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【事例あり】「規制のサンドボックス制度」とは?制度創設の背景から仕組み、実際の活用例まで弁護士が丸ごと解説

近年急速な発展を遂げているAIやブロックチェーンなどの最先端分野では、現行の法規制が壁となり、事業化できないケースが見られます。こうしたなか、「規制のサンドボックス制度」という制度の重要性が高まっています。本記事では、規制のサンドボックス制度ができた背景をふまえ、当該制度の仕組み・実際の活用例および、自治体主導・地域単位で行われる「地域限定型サンドボックス制度」について、法律事務所ZeLoの弁護士が解説します。

【事例あり】「規制のサンドボックス制度」とは?制度創設の背景から仕組み、実際の活用例まで弁護士が丸ごと解説
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PROFILE
Mayuha Yamada

Attorney admitted in Japan

Mayuha Yamada

After graduating from University of Tokyo School of law in 2014, passed Japanese Bar Exam. Joined the Ministry of Economy, Trade and Industry in 2015. Worked at Japan Fair Trade Commission in 2018. Joined ZeLo in 2022. As an administrative officer, experienced in policy making and legal revisions such as the Installment Sales Act.

Attorney admitted in Japan

Yutaka Ichikawa

「規制のサンドボックス制度」とは

皆さんは、「規制のサンドボックス制度」、または「サンドボックス」という言葉をご存じでしょうか。規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)(以下「サンドボックス制度」)とは、新技術・新事業に関して既存の規制との関係が問題となる場合に、期間や参加者を限定し既存の規制の適用を受けることのない環境を作り上げた上で「実証」を行い(必要な場合には、規制の特例措置を求めることも可能)、データを集めることで規制改革につなげるという制度です。

最初に実証を行い、集まったデータをもとに規制改革に繋げていくという点で、同じく規制改革に対するアプローチである「グレーゾーン解消制度」などとは異なった特徴を有しています。

なお、サンドボックスという言葉は、イノベーション促進のために、一時的に規制の適用を停止するなど、新たなビジネスの実験場の仕組みとしてイギリスなどで始められた「Regulatory Sandbox(規制の砂場)」に由来します。

サンドボックス制度創設の背景

近年、AI・IoT・ビッグデータ・ブロックチェーンをはじめとする革新的な技術やビジネスモデルを活用した新たな事業が、世界中で次々と生み出されています。国際的な競争優位を確保しつつ持続的な経済成長を図っていくためには、こうした技術やビジネスモデルの実用化を早期に行う必要があります。

他方で、こうした技術やビジネスモデルは既存の規制枠組みの中では想定されていなかったことから、現行の法規制に抵触して事業を推進することが難しいケースもあります。その場合には規制改革が必要となりますが、規制当局としては、必要なデータなどがなければ規制改革に踏み切ることは困難といえます。

一方で、事業者としては、現行の規制によって事業ができないことにより、そもそも規制改革に必要なデータを取得できないという場合があり、結果として、新しい技術やビジネスモデルを迅速に実装できないという構造がありました。

そこで、新しい技術やビジネスモデルを用いた事業活動を促進するため、2018年6月、サンドボックス制度が創設されました。

サンドボックス制度の仕組み

サンドボックス制度の概略は以下のとおりです。

内閣官房「規制のサンドボックス(新技術等実証制度)について」(最終閲覧日:2023年5月8日)8頁より引用

①事前相談

まずは、一元窓口である新技術等社会実装推進チーム(内閣官房 成長戦略会議事務局、内閣府と連携)に事前相談(リモートも可能)をします。
そして、一元窓口を通じて、事業所管大臣及び規制所管大臣(以下「主務大臣」)と必要な調整を行い、認定を受けたい新技術等実証計画(以下「実証計画」)の内容を推敲します。

その中で、人数、金額、場所、内容などを工夫することで、既存の規制の適用を受けることなく実証を実施できる環境を検討します。なお、必要があれば、規制の特例措置を求めることも可能です(産業競争力強化法(以下「強化法」)第6条第1項)。

②実証計画の認定申請を主務大臣に提出

事前相談における必要な調整を終えたあと、実証計画を主務大臣へ提出します(強化法第8条の2第1項)。内閣官房の一元窓口によるサポートを引き続き受けることができます。

③④実証計画の審査 

主務大臣は、実証計画が、既存の規制法令に違反しない場合などであれば当該実証計画の認定をするところ、その判断に当たっては、内閣府に設置した新技術等効果評価委員会の意見を聴く必要があります(強化法第8条の2条第4項)。

⑤実証計画の認定及び公表

主務大臣は、新技術等効果評価委員会の意見を踏まえ、②で申請を受けていた実証計画の認定及び公表(または認定しない旨の通知)をします(強化法第8条の2第1項及び第5項)。

⑥定期報告、終了報告

⑤で実証計画が認定された場合、事業者は、実証を実施し、主務大臣に対し定期報告及び終了報告をします(強化法第144条第1項)。

⑦事業化・規制の見直し

実証後、規制所管省庁は、検討結果に基づき、必要な規制の撤廃または緩和のための法制上の措置やその他の措置を講じます(強化法第13条および第14条)。もっとも、当該措置(規制の見直し等)が講じられるかは実証計画の認定段階では不確定であることや、当該措置の実施までには時間を要することが課題として挙げられます。

サンドボックス制度の活用例

本記事公開時点において、サンドボックス制度によって認定された実証計画は、29件148者存在します。

中でも、実際に規制改革につながった電動キックボードの例を紹介します(参考:内閣官房「規制のサンドボックス(新技術等実証制度)について」(以下「規制のサンドボックス(新技術等実証制度)について」)(最終閲覧日:2023年5月8日)5頁)。

