてはあらかじめ届出が必要とされ(業府令20条の2)、変更の内容、変更予定年月日、及び変更の理由を記載した届出書に、当該暗号資産及び金融指標の概要を説明する書面等を添付して提出しておく必要があります(業府令21条)。
法改正により、暗号資産デリバティブ取引を業として行うことは「金融商品取引業」にあたることになりましたので(改正金商法2条8項4号)、虚偽告知の禁止(改正金商法38条1号)等、金商法上の行為規制が課せられます。
そしてそのほか、暗号資産デリバティブ取引特有の規制として制定されたものとしては、例えば以下の規制が挙げられます。
金融商品取引業者は、業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがある状況に陥らないよう、業務を遂行すべきものとされています(金商法40条2項)。
具体的には、不正行為や風説の流布、相場操縦等、顧客による不公正な行為の防止を図るために必要な措置を講じているか(業府令123条1項32号)、ロスカット取引を行うための十分な管理体制を整備しているか(業府令123条1項35号)等、種々の管理体制の整備が求められます(業府令123条1項31号から36号をご参照ください)。
金融商品取引業者が、その業務内容について広告を行う場合、表示しなければならないものや、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならないものが定められます(改正金商法37条1項3号、改正金融商品取引法施行令16条1項7号)。
具体的には、暗号資産デリバティブに関する広告をする場合、「暗号資産は本邦通貨又は外国通貨ではないこと」「暗号資産は代価の弁済を受ける者の同意がある場合に限り代価の弁済のために使用することができること」を表示する必要があったり(業府令76条3号)、誇大広告をしてはならない事項が具体的に定められたりする(改正金商法37条2項、業府令78条13号)等、種々の規制が制定されました。
暗号資産デリバティブ取引を業として行うときは、暗号資産の性質に関する説明が求められます(改正金商法43条の6)。
具体的には、暗号資産の価値の変動を直接の原因として損失が生ずるおそれがあるときは、その旨及びその理由(業府令146条の4・2項2号)や当該取引に関する暗号資産の概要及び特性(業府令146条の4・2項4号)について説明義務が課されていたり、誤認させるような表示をしてはならない事項が具体的に定められていたり(業府令146条の5)しています。
金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させる行為を行ってはならないものとされます(改正金商法38条9号)。
具体的には、契約の締結もしくはその勧誘をするに際して、裏付けとなる合理的な根拠を示さないで、暗号資産の性質に関する事項等の表示をすることや(業府令117条41号)、顧客が不正行為等を行うおそれがあることを知りながら取引又はその受託等をすること(業府令117条43号)等が禁止され、証拠金規制としてレバレッジ2倍が上限とされています(業府令117条1項47号から50号、同41項、42項)。
以上で例示した、法令により定められた規定のほか、金融庁により認定協会とされた(改正金商法78条1項)JVCEAの定める規定にも留意する必要があります。 JVCEAは、「暗号資産関連デリバティブ取引に関する規則」等、暗号資産デリバティブ取引業に関連して新たに17の規則・規程を制定しました(上記表No10)。
他の有価証券と同様に、電子記録移転権利についても、取得勧誘のうち私募については金商法上の開示規制が適用されません。開示規制が適用されることにより生じるコストは一般的に決して小さいとは言えないものなので、電子記録移転権利の取得勧誘にあたって、私募の要件に該当するように設計することは非常に重要であると言えます。
電子記録移転権利はその流通性の高さに鑑みて「一項有価証券」に包含されている(金商法2条3項柱書)ため、その私募の類型には以下があります。
①適格機関投資家私募
②少人数私募
③特定投資家私募
③特定投資家私募については、プロ向け市場の存在を前提とする制度であるところ、現時点で電子記録移転権利についてプロ向け市場の開設は想定されないため、本稿では解説を割愛します。
電子記録移転権利の適格機関投資家私募の要件は、大要、以下の4つです(改正金商法2条3項2号イ、改正金商法施行令1条の4第3号、改正定義府令11条2項1号イ)。
(1) 適格機関投資家のみを取得勧誘の対象としていること
(2) 発行者が有価証券報告書の提出義務を負っていないこと
(3) 特定投資家向け有価証券でないこと
(4) 財産的価値を適格機関投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置がとられていること
