『半沢直樹』に登場する「債権放棄」とは?
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Chika Minami
目次
先日の「新型コロナウイルスに関する企業法務の実務(債権回収編)」では、新型コロナウイルスの影響により企業の破産数の増加が予想されることを踏まえ、取引先が破産し、もしくは破産のおそれがある場合に採るべき対応について概括しました。
そして、その後も新型コロナウイルスの影響による法的整理・事業停止は増加の一途を辿っており、株式会社東京商工リサーチの調査によれば、2020年4月27日17時00分現在で全国累計100件に達したようです。同調査では、新型コロナウイルス関連の経営破綻が、2月は2件、3月は23件、4月は27日までに75件と加速度的に増加していることが報告されており、経済活動の収縮がしばらく続くことが予想されることにも鑑みると、もはや新型コロナウイルス関連の経営破綻と無関係でいられる企業の方が少なくなるかも知れません。
そこで、本稿では、破産会社がどのようなスケジュールでどのような準備をし、どのような手続で破産が完了するのかを知ることで、取引先等が破産した場合の備えの一助となるよう、破産会社の目線で経営危機から破産手続開始の申立てに至るまでや破産手続開始後の手続、法人破産における注意点等を解説します。
会社の資金繰りが悪化し、様々な経営改善策を尽くしてもなお経営状況が改善せず、事業継続が危ぶまれるような経営危機状態に陥ったときには、いよいよ債務整理を検討せざるを得ません。債務整理を検討するにあたっては、債務整理を予定していることが知られると債権者による債権回収が強化されたり、取引債権者との取引に支障が生じたりすることから、債務整理に関する情報は役員等の経営陣と一部の従業員(事業上のキーマンや経理担当者等)までの開示に留め、密航的に進める必要があります。
この段階に至ると具体的な債務整理の方針やスケジュール等の検討を行うために弁護士等の専門家に依頼する必要があります。
なお、事業の運転資金や当面の生活費に充てるために、クレジットカードによるキャッシングを行ったり、高額な商品を購入して売却をする等の換金行為を行ったりする例が見受けられますが、債務整理の準備段階に入った後にこれらの行為を行うことは免責不許可事由にもなり得るため(破産法252条1項2号)、注意が必要です。
債務整理といっても、大きく分けて債務整理後の事業継続を前提とする再建型と債務整理後の会社の清算を前提とする清算型の2パターンの手続が存在します。さらに、裁判所等の関与の下で法令に則って行う法的整理と原則として債権者との合意で債務整理を行う私的整理の2パターンの手続が存在します。
再建型の手続の代表例は民事再生や会社更生で清算型の手続の代表例は破産や特別清算です。これら4つの手続はいずれも法的整理に分類されますが、私的整理は、債務者が第三者的機関の関与なく債権者と個別に債務免除の合意を行う純粋私的整理と、第三者的機関の関与の下で行う準則型私的整理が存在します。準則型私的整理の代表例は私的整理ガイドライン、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会による私的整理手続、株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)による私的整理手続、特定調停などです。
さて、このように一概に債務整理といっても採りうる処理方針は様々です。これらの手続のうちのどれを選択するかを検討するにあたっては概ね以下の要素が影響します。
まず、何よりも債務者(経営者)において事業継続の意向がなければ事業継続はおよそ困難であり、再建型の債務整理を行うことはできず、清算型の債務整理を検討することになります。
再建型の債務整理を行うには、営業損益を黒字化させることが可能か、事業に不可欠な資産に担保権が設定されている場合に担保権者の協力を得る等してこれらの資産を維持することが可能か、取引債権者との取引の継続が可能か、従業員からの協力を得ることが可能かといった事業継続の見込みがあることが必要になります。
また、再建型の債務整理を行う場合には、当面数ヶ月分の運転資金の資金繰りを確保することができている必要があり、自社のみで資金が不足する場合にはスポンサー候補を見つけておく必要があります。
再建型の債務整理を行う場合、債務の免除により多額の債務免除益が発生するため、これにより債務免除益課税が生じてしまうと資金繰りに支障を来すことになり得ます。そのため、再生計画等によって生じる債務免除益を想定し、相殺可能な繰越損失がどの程度あるかといった検討が必要となります。
破産手続以外の手続を行う場合、法令上、破産手続を行った場合よりも債権者に対する配当額が大きくなる必要があります(清算価値保障原則)。純粋私的整理の場合も、法令上の制限はないものの、破産手続を想定した場合の配当額を下回る場合には債権者が債務免除に同意しないと考えられます。
