【行政官と弁護士が解説】「規制のサンドボックス制度」の活用時の一連のフローとは?(前編)~概要と申請書の記載方法について~
「まずやってみる!」。そんなコンセプトの下で作られた「規制のサンドボックス制度」は、日本が国際的な競争力を確保しつつ、持続的な発展を目指すために、改めてその活用を促進すべき規制改革ツールの一つです。新しい技術やビジネスモデルの芽を見逃さずに、実用化に向けて官民が共同することは非常に重要です。この記事では、規制のサンドボックス制度を運用する内閣官房新技術等社会実装推進チームの藤森貴生様と、法律事務所ZeLoのパブリック・アフェアーズ部門の弁護士が、規制のサンドボックス制度の裏側も含めて、申請からフォローアップの動きまで解説します。
After graduating from University of Tokyo School of law in 2014, passed Japanese Bar Exam. Joined the Ministry of Economy, Trade and Industry in 2015. Worked at Japan Fair Trade Commission in 2018. Joined ZeLo in 2022. As an administrative officer, experienced in policy making and legal revisions such as the Installment Sales Act.
はじめに
官澤:今回は、「内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 新技術等社会実装推進チーム(規制のサンドボックス制度)」参事官補佐の藤森様をお招きし、規制のサンドボックス制度は新しいことをやってみたい事業者の皆様にご活用いただきたい魅力的な制度であることを解説していきます。
早速色々伺いたいところですが、まず始めに、藤森様の自己紹介をお願いします。
藤森:内閣官房の藤森と申します。2021年から内閣官房の新技術等社会実装推進チームにおいて、規制のサンドボックス制度 (以下「サンドボックス」)を担当しています。よろしくお願いします。
はじめに、我々新技術等社会実装推進チームの役割についてご紹介します。
現在、日本政府において規制の見直し等に関する様々な制度がありますが、事業者の方から伺ったご相談内容を踏まえて、それらの制度の中で相談者の方に一番適した制度をご紹介するという役割をしています。また、それらの制度のうち、サンドボックスにつきましては、計画の認定からフォローアップまで伴走支援を内閣官房にて実施する役割をしています。
山田:私達も日々の業務の中で、サンドボックスの利用支援を行っていますが、制度を利用する中で、内閣官房の方達がどのようなところを見ているのかや、何に気をつけるべきかが気になっていましたので、このような機会をいただけて嬉しいです。
藤森:サンドボックスは、2018年の制度創設から約6年間で、31計画150者が認定を受けており、多様な分野の円滑な事業化・規制改革を支援しています。我々も、より多くの方にサンドボックスを利用していただきたいので、何でもご質問にお答えできればと思います。
「まずやってみる!」がコンセプトのサンドボックス
山田:ZeLoでも以前、サンドボックスの制度概要について解説する記事を書かせていただきました。
記事の引用になりますが、サンドボックスは、「新技術・新事業に関して既存の規制との関係が問題となる場合に、期間や参加者を限定し既存の規制の適用を受けることのない環境を作り上げた上で「実証」を行い(必要な場合には、規制の特例措置を求めることも可能)、データを集めることで規制改革につなげるという制度」と理解しています。
規制改革を実現するために必要なデータを、ある意味国の「お墨付き」を得て適法なスキームで実証して集めるというのがユニークな制度ですよね。
また、既存の法律がある中で、新しいことを「まずやってみる!」と政府が後押ししてくれるのは、とても革新的であると考えます。普段から、チーム内でもこのコンセプトが共有されているのでしょうか。
藤森:まず、そもそものサンドボックスの「制度の必要性・背景」からお話しします。規制所管省庁は、新技術等が世に出ると、それら新技術等に現行制度がマッチしていない場合に、「必要な規制の見直しをしたい」と様々検討します。