背景事情

申請者である株式会社Luupおよび株式会社mobby rideは、電動キックボードのシェアリング事業者で、当該事業を通じて、新しい手軽な交通手段を提供することを目指していました。

電動キックボードは、「原動機付自転車」(道路運送車両法第2条第3項、道路交通法第2条第1項第10号)に該当し、①車道のみ走行可能、歩道や自転車道は走行不可、②ヘルメットの着用義務、③運転免許が必要など、手軽な交通手段としてのサービス提供が困難であるという状況にありました。

実証

2019年10月、上記シェアリング事業者は、事業所管大臣である経済産業大臣ならびに規制所管大臣である国家公安員会委員長および国土交通大臣から、電動キックボードに関する実証計画の認定を受けました。

当該実証計画では、実証場所を道路交通法および道路運送車両法上の「道路」に該当しない大学構内とすることにより、これらの法律の「原動機付自転車」としての規制の適用を受けない環境を作り出した上で、実証が実施されました。また、最高速度が時速15~20km、ヘルメット着用などといった条件も付されました。

成果

現行法下において、電動キックボードは「原動機付自転車」であることに変わりないものの、新事業特例制度による規制の特例措置の適用により、2021年4月には、①自転車道を走行可能、②ヘルメット着用は任意、③運転免許は必要などの条件のもと、公道での実証実験がされるようになりました(参考:警視庁「特例電動キックボードの実証実験の実施について」(公開日:2023年3月27日))。

また、2022年4月27日、改正道路交通法が公布され(2023年7月1日施行)、電動キックボードは、「特定小型原付」という車両区分に分類されるようになり、①車道に加え、普通自転車専用通行帯および自転車道を走行可能、②ヘルメット着用は任意、③運転免許は不要(ただし、16歳以上の利用に限る)といった大胆な規制改革へとつながりました(参考:「規制のサンドボックス(新技術等実証制度)について」26頁、警視庁「「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」等に対する意見の募集について」6頁(公開日:2023年1月))。

地域限定型サンドボックス制度

サンドボックス制度というと、今まで説明してきた企業単位・プロジェクト単位で行われる規制のサンドボックス制度を指すことが一般的ですが、自治体主導・地域単位で行われる「地域限定型の規制のサンドボックス制度」(以下「地域限定型サンドボックス制度」)も存在しており、以下で簡単に触れることとします。

サンドボックス制度は、強化法に基づくものですが、地域限定型サンドボックス制度は、国家戦略特別区域法(以下「特区法」)に基づくもので、窓口は内閣府地⽅創⽣推進事務局になり、⾃動⾞の⾃動運転、無⼈航空機(ドローン)、これらに関連する電波利⽤などの、⾼度で⾰新的な近未来技術に関連する過去に類例のない実証実験を、迅速かつ円滑に実現する仕組みを作るために設けられました。

自動運転を例に挙げると、遠隔型の自動運転車について、ハンドルやアクセルペダル・ブレーキペダルが存在しないものもあり、そのままでは道路運送車両法上の保安基準に一部適合しないケースもあります。そのため、公道実証を実施する際には、基準緩和認定制度などを利用した上で、道路交通法上の道路使用許可も受ける必要があります。

また、遠隔操作を行うための電波利用については、周波数がひっ迫している周波数帯を利用する場合には、広範な電波利用者との混信検討が必要となります。

一方で、特区法のもとで、国・自治体・事業者の三者が一体となって、これまでと同等の安全が確保されるよう安全確保措置も含めた実験内容の「区域計画(サンドボックス実施計画)」を作成し、内閣総理大臣の認定を受けることができた場合、道路運送車両法上の保安基準が一部適用除外となるほか、道路交通法上の道路使用許可があったものとみなされます。

さらに、電波法上では実験等無線局の免許が速やかに付与され、関係する無線局の免許人や地方公共団体等に実証内容などの通知が行われます(特区法第25条の3第1項、第25条の4第1項、第25条の6第1項)。

その結果、本来は複数の関係省庁からの許認可や地域の理解等の調整が必要なところ、手続の一体化や柔軟化がなされ、安全を確保しつつ、より迅速かつ円滑に遠隔型自動運転車の公道実証を行うことが可能となっています(参考:「国家戦略特区 地域限定型 規制のサンドボックス制度 説明資料」)。

こちらは、強化法に基づくサンドボックス制度に比べて、高度で革新的な技術に関する実証実験を、積極的かつ大胆に実現する制度であるといえます。

規制改革実現に向け、各アプローチの理解を深めて適切な選択を

本記事では、規制改革を求めるアプローチのひとつである、サンドボックス制度について解説しました。

規制改革を求めていくにあたっては裏付けとなるデータが必要になる場面が多くあります(例えば、モビリティ分野での規制改革では、安全性などを証明するデータが必要になる可能性が高いといえます。)。そのような場合にサンドボックス制度は有効なアプローチとなる可能性があります。

規制改革を実現するためには、「グレーゾーン解消制度」や規制改革ホットライン等の制度利用から、業界団体による政策提言・政府審議会での有識者による発信など様々なアプローチが考えられます。求める規制改革を達成するためにはどの方法が有用か、各アプローチの特徴をよく理解した上で選択していくことが重要です。

なお、法律事務所ZeLoでは、「パブリック・アフェアーズ部門」を中心に、規制領域や法規制の未整備な分野に挑戦するクライアントに対して、総合的・戦略的なサポートを提供しています。
サンドボックス制度やその他の規制改革に対するアプローチでお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

(編集:中村渚、渡辺桃)

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