『半沢直樹』に登場する「債権放棄」とは?
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Chika Minami
事業承継について関心がある方は種類株式の活用という手法について聞いたことがあるかもしれません。事業承継する際の悩みの種でもある株式・経営権の分散防止・集約の点や経営権の移転のタイミングでも、種類株式を活用することで問題が解決する場合があります。本記事では、種類株式の概要と活用方法について解説します。
そもそもなぜ事業承継において種類株式が活用されるのでしょうか。その理由は、自社株式の分散という事業承継における問題点を回避することにあります。
後継者の経営基盤を安定させるためには先代経営者が保有する自社株式を後継者に集中して承継させることが望ましいことは言うまでもありません。しかし、実際には先代経営者に後継者以外にも相続人がいることが多く、後継者に自社株式をすべて贈与したり、相続させたりした場合には遺留分の問題が生じるほか(なお、令和元年7月から施行された改正相続法により、遺留分権利者は侵害者に対して金銭請求ができるのみとなったため(改正民法1046条1項)、後継者が取得した自社株が他の相続人に移転するということはありませんが、依然として後継者の資金面の問題が生じます。)、後継者の納税資金が十分にないために自社株式を売却せざるを得ないという事態が生じます。このように遺留分等の相続における制約や資金面での制約があるため、後継者に自社株式を集中して承継させようとしても上手くいかず、自社株式が各相続人に分散してしまう状態が生じます。
なお、平成30年の特例納税猶予制度では、後継者を3名まで指名することができるようになりましたが、令和5年3月31日までに特例承継計画を提出し、令和9年12月31日までに株式の贈与・相続を行う必要があるため、とりあえずは、現時点で可能性のある複数の後継者に株式を分散させて保有させておき、いずれ後継者が確定した段階で集中させればよいと考えてしまいがちです。特例納税猶予制度を利用する場合にも特例承継計画を提出する段階から自社株式の分散には注意しなくてはなりません。
会社の重要事項の決定権限を後継者に集中させることで経営体制を安定して承継することが求められる事業承継の場面においては、自社株式の分散防止・集約を図ることは一層重要となります。分散した株式を、個別に株主との合意によって回収することも不可能ではないですが、後継者と他の株主との間で必ず合意が成立するとも限りません。
そこで、自社株式を現経営者・後継者に集中させたり、会社の重要事項の決定権限を後継者に集中させたりするために種類株式の活用が検討されます。
また、事業承継の場面では、経営権の移転のタイミングも問題となります。
一般に株式は議決権と結びついているため、株式を移転することで経営に関する重要事項の決定権限も移転することになります。後継者がすでに決定している場合であっても、後継者が経営者として未熟である場合や、現在の経営者がまだまだリーダーシップを発揮していきたいような場合には、経営権の移転を伴う株式移転には慎重になることでしょう。
一方で、譲渡や贈与により生前に後継者に株式を承継する手法を選択する場合、株式の評価額が低くなるタイミングで承継を実施することも重要となります。その結果として、経営権が移転するタイミングが経営者の希望するタイミングとずれてしまう、という問題が生じうるのです。
この問題を解決するためにも種類株式の活用が検討されます。具体的には、後継者に対して株式のほとんどを承継しつつ、現経営者のもとには決定事項について拒否する権限を付与した株式を残しておくという手法が考えられます。
本稿では、株式の承継と経営権の移転のタイミングのズレの問題を、種類株式を活用することで解消する手法についても紹介していきます。
同じ株主であっても、多様な経済的ニーズ・会社支配に対するニーズが存在することに対応すべく、会社法は、一定の事項について権利内容の異なる株式の発行を認めており(会社法108条1項各号)、これらの株式を種類株式といいます。
異なる内容を定めることのできる事項は、次表のとおりであり、これらを複数組みわせることも可能です。例えば、配当に関しては優先的な取扱いを定めながら、議決権は存在しないというような株式も発行することが可能です。いずれの種類株式を発行する場合でも、これらの事項と発行可能種類株式総数を定款で定めなければなりません(会社法108条2項本文)。
機能 | 異なる内容を定めることのできる事項(種類株式) |
議決権に関するもの | ①株主総会において議決権を行使することができる事項(議決権制限株式) ②当該種類株主の種類株主総会において取締役・監査役を選任すること(役員選任権付種類株式) ③株主総会・取締役会等において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類株主の種類株主総会の決議があることを必要とするもの(拒否権付種類株式) |
