臨床研究法に基づく企業の資金提供の公表義務を再点検―法改正の影響と実務対応ポイント
Attorney admitted in Japan
Kayoko Tanaka
ペット(愛玩動物)のオンライン診療は、無診察治療を禁止する獣医師法18条との関係が問題とされてきました。従来は公益社団法人日本獣医師会の指針(2022年6月策定)において遵守事項等が示されてきましたが、2024年12月27日、農林水産省により「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」が策定され、初めて国による指針が公表されました。本記事では、指針策定の背景を整理した上で、初診の扱いや医薬品の処方制限など、ペットのオンライン診療を適法に行うために遵守すべき事項を、従来の指針との相違点を踏まえて解説します。
Graduated from Kyoto University's Faculty of Law in 2011, completed Kyoto University Law School in 2013, and passed the bar exam the same year. Registered as a lawyer in 2014 (Osaka Bar Association). Joined Irokawa Law Office in 2015. Seconded to the Consumer Affairs Agency's Labeling Division in 2020. Joined ZeLo in April 2022. Main areas of practice include healthcare, M&A, public affairs, general corporate, business restructuring and bankruptcy, litigation and dispute resolution, data protection, crisis management, and human resources and labor. Leveraging the experience gained during the secondment to the Consumer Affairs Agency's Labeling Division from 2020 to 2022, provides advice on complex advertising regulations in the medical field, IT system development, and business methods. Also offers advice on the provision of prizes and gifts to companies in the medical industry and has a significant track record in medical litigation.
2024年12月27日、農林水産省により「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「農水省指針」といいます。)が策定されました。
獣医療の領域では、産業動物分野を中心に、例えば「家畜における遠隔診療の積極的な活用について」(2021年12月15日)との農林水産省消費・安全局長通知が発出されていました。しかし、いわゆるペットとして飼われる愛玩動物についてはその射程が及ぶかが明確ではなく、愛玩動物診療分野においても、法令を遵守する中での適切な遠隔診療に関する運用ルールの整備が求められていました。
特に獣医師による遠隔診療については、無診察治療の禁止を定める獣医師法18条との関係(遠隔診療が「診察」に該当するのか)が法的に問題とされていました。
(獣医師法17条)
獣医師でなければ、飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要のあるものとして政令で定めるもの(オウム科、カエデチョウ科及びアトリ科全種)に限る。)の診療を業務としてはならない。
(獣医師法18条)
獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品(略)の使用若しくは処方をし、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。
また、農林水産省は、獣医師法18条に定める「診察」行為の意義について、過去に以下の局長通知を発出してきました。ここでは、手段のいかんは問わないが、現代の獣医学的見地からみて一応の診断を下しうる程度の行為でなければならないとした上で、直接対面して診察することを一度も行わずに、電話・FAX等で飼育者からの聴き取りのみで診断を下すことは通常困難であると述べています。