電子記録移転権利の少人数私募の要件は、大要、以下の4つです(改正金商法2条3項2号ハ、改正金商法施行令1条の6、1条の7第2号ハ、改正定義府令13条3項1号イ)。
(1) 取得勧誘の相手方の人数が50名未満であること(過去6か月通算)
(2) 発行者が有価証券報告書の提出義務を負っていないこと
(3) 特定投資家向け有価証券でないこと
(4) 財産的価値を一括の移転以外に移転できないようにする技術的措置がとられていること、又は単位の総数が50未満である場合に、単位未満の財産的価値を移転できないようにする技術的措置がとられていること
従前から私募においては転売制限が求められてきたところ、電子記録移転権利の転売制限としては、①の適格機関投資家私募及び②少人数私募共に、「技術的措置」をとることが求められていることが大きな特徴です。「技術的措置」の詳細については法令の文言のみでは明らかでないものの、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」V-2-3(1)④においては、「適格投資家以外の者に移転することができないようにする技術的措置としては、例えば、電子記録移転有価証券表示権利等を表示する財産的価値の譲渡につき発行者又は私募の取扱いを行う金融商品取引業者の事前承諾が要件とされており、かつ、当該承諾を行う者において、あらかじめ譲受人が適格投資家であることが適切に確認されない限り、譲渡の効力が生じないような措置等が考えられる。」として、「技術的措置」の具体例が挙げられており参考になります。
また、「技術的措置」について、以下の2つの金融庁内閣府令等パブコメ回答が参考になります。
(コメントの概要抜粋)
「従来の当事者の意思決定を契約的に制限する方法での譲渡制限と異なり、権利の「移転」を技術的措置により制限することを求めているが、一般的に財産権の譲渡は当事者の意思によって成立するので、これらは対抗要件具備の問題として理解してよいか。 」(金融庁回答抜粋)
「技術的措置により移転を制限することが求められているのは、「財産的価値」であって「権利」ではありません。また、対抗要件具備について技術的措置による制限を求めているものでもありません。」「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等」に対する令和2年4月3日付「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」コメント及び回答No149
上記金融庁内閣府令等パブコメNo149への回答により、技術的措置により移転を制限することを求められているのはあくまで「財産的価値」、すなわちいわゆる「トークン」であり、法的権利の移転を技術的措置により制限することが求められているわけではないことが明らかにされています。
(コメントの概要抜粋)
「一定の者ないしは一定の場合以外に移転することができないようにする「技術的措置」とは、どのような措置を行えばよいか。例えばアカウント開設時に要件を満たしているかを確認し、要件を満たした者が開設したアカウントのみが財産的価値を保有できるような措置を講じていればよいか、それとも財産的価値自体に移転が制限されるプログラムを書き込むことまでが必要か。 」(金融庁回答抜粋)
「個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられますが、必ずしも技術的措置を財産的価値自体に内在するよう設計する必要はないと考えられます。例えば、技術的にアカウント保有者を適格機関投資家に限定する措置がとられており、財産的価値を当該アカウント保有者以外の者に移転することが技術的に不可能な場合には、基本的には、当該技術的措置がとられているものと考えられます。」「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等」に対する令和2年4月3日付「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」コメント及び回答No150
上記金融庁内閣府令等パブコメNo150への回答により、適格機関投資家私募における「技術的措置」とは、必ずしも「財産的価値」すなわちいわゆる「トークン」自体のコードに書き込まれる必要があるわけではないことが示されました。
また、トークン自体のコードに書き込む形でない「技術的措置」の一例として、技術的措置によりアカウント保有者を適格機関投資家に限定し、かつトークンをアカウント保有者以外に移転することができないような技術的措置をとることが挙げられています。
この方法については、あくまで例示にすぎず、アカウント開設者を適格機関投資家に限定する手段においても技術的措置を用いることを必須条件として法が要求しているわけではない点については留意が必要かと思われます。