株式の譲渡に関するもの | ①譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(譲渡制限株式) ②当該種類の株式について株主が株式会社に対してその取得を請求することができること(取得請求権付株式) ③当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること(取得条項付株式) ④当該種類の株式について、株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること(全部取得条項付種類株式) |
経済的利益に関するもの | 剰余金の配当又は残余財産の分配に関する種類株式 |
一方で、上記に挙げていない事項について株式ごとに異なる取扱いを定めることはできません。もっとも、非公開会社であれば、株主ごとに異なる取扱いを定めることは認められています(会社法109条2項 属人的定め)。
以下では、種類株式の中で事業承継の場面において活用されるものを挙げ、その活用方法等を具体的に紹介していきます。
株式は自由に譲渡できるのが原則です(会社法127条)。一方で、株主は株主総会における議決権を有することになるため、誰が株式を保有しているかは会社の安定した経営を実現するうえで極めて重要になります。
そこで、株式会社は、会社にとって好ましくない者が株主となることを防止するために、株式に譲渡制限を付すことができます(会社法107条1項1号、108条1項4号)。この譲渡制限を付された株式のことを譲渡制限株式といいます。中小企業の場合、全株式について譲渡制限が付されていることが多いです。
具体的には、譲渡制限株式を譲渡しようとする場合には、原則として、株主総会又は取締役会の承認が必要となります。会社にとって好ましくない者が株式を譲り受けようとしている場合、会社はその譲渡を承認しないことによって拒否することができます(但し、承認しない場合には、会社又は会社が指定する指定買取人が当該株式を買い取らなければなりません。)。また、承認を経ていない株式の譲渡については、会社は有効な譲渡として認める必要がなく、議決権の行使に関しても、それまでの株主をそのまま株主として扱うことで会社としての株主に対する義務を果たしたことになります。
このように、譲渡制限株式を活用することで、会社の経営を阻害するおそれのある者が株主総会において議決権を行使する事態を防止することができます。
株式に譲渡制限がない場合、現経営者に対しては好意的で協力的だった株主が、経営者の交代に伴い会社に対して興味を失う等の事情によって経営者の意に反する形で株式を手放してしまい、会社にとって好ましくない者が株主となって後継者の経営を阻害することも想定されます。
こういった事態を防止し後継者に安定して経営できる状況を引き継ぐために、譲渡制限株式を活用することで事業承継に向けて株主を管理できる状態を整えることが重要となります。特に、税金対策や安定株主の創出のために従業員持株会を設置する場合や、モチベーション維持のために役員や従業員に株式を分配するような場合には、これらの株式を譲渡制限株式とすることで株式の分散を防止することができます。また、定款に別段の定めをすることで譲渡承認機関を代表取締役等とすることもできるため(会社法139条1項但書)、会社の体制に応じた制度設計を考えることも重要になります。
議決権制限株式とは、株主総会において議決権を行使できる事項について内容の異なる株式です(会社法108条1項3号)。一切の事項について議決権がないものとする完全無議決権株式が多く活用されますが、一定の事項についてのみ議決権を制限することや議決権の行使条件を定めることも可能です。
公開会社における議決権制限株式の発行数は、発行済株式総数の2分の1以下でなければなりませんが(会社法115条)、非公開会社においては発行数に制限はないため、柔軟な利用が可能となっています。
一方で、議決権制限株式であっても株主としての全ての権限を否定されるわけではないため、配当請求権はもとより、会計帳簿の閲覧請求権や、取締役の責任追及訴訟の提起をする権利等はなお認められます。
株式が分散することの問題点は、会社の重要事項に関する決定権限が分散してしまうことにより、経営者による主導的・機動的な意思決定が阻害されることにあります。
株式の分散に事前に備えるために、議決権制限株式の活用が検討されます。後継者ではない相続人に相続される株式を議決権制限株式となるようにすることで、株式自体は分散しますが、経営権自体は後継者のみに集中的に承継することが可能となります。
具体的には、事前に現経営者の保有する株式を議決権のある株式と議決権制限株式とになるように調整し、遺言によって後継者には議決権のある株式を、その他の相続人に対しては議決権制限株式を相続するように指定しておく等の手法が考えられます。
議決権が存在しない株式を承継することに対しては一定の不公平感や反発も生じえます。株主が後継者に対して不公平感を抱いているような事態は、安定した経営確保という観点からは避けておきたいところです。こういった場合には、議決権制限株式については配当優先株式とする等、他の条件を付加することで利害を調整しておくことができます。
会社は、一定の事由が生じたことを条件として、会社がその株式を強制的に取得することができるような種類の株式を発行することができます(会社法108条1項6号)。このような種類の株式を取得条項付株式といいます。