そのため、獣医師が自ら定期的に当該飼育動物の健康状態を把握している場合には、飼育者から病状の聴取等をもって適法な「診察」行為とみなすことができると考えられるが、全くの初診である場合には、非対面による聴取では「一応の診断を下しうる程度の行為」とまではいえず、獣医師法の定める「診察」行為としては不十分であるようにも考えられていました。
獣医師法第18条の診察とは、獣医学的見地からみて疾病に対して一応の診断を下しうる程度の行為をいい、獣医師が自ら定期的に巡回する等して常に当該農場の飼育動物の健康状態を把握している場合等において飼育者から病状の聴取等をもって行うものも含まれる。
出典:農林水産省局長通知「獣医師法の一部を改正する法律および獣医療法の運用について」(最終改正2020年12月28日)太字引用者
獣医師法第18 条に規定する「診察」とは、触診、聴診、打診、問診、望診その他手段のいかんを問わないが、現代の獣医学的見地からみて疾病に対して一応の診断を下しうる程度の行為でなければならないと解しているため、当該家畜に直接対面して診察することを一度も行わずに、電話、FAX等により、当該家畜の症状等を飼育者等から聞き取るのみでは、要指示医薬品を使用することが不可欠な症状であるかどうかを的確に把握し、正しい診断を下すことは通常は困難であると考えられる。したがって、当該家畜に直接対面して診察することを一度も行わず、要指示医薬品を処方することは、一般的には獣医師法第18 条の規定に違反するものである。
出典:農林水産省局長通知「要指示医薬品の投与及び処方に当たっての注意事項について」(2007年12月19日)太字引用者
こうした状況の中、2022年6月に公益社団法人日本獣医師会が「愛玩動物における遠隔診療の適切な実施に関する指針」(以下「獣医師会指針」といいます。)を策定し、愛玩動物の遠隔診療を実施するにあたって「最低限遵守すべき事項」と「推奨される事項」を定めました。そして、「最低限遵守すべき事項」に従って遠隔診療が行われる場合には、獣医師法18条に抵触するものではないことが示されました。
「最低限遵守すべき事項」として掲げる事項は、遠隔診療の安全性を担保し、診療として有効な問診、診断等が行われるために必要なものである。このため、「最低限遵守すべき事項」として掲げる事項を遵守して遠隔診療を行う場合には、獣医師法第18条の規定に抵触するものではないと考える。
出典:公益社団法人日本獣医師会「愛玩動物における遠隔診療の適切な実施に関する指針」(最終改訂2022年9月)太字引用者
その後、依然として国による公的な指針が存在しない状況が続く中、2024年6月21日に「規制改革実施計画」が閣議決定され、愛玩動物のオンライン診療について、より積極的に活用されるための指針を同年中に策定することが盛り込まれました。
こうした背景を踏まえ、2024年12月27日に農水省指針が策定され、国による愛玩動物のオンライン診療に関する初めての指針として示されました。また、これにより、農水省指針を遵守してオンライン診療が行われる場合には、獣医師法18条に抵触するものではないことが明確化されたといえます。
そのため、今後の愛玩動物のオンライン診療に際しては、農水省指針を基準に実施する必要があります。もっとも、獣医師会指針との関係については、必ずしも明確ではないものの、適正なオンライン診療を実施する上では、獣医師会指針も引き続き参考になると考えられます。
なお、獣医師会指針の概要については以下の記事をご確認ください。
上記のとおり、獣医師法18条に抵触することなく愛玩動物のオンライン診療を行うためには、農水省指針を遵守しなければなりません。以下では、農水省指針で示されるオンライン診療の実施に関する基本的な考え方と具体的な遵守事項について、獣医師会指針との相違点を踏まえつつ解説します。
オンライン診療においては、獣医師が飼育者から十分な情報を得ること、また、獣医師と飼育者との間で診療方針に合意することが必要であることから、初診からのオンライン診療の実施については、原則としてかかりつけの獣医師が行うこととされています(かつ、原則として対面診療を適切に組み合わせて行うことが求められます。)。
もっとも、かかりつけの獣医師が休日夜間等で対応できないとして、飼育者から依頼があった場合等には、診療前相談等をして、必要な獣医療情報を把握し、かつ、愛玩動物の状態に応じてオンライン診療の実施について獣医師が可能と判断した場合には、例外的にかかりつけの獣医師以外による実施も可能とされています。
なお、この場合、獣医師においては、以下の対応を行う必要があります。
獣医師会指針では、遠隔診療の実施は、原則としてかかりつけの獣医師のみが可能であり、かつ、初診については原則として対面診療で行うこととされていました。そのため、初診からのオンライン診療の実施については、農水省指針において一定緩和されたものといえます。
オンライン診療は、飼育者がその実施を求める場合に実施されるべきものであり、獣医師側の都合のみで行ってはならないとされています。
この点、獣医師は、飼育者と相互に信頼関係を構築した上で、双方の合意に基づいてオンライン診療を実施する必要があります。