電子記録移転権利は、第1項有価証券として扱われる以上、有価証券報告書の提出等の継続開示規制にも服することとなります。電子記録移転権利について、有価証券報告書の提出義務が生じる場合としては、大要、以下の2つがあります(改正金商法24条1項3号、4号)。
(1) 「募集」又は「売出し」を行ったこと等により有価証券届出書の提出義務が生じた場合
(2) 電子記録移転権利の所有者が一定数以上となった場合(いわゆる「外形基準」)
金商法には有価証券報告書の提出を免除する制度がありますが、これらのうち一部については電子記録移転権利についても適用されます。例えば、上記(2)の外形基準に該当することにより有価証券報告書の提出義務が生じた場合であっても、資本金の額や所有者の数が一定未満となった場合や、内閣総理大臣の承認がなされた場合には、有価証券報告書の提出が免除される制度がありますが(改正金商法24条1項但書、改正金商法施行令3条の6、4条)、これは電子記録移転権利にも適用されます(改正金商法24条1項但書、改正金商法施行令3条の6第1項・2項)。
一方で、上記(1)の「募集」又は「売出し」を行ったことにより有価証券届出書の提出義務が生じた場合に、株券等について有価証券報告書の提出を免除する制度(改正金商法24条1項但書前段、改正金商法施行令3条の5)については、電子記録移転権利には適用されません(改正金商法施行令3条の5第1項各号に電子記録移転権利は含まれていない。)。
電子記録移転権利は第1項有価証券として扱われるため、その募集又は売出しを行う際に、原則として、発行者は、有価証券届出書を提出する義務(改正金商法4条1項)及び目論見書を作成・交付する義務(改正金商法13条1項、15条1項)を負います。電子記録移転権利が服する開示規制は、電子記録移転権利が「特定有価証券」に分類されるかどうかによって異なります。
電子記録移転権利のうち「特定有価証券」に分類される権利(「特定電子記録移転権利」(改正特定有価証券開示府令12条1項1号へ))については、特定有価証券に関する開示規制が適用されます。
特定電子記録移転権利に該当する権利には、以下の6つの種類があります(改正金商法施行令2条の13第8号から12号)。
(1) 信託の受益権(有価証券信託受益証券に該当するものであって、株券等を受託有価証券とする者を除く)
(2) 外国信託の受益権
(3) 合同会社の社員権並びに一定の合名会社及び合資会社の社員権のうち、その出資総額の50%を超えて優香証券に対する投資に充てて事業を行うもの
(4) 外国法人の社員権で上記(3)の性質を有するもの
(5) 集団投資スキーム持分
(6) 外国集団投資スキーム持分
開示項目の中には、特定電子記録移転権利特有のものがあり、注意が必要です。例えば、トークンに用いる技術の名称、内容及び選定理由や、その譲渡等のために用いるプラットフォームの名称、内容及び選定理由、またトークンの流出その他の電子記録権利固有のリスク等があります(改正特定有価証券開示府令第六号の五様式記載上の注意(5)c、(26)c)。
特定電子記録移転権利に該当しない電子記録移転権利については、企業内容等開示府令が適用されます。
こちらについても、開示項目の中には、電子記録移転権利特有のものがあり、注意が必要です。例えば、特定電子記録移転権利において開示が要求されている事項のうち、トークンの流出その他の電子記録権利固有のリスク等の一定の事項について開示が要求されています(改正企業内容等開示府令第二号様式記載上の注意(24)b、(31)d)。
これまで述べられた事項以外でも、今回の法令等改正において重要と思われる点を紹介します。
今回の改正の中でも「暗号資産」への呼称変更は大きな変更の一つといえます。G20を始めとする国際会議において「暗号資産」(Crypto-asset)との呼び名が一般化しているなどの国際的な動向等が背景にあります。
暗号資産の定義において、仮想通貨の定義から解釈の変更が生じるものではありませんが、電子記録移転権利に該当するものが除外される旨が定められました(資金決済法2条5項但書)。これにより、決済手段としての暗号資産と有価証券としての電子記録移転権利が明確に区別されるようになりました。
また、下記の金融庁内閣府令等パブコメNo4回答では、電子記録移転権利を表示するものは暗号資産から除かれる旨記載されており、暗号資産に係る改正資金決済法の規制と電子記録移転権利に係る改正金商法の規制が重畳適用されないことが示されました。
(金融庁回答抜粋)
「暗号資産や電子記録移転権利に該当するかは、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられますが、電子記録移転権利を表示するものは暗号資産から除かれています(資金決済法第2条第5項ただし書)。」「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等」に対する令和2年4月3日付「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」回答No4
