【行政官と弁護士が解説】「規制のサンドボックス制度」の活用時の一連のフローとは?(後編)~申請書作成時の留意点や計画認定からフォローアップまで~
「まずやってみる!」。そんなコンセプトの下で作られた「規制のサンドボックス制度」は、日本が国際的な競争力を確保しつつ、持続的な発展を目指すために、改めてその活用を促進すべき規制改革ツールの一つです。新しい技術やビジネスモデルの芽を見逃さずに、実用化に向けて官民が共同することは非常に重要です。この記事では、規制のサンドボックス制度を運用する内閣官房新技術等社会実装推進チームの藤森貴生様と、法律事務所ZeLoのパブリック・アフェアーズ部門の弁護士が、規制のサンドボックス制度の裏側も含めて、申請からフォローアップの動きまで解説します。
After graduating from University of Tokyo School of law in 2014, passed Japanese Bar Exam. Joined the Ministry of Economy, Trade and Industry in 2015. Worked at Japan Fair Trade Commission in 2018. Joined ZeLo in 2022. As an administrative officer, experienced in policy making and legal revisions such as the Installment Sales Act.
前編の記事では、「規制のサンドボックス制度」の概要と申請書の記載方法について解説しました。
後編では、実際に申請書で問題となりやすいポイントや計画認定からフォローアップまでを解説します。
サンドボックスの申請書で問題となりやすいポイント
山田:申請書を普段確認される中で、記載が足りないと思われるポイント等はありますか。
藤森:申請書を確認する際に、よく指摘するポイントとしては、大きく3点あります。
まず1点目は、「既存のどの規制に引っかかるのか。」を明確にする点です。
引っ掛かっている部分がどの法令なのか、第何条のどの条文なのか。若しくは、各省庁が出している通達文に引っ掛かっているのか、どの文なのか。まずこの点を明らかにすることを心がけています。関係省庁に規制の見直しに関する実証相談を持っていく際には、関係省庁側も具体的にどの条文をどう直して欲しいのかが分からないと相談に乗りようがない、ところがあります。
そのため、我々も事業者の方に寄り添った伴走支援をしながら、どの法令のどの文なのかをまず明確化するお手伝いもしています。そこをまず申請書の中にキチンと書き込むことが重要です。
2点目は、「その規制に関する条文に対して、どういう実証をするのか?」という点です。
先程の「保護法益」の話の中で、「規制に抵触しない方法での実証を行う」というお話をしましたが、「規制に抵触をさせない形で、どのように実証をするか」ということが最大のポイントです。勿論、どのような形で実証をするかは、当方も知恵出しのお手伝いさせていただきながら進めていきますのでご安心ください。
他方で、サンドボックス実証を実施する方法として、「現行の規制に抵触するが、実証に限定した特例を設ける」という方法もあります。このような特例としては、例えば現在の法令に、実証時だけ規制の適用を除外するような特例を設けることも可能です。ただし御注意いただきたいのは、実はこれまで特例を活用した実証例は1件しかありません。と申しますのも、現行法令によって規制されている場合、実証に関する特例を設置するための法改正をする必要があります。つまり、サンドボックスにおいて特例を適用した実証を実施しようとすると、サンドボックス実証をするための特例を設ける旨を法令に書き込む必要があります。そうなると、法律を変えるということは、国会の審議を通さないといけないので、法律改正と同程度の労力が必要になってきます。そのため、実際にはそこまでの時間や人的コストをかけられないというところもあり、「現行の規制内で、規制の見直しに関する実証をどのように行うか」という点を考えることが重要になります。「どのような実証とすれば、現行規制に抵触しないのか」は、当方だけでは判断できませんので、規制所管省庁や事業所管省庁と相談をしながら、「この実証方法であれば現行規制に抵触しないのではないか?」というところを、1個ずつ詰めていく作業になります。
3点目は、「その規制をどのように見直したいか?」という点です。
特にその規制の見直しが社会的にどのようなインパクトを与えるのか、という点も可能な限り書いていただきたいと思います。一企業のために国が何かを推し進めるというのは問題がありますので、日本をより良い社会にしていくために、今回規制を見直したいという流れにすると進めやすくなると思います。
官澤:1点目のポイントは、私達もサンドボックスの利用支援を行う中で、明確に指摘するように心がけているポイントですね。また、3点目のポイントは、規制の見直しを行い新しい事業を行えるようにすることで、日本の社会がいかによくなるのか。事業者の方の熱い思いを大義に乗せていただくことで、規制所管省庁を動かすポイントになりますね。
山田:申請書には、他にも実証に必要な資金の額やその調達方法等についても記載が必要ですが、どこかに公表されるのでしょうか。
藤森:申請書は評価委員会における配布資料として公表しています。そのため申請書に記載いただいた「実施に必要な資金」「その調達方法」も申請書に記載いただいた内容として公表しています。
サンドボックスの申請書を作成した後の流れ
官澤:無事申請書が作成できた後、認定を受けるまでにどのようなプロセスを経るのか教えていただけますか。
藤森:事前相談後、「この申請書案で、関係省庁に相談出来そうだ。」と当方が判断しましたら、関係省庁に必要な調整を当方にて図っていきます。関係省庁と折衝する中で、関係省庁から計画認定が得られそうな目算がたってきたら、正式申請として、関係省庁に正式な申請書をお送りすることになります。その正式申請書を提出してから1か月以内に新技術等効果評価委員会(以下「評価委員会」)に主務大臣の見解を送付することになっています。