これらの要素の検討を経た上で、なお、再建型の債務整理を行うことが困難であり、かつ、債権者からの同意を得ることが困難で特別清算を行うことも困難である場合、破産手続開始の申立てを視野に入れて準備を進める必要があります。
まず、破産手続開始の原因は、「債務者が支払不能にあるとき」(債務者が法人の場合は債務者が「支払不能又は債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいう。)」にあるとき。破産法15条1項、16条1項)であり、破産手続が開始されるにあたっては、法人の場合、支払不能又は債務超過のいずれかにあることが必要となります。資金繰りに窮している会社の場合、破産手続開始の原因の有無が問題となることはまずありません。
法人破産の破産手続開始の申立ての決定から実際に申立てに至るまでの流れは、概ね以下のとおりです。
ⅰ 取締役会で事業廃止及び破産手続開始の申立てを決議する(会社法362条4項。取締役会非設置会社の場合は取締役の決定)
ⅱ 現金、会計帳簿、預金通帳等の重要書類を申立代理人弁護士に預ける。
ⅲ 従業員に対する事情説明を行い、従業員を即日解雇する(一定期間の事業継続を行う場合や破産管財人への引継ぎに必要な従業員については雇用を継続するか予告解雇する。)。
ⅳ 財産保全のため、事務所・倉庫・店舗等を厳重に戸締りし、告示書(債権者に対する謝罪や破産申立て予定であること等の掲示)を貼付する。
ⅴ 破産手続開始申立書等の必要書類の作成・準備
ⅵ 管轄裁判所に対する破産手続開始の申立て及び費用の予納
公租公課の滞納があり、国税滞納処分がありうる場合には、迅速に破産手続開始の申立てを行う必要があります。破産手続開始決定後は破産財団に属する財産に対する国税滞納処分をすることはできませんが(破産法43条1項)、破産手続開始決定までに既にされている国税滞納処分は続行を妨げられないため(同条2項)、税務署等としては破産手続開始決定前に国税滞納処分をしてしまえば滞納分の回収が可能となり、その分他の債権者に対する配当原資が失われることになります。
そのため、破産手続開始の申立ての準備を行うにあたっては、公租公課庁に破産予定を知られないことが極めて重要です。仮に、現金を申立代理人の預り金口座に異動させる前に国税滞納処分がされてしまうと、債権者に対する配当原資どころか申立費用すらも確保することが困難となります。
同様に、債権者である金融機関にも破産予定を知られないことが重要です。金融機関が破産予定を知った場合には、期限の利益を喪失したとして、口座がロックされ、口座残高の預金債権と借入金債務とが相殺されてしまいます。
このように、法人破産にあっては、公租公課庁や金融機関に破産予定を知られないように、密航的に破産手続開始の申立ての準備を行うことが一般的であり、個人破産の場合と異なり、実際に破産手続開始の申立てを行うまで債権者に対して受任通知を送付しないことが多いです。なお、申立費用を直ちに確保できない場合などは、受任通知を送付して事業を停止し、一定の売掛金を回収するなどして申立費用を確保した上で破産手続開始の申立てを行うこともあります。
法人破産において労働者の賃金や退職金を支払うことができない場合、独立行政法人労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度を利用することが考えられます。この制度は、労働者災害補償保険の適用事業で1年以上事業活動を行っていた事業者に雇用された者が、その企業の破産手続開始申立日の6ヶ月前の日から2年間の期間内に退職したときは、同機構による未払賃金等の立替払を受けることができるという制度です(賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)7条、同法施行令3条1号)。この制度で立替払の対象となるのは、退職日の6ヶ月前の日から立替払請求の前日までに支払期限が到来している未払定期賃金(労働基準法24条2項本文に規定する賃金)及び退職手当であり、それぞれ、原則として合計額の80%の金額です。労働者の退職時の年齢によって立替払上限額が定められています(賃確法施行令4条1項)。なお、この制度による立替払請求の具体的な手続は、退職した従業員が機構所定のフォーマットの立替払請求書を作成し(各従業員が個別に作成するのではなく、破産会社の経理担当者等がまとめて作成することが一般的である)、破産管財人が賃金の金額等が正しいことを証明する証明書(立替払請求書のフォーマットと一体となっています。)を交付し、審査に必要な証拠書類を機構に対して送付することになります。破産会社の労働者の再就職先が直ちに見つかるとは限らず、労働者の保護のためにも早期に機構による立替払が実現することが重要であり、そのため、破産管財人による証明がスムーズに行われるよう賃金台帳や退職金規定等を確保し、破産管財人に早期に引き継ぐことが必要です。