銀行、信託会社、保険会社等の各監督指針に「暗号資産に関する留意事項」の項目が追加され、暗号資産交換業者以外の一部の金融機関において、下記の事項を含む暗号資産関連業務の態勢整備が求められることになりました(主要行等向けの総合的な監督指針の一部改正Ⅴ-6、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針Ⅲ-4-13、信託会社等に関する総合的な監督指針3-5-1(5)、保険会社向けの総合的な監督指針Ⅲ-2-3)。「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」Ⅲ-2-14においても、同様の態勢整備を求める旨規定が追加されており、暗号資産に関する業務に関連する事業者に対し、一律の態勢整備が求められるようになったといえます。
① 暗号資産の特性等を踏まえたリスクの特定・評価・低減
② マネー・ローンダリング及びテロ資金供与への対応
③ 財務の健全性確保を図るための措置
④ 暗号資産の取得等に係る安全管理措置
自己資本規制とは、第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者に対して、経営の健全性と投資家保護を目的とし、一定比率以上の自己資本規制比率を確保することを定める規制です(改正金商法46条1項、同条の6第1項)。既に発行された電子記録移転権利の購入者に対する勧誘を発行者に代わって行う募集・私募の取扱い等を業として行う場合には、第一種金融商品取引業(改正金商法28条1項)として、この自己資本規制を遵守しなければなりません。
自己資本規制比率を決定するためには、告示「金融商品取引業者の市場リスク相当額、取引先リスク相当額及び基礎的リスク相当額の算出の基準等を定める件」に従い、リスク相当額を算出する必要があります(金融商品取引業等に関する内閣府令178 条)。
これまで、暗号資産に関するリスク相当額の算出方法は明らかとなっておりませんでしたが、同告示の改正や「自己資本規制告示における暗号資産の取扱いに関するQ&A」の公表により明確化されました。
また、下記の金融庁内閣府令等パブコメNo206において、暗号資産の市場リスク相当額算出にかかるリスクウェイトが、コモディティ等が18%である一方で、暗号資産等は100%と定められていることが、市場リスク計測の代表的指標であるボラティリティで比較しても、例えばビットコインのボラティリティはコモディティであるWTI原油先物と同一水準であり。5倍以上の設定は根拠不明瞭であり、加重な負担であると指摘がなされています。これに対する回答として、暗号資産の価格変動等も踏まえつつ、リスクを保守的に見積もり設定したものであり、現時点においては、合理的なものと考えていると述べられています。
今後、暗号資産の市場への浸透に伴い、暗号資産のリスクウェイトの調整が将来的に議論されることも考えられます。暗号資産や電子記録移転権利に該当するかは、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられますが、電子記録移転権利を表示するものは暗号資産から除かれています(改正資金決済法第2条第5項ただし書)。
(コメントの概要抜粋)
「市場リスク相当額算出にかかるリスクウェイトは、コモディティ等が18%である一方、暗号資産等は100%と定められているが、市場リスク計測の代表的指標であるボラティリティでみると、例えばBTCのボラティリティはコモディティであるWTI原油先物と同一水準である。5倍以上の設定は根拠不明瞭であり、加重な負担である。以上の理由から、暗号資産等の市場リスク相当額算出にかかるリスクウェイトを100%と定める根拠が不明瞭であり、再考してほしい。」(金融庁回答抜粋)
「標準的方式を用いて算出する暗号資産リスク相当額の計算に係るリスクウェイトは、暗号資産の価格変動等も踏まえつつ、リスクを保守的に見積もり設定したものであり、現時点においては、合理的なものと考えております。」「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等」に対する令和2年4月3日付「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」コメント及び回答No206
今回の改正がブロックチェーン業界に与える影響を代表的な業種毎にブレイクダウンして以下では簡単に整理したいと思います。
令和2年5月1日から改正資金決済法及び改正金融商品取引法が施行されることに伴い、暗号資産交換業者においては、上記3(1)のとおり、内閣府令に定められた方法による利用者の金銭の信託、利用者の暗号資産の分別管理、履行保証暗号資産の分別管理などの対応が必要となります。