取得条項付株式を活用することで、発行時点での株主構成には問題がない場合であっても、将来的に不都合が生じた際には、その株式を回収することができるようになります。
会社は取得条項付株式を取得する際には該当株式の株主に対して取得の対価を交付することになります。取得の対価としては当該会社の他の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、金銭等のその他の財産等があり、株式以外の財産を対価とする場合にはその財産の帳簿価額が取得事由の生じた日における分配可能額(会社法461条2項)を超えると取得の効力が生じない(会社法170条5項)という制限があることに注意が必要です。
「一定の事由」として適切な取得条件を定めることで、当該株式が会社の経営にとって好ましくない者に分散してしまう事態を防止でき、後継者にとって安定した経営権の確保を実現することにつながります。例えば、株主の死亡を取得事由とすることで、当該株主の相続人に株式が分散することを防止できます。
この取得事由を定めることは、議決権を有する普通株式であっても被相続人の株式の保有割合が大きければ大きいほどその必要性が高まりますが(予想外の者に分散した場合に会社の経営への影響力が大きくなるため)、特に、後述する拒否権付種類株式のような経営に対して影響力の大きい株式が後継者以外の者に分散することを防止する上で有効となります。また、このように強力な株式については、株主の判断能力が低下した場合に備えて、医師の診断結果や後見開始決定を基準とした判断能力の低下を取得事由として定めることも考えられます。
加えて、すでに発行されている無議決権株式を普通株式に転換するために活用することもできます。後継者が確定する前に相続税への対策としてあらかじめ、複数の後継者候補の相続人に譲渡しておくような場合に、取得条項付無議決権株式(発行後に会社が任意に取得日を定めることとし、取得の対価を普通株式とする取得条項を付する。)として譲渡しておけば、後継者が確定した後に、後継者が保有する株式のみ取得対価として普通株式を交付し、非後継者が保有する株式は転換しないとすることで、後継者だけが経営権を確保する状況を作ることができます。
相続時に株式以外の財産がなく会社にも買い取り資金が不十分であるなか、非後継者である相続人が経営権を求めない代わりに現金の承継を望んだような場合に、非後継者の取得する株式を無議決権株式としつつ金銭を取得対価とする取得条項付株式として将来的に資金余力が生じた時点で取得するという手法により、後継者に円滑に経営権を承継するために活用することもできます。
全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができる種類株式のことをいいます(会社法108条1項7号)。
全部取得条項付種類株式は一般的に、私的整理において100%減資を行うための手段のほか、M&A等の場面において少数株主を排除するキャッシュアウトのために活用されます。
事業承継の前提として、経営者に株式を集中させ100%株主となることを企図する場合に活用が検討されます。株式の集中を図る場合、まずは、他の株主と合意による取得を目指すことになりますが、株主からの合意が得られないような場合であっても、全部取得条項付種類株式とすることで強制的な取得が可能となります。この場合、対価として少数株主に端数となるような割合で株式を交付し、端数処理を行うことで少数株主が排除されることになります。
また、全株式を回収することに理解を得られない場合であっても、全部取得条項付種類株式を活用することで株式自体は分配したまま経営権の集中のみを図ることも可能となります。具体的には、全部取得条項付種類株式と議決権制限株式の発行を可能とする定款変更を行い、既存株式の全部を全部取得条項付種類株式に変更したうえで、経営者・後継者には普通株式を新たに割当て、その上でさらに議決権制限株式を取得対価に全部取得条項付種類株式を会社が強制的に取得します。これによって、議決権を有する株式は経営者・後継者のみに集中することになります。
一方で、経営権確保のためにキャッシュアウトを図る株主総会の決議は、株主総会の決議取消事由(会社法831条1項)に該当する可能性もあるため、慎重な活用が求められます。
拒否権付種類株式とは、株主総会等において決議すべき事項について決議するにあたって、当該決議に加え、当該拒否権付種類株式の株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とすることを内容とする種類株式です(会社法108条1項8号)。通常であれば、株主総会等の決議等で実施できる事項について、別途種類株主総会の決議が必要となることで、拒否権付種類株式を有する株主はその事項について賛成しないことによって決議事項を拒否することが可能となります。
拒否することのできる対象事項は、株主総会、取締役会又は清算人総会において決議すべき事項であり、発行に際して定款に定める必要があります。
現経営者が後継者に議決権のある普通株式を生前譲渡することを計画しているものの、承継後も一定期間は経営に関与したいような場合に活用が検討されます。