親族に迷惑を掛けたくない等の理由で、破産手続開始の申立ての直前に親族に対する借入れ等を弁済する例が見受けられますが、支払不能になった後等に行われた偏頗弁済は破産管財人による否認の対象となるほか(破産法162条、161条2項3号(親族の場合は悪意推定がされます。))、免責不許可事由(同法252条1項3号)に該当する場合もあります。また、特定の債権者に破産を知られたくない等の理由から、破産手続開始申立書に添付する債権者一覧表に一部の債権者を記載したくないとの要望を債務者から受けることがありますが、破産者が知りながら債権者一覧表に記載しなかった債権は原則として非免責債権(破産法253条1項6号)に該当し、当該債権自体が免責されないほか、免責不許可事由(同法252条1項7号)にも該当し得るため、このような対応を取ることはできません。
なお、これは申立代理人の注意点ですが、破産手続開始の申立ての準備を行うにあたっては、事前に管轄裁判所を確認することが重要です。一般的な訴訟などにおいても管轄裁判所は重要ですが、破産事件においては裁判所によって運用と書式が大きく異なり、破産手続開始申立書やその添付資料の書式が異なる場合、差し替えて提出のし直しを求められることもあり、無用な時間を要してしまうことにもなりかねません。さらに、申立てから開始決定までのスケジュールや引継予納金の金額についても裁判所によって基準が異なります。
国税滞納処分がありうる場合には可能な限り早期に破産手続開始の申立てを行うことになりますが、そうではない場合、一般的には申立てを行ういわゆる「Xデー」を設定し、Xデーに向けて申立ての準備を行うことになります。例えば、二度目の手形不渡りが出て銀行取引停止処分となる日や売掛金の回収日で十分な申立費用を確保できる日などをXデーとして設定します。
裁判所によって運用が異なりますが、東京地方裁判所(本庁)の場合、通常は破産手続開始の申立てを行った日の翌週の水曜日の午後5時に破産手続開始決定がされますが、国税滞納処分がありうる場合や早急な財産保全等が必要な場合には申立てを行った日に即日、破産手続開始決定がされることもあります。
破産手続開始の申立てを行った場合、申立日中には破産管財人候補者が決定するので、債務者と申立代理人は破産手続開始決定までに破産管財人候補者と面談し、事件の説明と重要書類の引継等を行います。
ここでは、破産手続開始後の破産者に課される種々の制約、特に破産会社と同時に破産手続開始決定がされた破産会社の代表者等の個人に課される制約について説明します。なお、ここでは裁判所から破産管財人が選任される管財事件を想定して説明します。
破産手続開始の決定があった場合、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、破産管財人に専属します(破産法78条1項)。破産財団とは、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)をいいます(同法34条1項)。そのため、破産手続が開始されると、破産手続開始決定がされた時点で破産者が有する財産は、原則として破産管財人がすべて換価し、財団債権の弁済や破産債権者への配当に充てられます。
もっとも後述のとおり、例外的に破産手続開始決定がされた時点で破産者が有する財産のうち破産財団に帰属しない財産があり、これを自由財産といいます(破産法34条3項)。自由財産は破産管財人による換価の対象とならず、破産手続開始後も破産者が保有し続けることができます。
このように、破産手続開始決定がされた時点で破産者が有する財産のうち自由財産を除く財産は、原則として破産管財人が換価して債権者への配当原資となるため、破産者が保有し続けることはできません。
破産法では、以下のものが自由財産とされており、これらの財産は破産管財人による換価の対象とならず、破産手続開始後も破産者が保有し続けることができます。
・破産者が破産手続開始後に新たに取得した財産(新得財産)
・99万円以下の現金(破産法34条3項1号、民事執行法131条3号、民事執行法施行令1条)
・民事執行法やその他の特別法に基づく差押禁止財産及び権利の性質上差押えの対象とならない財産(破産法34条3項2号)
・裁判所によって自由財産の拡張が認められた財産(34条3項)
上記のうち99万円以下の現金には預貯金債権を含まないので注意が必要です。民事執行法上の差押禁止財産(民事執行法131条、152条)としては、家財道具や給料・退職金の4分の3相当額などがあり、特別法上の差押禁止財産としては、企業年金(確定給付企業年金法34条、確定拠出年金法32条1項)、労働者の補償請求権(労働基準法83条2項)、生活保護受給権(生活保護法58条)、各種年金受給権(国民年金法24条等)などがあります。