これに加えて、暗号資産デリバティブ取引を業として行う暗号資産交換業者については、後述(2)のとおり第一種金融商品取引業者としての対応も必要となります。改正資金決済法によりカストディ業者も暗号資産交換業者に該当するため、カストディ業者については後述(3)のとおりの対応が必要となります。
また、これら改正法の施行に伴い、JVCEAは、自主規制規則の改正及び制定を行っており、暗号資産交換業者においては、各種規程類の改定、新設等の対応が必要となります。
実際に、GMOコイン株式会社、コインチェック株式会社などは、令和2年5月1日より各種規程類の改定、新設等を実施しています。
上記3(2)のとおり、これまで暗号資産デリバティブ取引については法の規制がかかっていなかったため、暗号資産交換業者が暗号資産売買等の一環として取り扱うケースが多数ありました。
しかし、法改正によって暗号資産デリバティブ取引を業として行うことは金融商品取引業にあたることが明確に定められ、第一種金融商品取引業者としての登録が必要になる等、暗号資産デリバティブ取引については厳しい規制がかかることになりました。実際に、これまで暗号資産交換業者としてのみ登録されていた株式会社DMM BitcoinやGMOコイン株式会社などは、第一種金融商品取引業者登録のプレスリリースを公表しています。
このように、既に暗号資産デリバティブ取引業界は本改正に基づく適切な業務運営に向けて動き出していますが、いわゆるデリバティブプロに関する適用除外規定から暗号資産デリバティブ取引が除外されている点(金融商品取引法施行令1条の8の6・1項2号)や証拠金規制としてレバレッジ2倍が上限とされた点(業府令117条1項47号から50号、同41号、42号)については多くの意見が出されました(金融庁内閣府令等パブコメNo60~64、68~123)。
これらの中には、国内リクイディティプロバイダーが海外リクイディティプロバイダーよりも不利に扱われることにより国内市場の縮小を懸念するものや(金融庁内閣府令等パブコメNo63)、レバレッジ規制による取引量の減少を懸念するもの(金融庁内閣府令等パブコメ83、84)等、業界の悲鳴とも取れる意見が散見されます。
今後、このような業界との認識の相違を解消しつつ、国内の健全な市場の発展に向けた適切な規制の形成が望まれるところです。
利用者の暗号資産を管理し、利用者の指図に基づく利用者が指定するアドレスに暗号資産を移転させる、いわゆる暗号資産カストディ業務は基本的に暗号資産交換業に該当し、カストディ業者は暗号資産交換業者としての登録をする必要があります。
上記3(1)アのとおり、財産的要件を満たす必要があることや利用者の保護等に関する措置、利用者財産の保全に係る措置を講じる必要があるなど、暗号資産交換業者として遵守すべき事項は厳しく、暗号資産カストディ業者は、改正法の規制を遵守できる体制を整えて暗号資産交換業者としての登録を受けるか、暗号資産交換業者としての登録を受けることを断念してサービスの停止又は変更をするという判断をすることになります。これまで、暗号資産カストディ業務は、比較的小規模のスタートアップであっても特別の規制を受けないことから参入が可能といえましたが、今回の法改正によりサービス継続を断念せざるを得ないカストディ業者もありました。例えば、株式会社VALUがサービス「VALU」内において暗号資産カストディ業務を行っていたものの、改正法施行前の2020年1月時点で、今回の法改正を原因としてサービス継続を断念し、同年3月末に同サービスを停止したとのリリースがなされています。
なお、経過措置の規定により、施行日から6ヶ月が経過するまで(令和2年11月30日まで)は、施行の際に管理している暗号資産と同じ種類の暗号資産については、登録を受けずに業務を継続できます(改正法附則2条1項)。また、施行日から6ヶ月が経過するまで(令和2年11月30日まで)に暗号資産交換業者としての登録申請をすれば、登録申請に対する処分がなされるか、施行日から1年6ヶ月が経過するまで(令和3年11月30日まで)は、同様に従前の業務を継続することができます(改正法附則2条2項)。そのため、暗号資産交換業者としての登録を受けるどうか検討している状況にある会社も、これらの経過措置に基づき検討期間を延ばすことは可能です。ただし、これらの経過措置の適用を受けるために、令和2年5月14日までに会社の商号及び住所を届け出る必要があることに留意が必要です(改正法附則3条。届出書の様式と届出先)。
改正金商法において「電子記録移転権利」という概念が創設されましたが、セキュリティトークンであるからといって必ず電子記録移転権利に該当するわけではなく、金商法2条2項各号に掲げる権利をトークン化したもののみが電子記録移転権利に該当することには注意が必要です(改正金商法2条3項柱書)。