評価委員会は、10名を超える委員の方がおり、スタートアップ経営者の方から弁護士や大学の先生等、様々な方々がいらっしゃいます。その多様な委員の方々からの知見を評価委員会でいただきます。評価委員会を開催する際には、事業者の方にもご出席をいただいて、関係省庁も交えて申請書に基づいた議論を実施します。若しくは、評価委員会の開催には至らないような案件、例えば実証場所のみを変更するだけで、他は変更の無いような実証案件や、実証方法は他の案件と同じで情報システムのみが異なるような案件は、書面のみでの審議を実施することも可能です。
評価委員会でお諮りをしますが、基本的には委員の方々は、事業者の方側に立った立場で発言をしますので、事業者の方の計画認定に向けた色々なご意見や、関係省庁も基本的には指定職以上が同席するので、例えば関係省庁が実証に後ろ向きな際には、後ろ向きとなった理由を聞きつつ関係省庁への意見もしたりします。そのため事業者の方には、無用に片肘張らず、評価委員会にご出席いただければと思います。
評価委員会の開催後、主務大臣において計画の認定・公表、あるいは計画認定をしない旨の通知について、評価委員会開催後1か月以内で実施するように決められています。
計画認定の方法
官澤:計画認定は、認定するか、しないかの二択になるのでしょうか。「実証計画をこのように変更することを前提に、認定する」等の条件付き認定というのは、考えられるのでしょうか。
藤森:例えば、主務大臣の見解において「以下に記載する対策が十分に講じられると認められる場合には、認定する見込みである。」というコメントが付されたこともあります。ただしその見解についても、評価委員会において委員からも意見を出すこともできますので、仮に主務大臣からそのようなコメントが付されたとしても、評価委員会を通じた意見出しも含めて、柔軟な対応は可能かと考えています。
山田:主務大臣の見解としても、認定するか、しないかの二択ではないということは事業者の方にとっては好ましいと思いますし、主務大臣の見解に対して評価委員会の方から事業者の方の立場でご発言いただけるというのは、非常に心強いですね。
実証の実施
官澤:計画認定を受けることができた場合、いよいよ実証を始められることになりますが、実証期間中の定期報告はどの位の頻度で行う必要があるのでしょうか。
藤森:実証内容により異なりますが、主務省庁から月1回の報告を求められた案件もありますし、定期報告無しで終了報告のみでも可となった案件もあります。
山田:定期報告以外に、事業者の方が内閣官房の方や事業所管省庁、規制所管省庁の方と連携することはあるのでしょうか。
藤森:例えば、実証期間中に関係省庁とともに実証場所に実際に赴いて実証の視察をすることもありますし、実証期間中に想定されたデータ量を取得できないおそれが発生した場合に、実証をやり直すかどうかも含めて関係省庁と相談することもあります。このように、必要に応じて関係者間の連携を実施しています。
実証期間の終了後
官澤:実証期間の終了後、3か月以内に主務大臣宛に提出が必要となる終了報告では、実証の目標の達成状況や実施した実証内容等の他、規制の特例措置や規制の撤廃、緩和に資する情報について記載できる様式になっていますが、終了報告を記載する際に重要なポイントは何になるのでしょうか。
藤森:終了報告では、実証でどれだけのデータが取れたのか、またその取れたデータによって規制の見直しにつながることができそうなのかというところが、重要なポイントになってきます。そのあたりを規制所管省庁も含めて、よくその実証結果を見て、今後の進め方というのを相談するということになります。この終了報告をもって、実証結果が良い結果であれば、実際に規制の見直しや社会実装につながることもありますので、終了報告の報告書をしっかりと作っていただく必要があります。
山田:実証期間の終了後は、終了報告を出して制度自体は終わり、ということになるのでしょうか。
藤森:サンドボックスの実証を実施すると、実証結果を通じて、主務省庁は何らかのアクションが必要になります。勿論実証結果の内容によっては規制の見直しに至るような内容になっておらず、実証終了とともに案件としても終了したものも確かにあります。
他方で、実証結果が規制の見直しに足る内容であれば、規制の見直しに至った例もあります。例えばブロックチェーンを用いた第三者対抗要件の事例では、実証終了後に新事業特例制度を活用するに至った例もありますし、電動キックボードの事例では、実証結果後、新事業特例制度を活用し、特例として社会実装をした上で、最終的には法改正まで至った例もあります。
官澤:実証終了後の主務省庁のアクションに繋げる為にも、実証期間中にしっかりとデータを集積するだけでなく、実証期間終了後の終了報告において、サンドボックス実証を通じてどのようなデータが集積できて、規制の見直しにどのように資するデータなのかというのを、事業者の方側でもしっかりと丁寧に説明していくことが重要ですね。
サンドボックスの利用を考えている皆様へ
山田:今回は、サンドボックスについて、事前相談から実証終了後のフォローアップまで、内閣官房の藤森氏にお話しをお伺いしてきましたが、最後に、サンドボックスの利用を考えている事業者の皆様に一言お願いします。
藤森:我々内閣官房の規制に関する一元窓口・規制のサンドボックス制度では、事業者の皆様に寄り添い、新技術・新ビジネスの社会実装をされようとしている事業者の方の後押しとなるように、伴走支援を実施させていただいています。特にサンドボックスの活用におきましては、実証計画認定や実証後のフォローアップまでしっかりとサポートさせていただきます。まだ事業内容がそんなに固まっていなくても当方と一緒に、どういうところがお困りなのかを一つずつ紐解きながら進めさせていただきます。ぜひ皆様お気軽にお問い合わせいただければと思います。本日はありがとうございました。
官澤:本日は色々な質問にもお答えいただき、ありがとうございました!
▼内閣官房「規制のサンドボックス制度」詳細ページ
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/s-portal/regulatorysandbox.html
▼法律事務所ZeLo「パブリック・アフェアーズ」詳細ページ
https://zelojapan.com/service/public-affairs
※掲載内容は公開当時の内容です。(2024年7月1日)
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