自由財産の拡張は自由財産拡張の申立てを要するのが原則ですが、裁判所ごとの運用によってあらかじめ自由財産の範囲が拡張されている場合があります。例えば、東京地方裁判所(本庁)の場合は、以下のような個人破産の換価基準が定められており、以下のいずれかに該当する財産は換価等をしない財産として破産管財人による換価は行われません。
① 99万円に満つるまでの現金
② 残高が20万円以下の預貯金
③ 見込額が20万円以下の生命保険解約返戻金
④ 処分見込額が20万円以下の自動車
⑤ 居住用家屋の敷金債権
⑥ 電話加入権
⑦ 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権
⑧ 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7
⑨ 家財道具
⑩ 差押えを禁止されている動産又は債権
また、破産財団に属する財産であっても、破産管財人が換価することを断念し、破産財団から放棄した財産も自由財産として扱われます 。
破産者は、病気などで出席が不可能な場合などを除き、原則として債権者集会に出頭する必要があります。法人破産の場合で債権者が出席している場合には、債権者への感情に配慮して、債権者集会において破産会社の代表者からお詫びとともに挨拶を行う場合もあります。
破産者は、破産管財人等に対する説明義務を負い(破産法40条、250条2項)、裁判所に対して重要財産開示義務を負います(同法41条)。そのため、破産手続中に破産管財人から説明を求められた場合にはこれに誠実に対応する必要があり、説明を拒否したり、虚偽の説明をしたり、これらの義務に違反したりすると免責不許可事由にもなり得(同法252条1項8号、11号)、さらには刑事罰のある破産犯罪にも該当し得ます(同法268条等)。
また、破産手続中は、破産者宛の郵便物はすべて破産管財人に回送され、破産管財人はこれを開封して確認します(破産法81条1項、82条1項。破産法上は郵便物の回送嘱託は任意とされていますが、通常は全件で郵便物の回送嘱託が行われています。)。東京地方裁判所(本庁)の場合、郵便物の回送は第1回債権者集会まで続きますが、破産管財人が延長の必要性があると判断したときは延長され、最長で破産手続終了時まで続きます。なお、破産手続中は、破産者が転居したり、海外渡航や長期間の国内旅行を行ったりするには、破産管財人の同意を得た上で裁判所の許可を得なければなりません(同法37条1項)。
破産手続開始の決定を受けた場合、破産者は職業に関しても一定の制約を受けます。例えば、株式会社と役員との法律関係は委任契約ですが(会社法330条)、委任契約の当事者が破産手続開始の決定を受けたことは委任の終了原因であるため(民法653条2号)、破産手続開始決定により取締役・監査役は退任することになります。ただし、破産手続開始の決定を受けたことは、取締役・監査役の欠格事由ではないため(会社法331条1項、335条1項)、破産後に他の会社の取締役・監査役に就任することは可能です。
また、破産すると復権(破産法255条、256条)するまで就くことができない就職制限のある職として、弁護士、弁理士、司法書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、証券外務員、警備員などがあります。
上記の法的な制約に加え、破産した場合、事故情報が一定期間にわたって、JICC(株式会社日本信用情報機構)、CIC(株式会社シー・アイ・シー)、KSC(一般社団法人全国銀行協会 全国銀行個人信用情報センター )等の信用情報機関に登録されます。そのため、信用情報機関に事故情報が登録されている間はクレジットカードを作ろうとしても審査に通らない可能性が高いです。
法人代表者等の個人破産手続は、法人破産にはない免責手続があるため、破産管財人による免責調査が行われます(破産法250条)。破産管財人による免責調査の結果、免責不許可事由(同法252条1項)がない場合又は免責不許可事由があっても免責することが相当である(同条2項)場合には、破産管財人から免責相当の意見が述べられ、破産管財人の意見を踏まえて裁判所により免責許可又は免責不許可決定がされます。東京地方裁判所(本庁)の破産手続の運用では、一般的には破産手続が廃止される又は配当手続に移行する際の債権者集会において免責審尋期日が開催され、破産管財人から免責に関する意見が述べられ、それから1週間程度で裁判所から免責許可(不許可)決定がされ、申立代理人宛に決定書が送達されます。
免責許可決定が確定すると破産者は復権するため(破産法255条1項1号)、前述の資格制限等はなくなります。また、前述のとおり、一定期間にわたって信用情報機関に事故情報が登録されるという制約はあるものの、改めて起業することも問題ありません。
以上のとおり、法人破産を検討するにあたっては、破産管財人による否認権の行使や免責不許可事由との関係での注意が必要であり、適切な対応を取ることが重要となるため、早期に弁護士にご相談されることをお勧めいたします。