電子記録移転権利に該当するセキュリティトークンを発行する事業体は、様々な金商法上の規制に留意する必要がある一方で、電子記録移転権利を表示するトークンについては暗号資産から除かれることが明示された(改正資金決済法2条5項ただし書)ため、資金決済法上の規制に留意する必要はありません。
電子記録移転権利に該当するセキュリティトークンを発行する事業体は、まず、金商法上の開示規制に留意する必要があります。セキュリティトークンの取得勧誘に際して、私募の要件(上記3(2)ウ(ア))を満たさない限り、有価証券届出書の提出義務等を課されます(改正金商法4条1項)。
また、金商法上の業規制にも留意する必要があります。業として電子記録移転権利の売買、売買の媒介等、募集・私募の取扱い等を行う場合には、第一種金融商品取引業の登録が必要になります(改正金商法28条1項1号、29条)。また、業として行う自己募集・私募については、第二種金融商品取引業の登録が必要です(改正金商法28条2項1号、29条、2条8項7号ト、改正金商法施行令1条の9の2第2号)。
電子記録移転権利に該当しないトークンを発行する場合についても、表示される権利が金商法上の有価証券に該当する場合には、当該権利の種類に応じて金商法が適用されます。例えば、株式や社債をトークン化する場合は、一項有価証券の規制が適用されることになります。
このような、有価証券に該当する権利を表示するトークンであるものの電子記録移転権利に該当しないものについて、改正資金決済法上の暗号資産に該当し得るかどうかに関しては法令の文言のみからは明らかではありませんでした。しかし、金融庁内閣府令等パブコメNo1~3番への回答において、「電子記録移転有価証券表示権利等」が資金決済法の規制対象とならない旨が示されており、「電子記録移転有価証券表示権利等」とは改正金商法2条2項のみなし有価証券をトークン化したものを指す(改正業府令1条4項17号、6条の3)ため、改正金商法2条2項のみなし有価証券をトークン化したものについては、資金決済法の規制対象とはならないことになります。
セキュリティトークンとしては、電子記録移転権利に該当せず、かつ有価証券に該当しない権利をトークン化したものも想定されます。例えば、固定金利の貸付債権のトークン化がこれに該当します。こうした場合については、有価証券に該当しない以上金商法の規制は適用されないものの、改正資金決済法上の暗号資産に該当する可能性はあり、これに該当する場合は、発行者は暗号資産交換業の取得が必要になり得るので注意が必要です。
ステーブルコインは、(i)法定通貨担保型(米ドルにペッグされているGemini dollar(GUSD/ジェミニ・ダラー)等)、(ii)暗号資産担保型(ETH(イーサリアム)を担保にしたMakerDAO(DAI/ダイ)等)、(iii)無担保型(シニョレッジ・シェアによるコントーロールを行うBasis(ベーシス)等)に分類されています。
日本では、大手銀行がステーブルコインを発行する計画が伝えられていたり、KDDIグループとディーカレットのデジタル通貨、LCNEM chequeの事例が報道されていますが、現時点で本格的に立ち上がった事例は存在しないものと考えられます。
今回の法令等の施行では、大きな影響を受ける点はないものの、引き続き検討を要する論点が残っています。
ステーブルコインは、法令等の改正前から、その取引を暗号資産の取引として規制するか、為替取引として規制するかが問題となってきました。
ステーブルコインが改正資金決済法上の「暗号資産」(改正資金決済法2条5項各号)に当たるとすれば、ステーブルコインを業として交換等する取引所等は、「暗号資産交換業」(改正資金決済法2条7項)の登録が必要となり、犯罪収益移転防止法の特定事業者として本人確認の義務等が課されます。
一方で、ステーブルコインの取り扱いが「通貨建資産」(改正資金決済法2条6項)として暗号資産から除外され、送金としての「為替取引」に用いられるものであると考えられるのであれば、銀行法・資金決済法上の銀行業・資金移動業に当たり、これらの登録又は免許が必要となります(下記金融庁事務ガイドラインパブコメ回答も参照)。この場合、100万円以下のステーブルコインの移動については資金移動業の登録が必要となり(改正資金決済法第2条2項・第37条、資金決済に関する法律施行令第2条)、100万円を超えるステーブルコインの移動については銀行業の免許が必要となることになります(銀行法第2条第1項・第2項2号・第4条第1項)。
以上のとおり、ステーブルコインが「暗号資産」又は「通貨建資産」に該当するかは今回の法令等の改正前から生じている未解決なものではありますが、個別のケース毎に検討をすることになります。ルールの明確化のため、今後の実務の集積が期待されます。
(金融庁回答抜粋)