また、その際、獣医師においては、飼育者が受けるメリットおよび生じるおそれのある不利益等のデメリットについて、事前に説明するなどの「インフォームド・コンセント」を徹底する必要があります。
オンライン診療により獣医師が行う診療行為の責任については、当該獣医師が全ての責任を負うこととなります。そのため、獣医師はオンライン診療で傷病に対する一定の判断を下し得る程度の十分な情報を得られているか、その情報で適切な診断ができるか等について、慎重に判断し、オンライン診療による診療が適切でない場合には、速やかにオンライン診療を中断して、対面による診療に切り替えることが求められます。
また、オンライン診療中における急病急変への対応は直接の対面診療が基本です。そのため、獣医師は、急病急変時に適切に対応するためにも、飼育者が速やかにアクセスできる診療施設において直接の対面診療を行える体制を整えておく必要があります。
獣医師は飼育者の愛玩動物の獣医療情報が漏洩することや改ざんされることのないよう、情報通信並びに飼育者および愛玩動物の獣医療情報の保管について、十分な情報セキュリティ対策を講じることが求められます。
農水省指針上は、セキュリティ対策について、具体的な対策事項までは示されていないものの、獣医師会指針では一定の事項が具体的に示されていることから、対策を行うにあたっては参考になると考えられます[1]。
オンライン診療においては、対面診療と比べて、獣医療へのアクセスが向上するという側面がある一方で、得られる情報に限界があるという側面もあります。
そのため、こうした点を考慮し、獣医師においては、オンライン診療の実施に関する安全性や有効性についての評価を定期的に行うことが求められます。
また、適切なオンライン診療の普及のためには、その獣医療上の安全性・有効性・必要性が担保される必要があるため、獣医師においては安全性や有効性についてのエビデンスに基づいた獣医療を行うことが求められます。
獣医師は、医薬品の処方に際して、以下を遵守することとされています。
(※1)特に安全管理が必要な医薬品については、「人又は動物に使用された場合に、その機能に危害を与えるおそれがある劇薬又は毒薬、生物学的製剤並びに麻薬及び向精神薬」が考えられるとされています[2]。
(※2)獣医師の特別の指導を必要とする医薬品、安全性・有効性についてのエビデンスが評価されていない医薬品等については、「要指示医薬品、承認された動物用医薬品等以外の医薬品のほか、動物用医薬品であっても効能外のもの」が考えられるとされています[3]。
なお、初診をオンライン診療で実施した場合に、2度目以降の診療をオンラインで行うときは、初診で処方を行わないこととされる医薬品等については、初診と同様に処方を行わないことが妥当とされています[4]。
獣医師は、獣医療法第3条の規定に基づき開設の届出がなされた飼育動物診療施設に所属し、その所属および当該診療施設の問合せ先を明らかにしておく必要があります。
オンライン診療は、情報通信機器を通して、愛玩動物の診察および診断を行い、診断結果の伝達、処方等の診療行為を映像と音声を用いてリアルタイムで行うものとなります。
そのため、獣医師は、ネットワーク環境を確保し良好な通信環境の下で診療を行う必要があり、ネットワークが不安定でオンライン動画が途切れる等、適切な診療が困難な場合はオンライン診療を行わないこととされています。
また、オンライン診療を文字、写真あるいは録画動画のみのやり取りで行わないこととされているため、テキストメッセージによるやり取りのみでの実施等が認められない点には注意が必要となります。
愛玩動物のオンライン診療を実施する上では、農水省指針の遵守が求められます。また、ヒトの診察においてはオンライン診療の利用者が拡大しており、今後、愛玩動物についてもオンライン診療がより一般的になっていくものと予想されます。
ヒトおよび動物における医療・ヘルスケア分野は、時代背景に伴い、行政による規制も複雑化しています。農水省指針の策定に留まらず、今後も継続的に規制改革がなされることが想定され、法令やガイドラインなどの規制を的確に把握しながら、ビジネスを進めていくことが大切です。
法律事務所ZeLoでは、ヒトおよび動物におけるオンライン診療サービスなどのヘルスケア事業に関して、ビジネスモデルの設計から、規制対応、各種法規制を踏まえた広告・マーケティング戦略の支援など、ビジネスを展開する上で必要な各方面に寄り添ったサポートを行っております。スポットでの相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
[1] 公益社団法人日本獣医師会「愛玩動物における遠隔診療の適切な実施に関する指針」(最終改訂2022年9月)5(2)ウ
[2] 農林水産省「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針 Q&A」(2026年3月更新)Q9
[3] 前掲Q10
[4] 前掲Q11