株式を承継することで経営権も移転してしまうところ、株式を譲渡・贈与するうえでは取得対価や税金への配慮の観点から株式評価額が低い時点で実行することも重要となるため、必ずしも承継の実行タイミングと理想の経営権の移転のタイミングが一致するとは限りません。
このような場合であっても、あらかじめ拒否権付種類株式を発行し、普通株式の承継後も現経営者が当該種類株式だけは保有し続けることで、承継後においても決定事項についての拒否権を有する立場から影響力を維持したまま経営に関与することが可能となります。
但し、拒否権付種類株式を活用する上ではいくつか注意点もあります。
拒否権付種類株式は保有する株主の権限が非常に強力となる株式であることから、意図せずほかの者に移転してしまうような事態は避けなければなりません。一方で、拒否権付種類株式を保有する現経営者が不慮の事故などで突如として死亡してしまった場合、その相続人に拒否権付種類株式が分散してしまいます。そこで、拒否権付種類株式には譲渡制限を付した上で、相続による分散が生じないように現経営者の死亡を取得事由とする取得条項を付しておくが考えられます。
また、現経営者と後継者が対立し、長期にわたって対立関係が解消されないような場合には適切に事業承継がされず、会社の経営が停滞してしまう事態も生じえます。このような場合に備えて、適切な取得条項を付すことや、株主総会において一定割合以上の承認が得られた場合には再度の拒否権付種類株主総会における決議は不要とするような定めを置くといった対策を講じることも考えられます。
非公開会社においては、①剰余金の配当を受ける権利、②残余材残の分配を受ける権利、③株主総会における議決権に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行うことを定款に定めることができます(会社法109条2項)。こうした定めのことを、属人的定めといいます。
属人的定めはあくまで株主を基準とする定めであって、厳密には種類株式には該当しませんが、この定めによって個々の株主ごとに異なる取扱いが可能となり、種類株式と似た機能が期待できます。
属人的定めにより、議決権に関して株主ごとに異なる取扱いが可能となるため、経営権の安定化を図るために拒否権付種類株式と同様な活用が検討されます。
例えば、経営者のみ1株につき議決権を1,000とし、他の株主は1株あたり1議決権とすることで、経営者から後継者にほとんどの株式を承継し終えた後であっても現経営者は少ない株式で経営権を維持することが可能となります。
また、種類株式は発行の有無や内容について登記することが必要となるものの、属人的定めではその必要がないため、社外の者に知られることなく対策を実行できるというメリットもあります。
会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得したものに対し、その株式を会社に売り渡すことを請求できる旨を定款に定めることができます(会社法174条)。
会社にとって好ましくない者に株式が移転することを防止する策としては譲渡制限株式を活用する手法を紹介しましたが、相続による移転は「譲渡」による移転にはあたらないため、譲渡制限株式とするだけでは相続による株式の承継を防止することはできません。
そこで、相続による株式の分散を防止するべく、譲渡制限株式を活用しつつ、相続人等に対して承継株式の売渡請求できる旨を定款に定めておくことも検討されます。
注意すべきは、後継者に対する相続による承継にもこの定めは適用があり、しかも買取請求するか否かを決定する株主総会において承継人は議決権を行使できないため(会社法175条2項)、適切な備えを欠いた場合、後継者が相続により取得した株式について買取請求が行われ、経営権を確保できないという状況もありえるということです。
このような事態の対策としては、現経営者以外の株主の株式を売渡請求に関する議決権制限株式としておくことや、現経営者の保有株式を持分会社に移転しておくこと等が考えられます。
株式併合とは、2株を1株にする等、複数の株式をあわせて1株とすることです。
少数株主の保有する株式が株式の併合後に1株未満となるような割合で株式併合を実施し、端数処理として金銭を交付することで少数株主を株主から排除することができます。
合意による株式の取得が困難な場合に株式の集約を図るための手法として活用することができます。
平成26年の会社法改正によって株式併合への反対株主に買取請求が認められたことで(会社法182条の4)、不公正感による制度利用への心理的抵抗が解消されたこともあり、全部取得条項付種類株式を活用する手法よりも簡便で税務上も負担が少ない株式併合手続の活用は今後増加していくことが見込まれています。
株式等売渡請求制度とは、総株主の議決権の90%以上を有する特別支配株主が、他の全株主に対して全ての株式の取得を請求することができる制度です(会社法179条1項)。平成26年の会社法改正により新設されました。
現経営者が株式の大多数を保有している場合に株式の全部を集約するための手法として活用することができます。また、株主総会決議や端数処理が必要とならないため、全部取得条項付種類株式の取得や株式併合の活用よりも手続が容易であるという特徴があります。