「たとえば、トークンの発行者と利用者との間の契約等により、発行者等が当該利用者に対して法定通貨をもって払い戻す等の義務を負っている場合、当該トークンは、原則として、当該発行者が「本邦通貨若しくは外 国通貨をもって債務の履行が行われることとされている資産」に該当すると考えられますので、資金決済法第2条第6項に規定する通貨建資産に該当し、同法第2条第5項に規定する仮想通貨には該当しないと考えられます。」「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 16 仮想通貨交換業者関係) 」に対する令和元年9月3日付「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」回答No5
Libraについても、令和2年5月1日施行法令等の影響は、上記と同様です。
なお、Libraの動向としては、世界的な金融規制当局の影響を受け、令和2年4月16日に方針の大転換がありました。もともと一種のステーブルコインとされていたLibraは、複数の通貨の「通貨バスケット」をもとにその価値を算定することになっていました。しかし、各国の金融監督当局は、国境を跨いで流通が見込まれるLibaraが先進国、後進国問わず、中央銀行の力を弱めることになりかねないとして警戒を強めていました。そうした懸念に対応する形で各国の法定通貨ごとに価格が連動する個別通貨連動型の複数のLibraを発行する方向で計画が変更されています。具体例は、ドルだけを裏付けにした「リブラドル」のほか、「リブラユーロ」や「リブラポンド」を挙げられています。
Libraについては、方針の大転換によって、当初の理想・理念は後退してしまってはいますが、当初の計画をもとにしたLibra等に関する考察については、弊所の「Libraの法的性質と今後の展望についての検討」もご参照ください。
ICO(Initial Coin Offeringの略称)とは、一般に「新規に仮想通貨を発行し、その販売によって資金を調達する方法」、IEO(Initial Exchange Offeringの略称)とは、「新規に仮想通貨を発行する主体が、その販売を第三者である仮想通貨交換業者に委託することで資金を調達する方法」とされています。
ICO・IEOについてのルールメイクについては、紆余曲折があり(詳細については、ICOで調達する際の留意点や弊所拙書である『ブロックチェーンビジネスとICOのフィジビリティスタディ』参照)、2017年末頃より、資金決済法における暗号資産規制のもとで実施されるべきという整理に落ち着いています。
なお、ルールとしては上記の整理となったものの2017年末頃から現在に至るまで、日本において適法に行われたICO・IEOは実務上存在しない状況となっています。
今回の法令等の施行では、暗号資産交換業の取り扱う暗号資産の名称等の変更に係る届出が、事前届出に変更された以外には、ICO・IEOに対して大きな影響を及ぼすものはありません。上記のとおり、既に2017年末頃より、ICO・IEOは、資金決済法における暗号資産規制のもとで実施されるべきという整理に決着していたからです。
今回の法令等の施行の前である2019年9月27日に、金融庁認定の自主規制団体である日本暗号資産交換業協会(JVCEA)は、新規仮想通貨の販売に関する規則及び新規仮想通貨の販売に関する規則に関するガイドラインを制定し、同日より施行することを発表しています。これは、ICO・IEOの審査基準を明確化するものとなります。
これまでは、新規仮想通貨の販売方法であるICO及びIEOの実施に当たり、審査基準そのものが存在しておりませんでしたが、これらの自主規制規則制定により、新規仮想通貨の発行者に確認すべき事項、同仮想通貨の購入者に対して公表すべき事項等が明確に示されることになりました。
上記審査基準に関しては、JVCEAのページよりご参照いただくことが可能ですが、改めて弊所でも説明のための記事を公表させていただく予定です。
改正資金決済法においていわゆるカストディ業が暗号資産交換業に該当することとされたため(改正資金決済法2条7項4号)、マイニングプール運営事業がこれに該当しないかが問題となります。マイニングプールとは、参加者の計算資源を集約して仮想通貨のマイニングを行い、これにより得られたマイニング報酬を参加者に分配する仕組みをいいます。マイニングプールがマイニングに成功した場合に、暗号資産ネットワークからマイニング報酬が得られますが、このマイニング報酬が参加者に分配される前に一旦はマイニングプールに保持される仕組みが取られることが多く、これを捉えて参加者の暗号資産をプール運営者が管理していると言え、カストディ業にあたるのではないかという点が問題になっています。
「他人のために暗号資産の管理をすること」という法令上のカストディ業の定義からはマイニングプールの運営がこれに該当するかは明らかではなく、またパブリックコメントにおいてもマイニングプールに関するコメントはなかったため、マイニングプール運営事業がカストディ業に該当するかどうかについて、個別に判断すべき論点といえます。
この問題については今後の議論の進展が望まれるところですが、マイニングプールのカストディ業該当性を考察するにあたっては、マイニングプール運営事業者は参加者の暗号資産を管理しているといえるのか(事業者自身に帰属する暗号資産を参加者に分配するとはいえないか)、またカストディ業を暗号資産交換業に含むこととした目的・趣旨に照らして、マイニングプール運営事業も規定対象に含まれると考えるべきなのかどうかといった各点に留意しつつ、また個別のマイニングプールの仕様、運用、利用規約等を考慮した上で、慎重な検討が求められると考えられます。
日本におけるブロックチェーンゲームとして、My Crypto Heroes (マイクリプトヒーローズ)、Etheremon (イーサエモン)、Crypto Spells (クリプトスペルズ)、くりぷ豚等が挙げられます。これらはのゲームジャンルはRPG、育成シミュレーションゲーム、カードゲームと多岐に渡りますが、いずれもゲーム内のアイテムにおいて、ETH(イーサリアム)に由来する規格の一つであるERC721等により発行された非代替性トークン、すなわちNFT(Non-Fungible Tokenの略称であり、以下単に「NFT」といいます。)が含まれていることが特徴的です。
ブロックチェーンゲームの法的論点として、改正前はゲーム内のアイテムの「仮想通貨」該当性が主要な検討事項となっておりました。
なお、ゲーム内のアイテムが仮想通貨に該当する場合、ゲーム内アイテムをプレイヤーに販売し、日本円や仮想通貨を対価として受け取るゲーム運営事業者は、暗号資産交換業者としての登録をしなければなりません(改正資金決済法2条5項)。
今回の改正により、これまでの「仮想通貨」該当性と同様に①改正資金決済法上の「暗号資産」該当性を検討することに加えて、②金融商品取引法上の「電子記録移転権利」該当性も検討する必要性が生じました。
なお、ゲーム内のアイテムが電子記録移転権利に該当するときは、ゲーム内アイテムをゲーム運営事業者自らが発行して販売する場合、原則として当該事業者は第二種金融商品取引業の登録を受けなければなりません(改正金商法28条2項1号、29条、2条8項7号ト、改正金商法施行令1条の9の2第2号)。また、ゲーム運営事業者以外の第三者が発行するトークンをゲーム運営事業者が販売する場合、原則として当該事業者は第一種金融商品取引業の登録を受けなければなりません(改正金商法28条1項1号、29条)。
さらに、上記に加えてゲーム内アイテムの発行者は、販売を行う際に原則として、私募の要件(上記3(2)ウ(ア))を満たさない限り、有価証券届出書の提出義務等を課されます(改正金商法4条1項)。
①について、ゲーム内のアイテムが、NFTとして、決済手段等の経済的機能を有しないのであれば、当該アイテムは、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値」(改正資金決済法2条5項1号)(いわゆる「1号暗号資産」)に当たらず、かつ「不特定の者を相手方として前号に掲げるもの(いわゆる1号暗号資産を指す)と相互に交換を行うことができる財産的価値」(同項2号)(いわゆる「2号暗号資産」)にも当たらないとして「暗号資産」に該当しないと考えられます。この解釈は、これまでのNFTの「仮想通貨」該当性を否定する下記金融庁事務ガイドラインパブコメNo4の解釈と同趣旨です。
(金融庁回答抜粋)
「例えば、ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、1号仮想通貨と相互に交換できる場合であっても、基本的には1号仮想通貨のような決済手段等の経済的機能を有していないと考えられますので、2号仮想通貨には該当しないと考えられます。」「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 16 仮想通貨交換業者関係) 」に対する令和元年9月3日付「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」回答No4
②について、例えば、ユーザーが保有しているのみで配当等の権利収入が得られるゲーム内アイテムであるような場合、当該アイテムは「電子記録移転権利」として扱われ、上記の金商法上の規制に服する可能性が生じます。「電子記録移転権利」に該当する否かは、ゲーム内での仕様態様も含めた個別のケース毎に検討をすることになりますので、今後の実務の集積により、「電子記録移転権利」該当性の範囲が明確になることが期待されます。
その他古物商を用いた新しい暗号資産市場、電力、電子契約等に関するビジネス領域で、ブロックチェーン技術を用いた新しいサービスが模索されていますが、その点のリーガルスキームについては、今後検討をした上で公表をさせていただければと考えています。
【執筆者】
弁護士 小笠原 匡隆
同 柳 田 恭兵
同 味 香 直希
同 松 永 昌之
同 官 澤 康平
同 高 井 雄紀
同 島 内 洋人