ですが、規制所管省庁としては、新しい技術やビジネスモデルがそもそもよく分からない、前例も無い、担当者レベルではリスク判断ができないこともあり、規制所管省庁が規制の見直しをしようと思っても、なかなか見直しに踏み切ることができないという状況です。
他方、事業者の方では、「そもそもどのような規制が関係するのか分からない」や「規制に反するかどうかもよく分からない」といった声があるように思います。 また、規制の見直しに向けた必要なデータも、どういう実証をして、どのようなデータを拾って良いのかが分からないのではないかと想定しています。そのため我々内閣官房の新技術等社会実装推進チームが事業者の方からのご相談を受けた上で、「まずやってみる!」をモットーに、新技術の社会実装を図るためのサポートを実施しています。
なお、チームメンバーは官民連携の体制で、各省庁と民間企業からそれぞれ複数名ずつのメンバーで構成されています。官民お互いにチーム内で連携しながら、事業者の方からの相談や関係省庁との調整を実施しています。
官澤:各省庁からの出向者だけでなく、民間企業からの出向者もチームに複数名いらっしゃるのですね。サンドボックスの利用をしたいと思っても、まず政府に相談する、というところでハードルが高いと感じる事業者の方も多いと思います。相談先が民間企業の気持ちが分かる方だと知れば、相談しやすいかもしれませんね。
山田:事業者の方がサンドボックスの利用を検討する際に、そもそもどのような事業や相談内容であればサンドボックスに馴染むのか分からない、ということがあると思います。内閣官房のHPには、案件相談を申し込むフォームも設置されていますが、検討中の新事業がサンドボックスを利用できるのか、そもそも適用になる規制の理解が曖昧でどのように相談していいのか悩むこともあるのではないでしょうか。案件相談申込フォームで「問合せ内容」を記載する必要がありますが、どの程度具体的に記載しなければいけないのでしょうか。
藤森:問い合わせフォームから申し込みいただいた後は、その情報をもとに、当方でミーティングの調整・連絡をします。そのミーティングはわざわざ内閣官房までお越しいただく必要はなく、オンラインでも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
なお、問い合わせフォームには簡単な相談概要で構いません。問い合わせフォームにご記入いただいた内容について、ミーティング前に当方が理解できていない部分や、ミーティング時に当方がよく聞くポイントをまとめていますので、フォームにご記入いただいた内容によっては、事前にお聞きしたいポイントをお伝えすることもあります。勿論わざわざミーティングのために資料を作っていただく必要はありませんので、その時点で分かる範囲でご記入いただいて、ミーティングに臨んでいただければと思います。
山田:役所への相談となると、資料もしっかりと整えていかなければいけないというイメージがありますが、ミーティング前に資料の作成等ができていなくても大丈夫というのは、相談のハードルが下がりますね。
官澤:設立から概ね10年以内のスタートアップ事業者の方であれば、私も委員を務める経済産業省の「スタートアップ新市場創出タスクフォース」を利用して、新事業の論点整理や規制のサンドボックスの活用可能性の検討を行うことも可能です。
サンドボックスの申請書の具体的な記入方法
山田:正式申請時には申請書が必要になるというお話なりますが、申請書を作成する際に、一番頭を悩ませるのは、「実証の内容及びその実施方法」という項目だと思います。そもそも実証の内容やその実施方法を考えるにあたって注意すべきことはありますか。
藤森:計画認定の基準としては、法令に違反するものではないことが原則です。これまで規制のサンドボックスで認定された実証計画は30件ほどありますが、認定案件は大きく4分類に類型立てることができます。
藤森:例えば例4ですが、現行法令上認められている方法と現行法令で認められていない方法を合わせ技で実施するという例になります。ここでは3件ほど事例を紹介していますが、3件とも必ず紙で対応しないといけないという当時の規制について、「デジタルでも問題ない」ということを実証するために、紙とデジタルを併用して実証した事例になります。
紙は当時の法令上認められていますが、デジタル対応は認められていないという場合に、紙を用いることで現行法令に合致した形とし、且つ、デジタルも一緒に用いることで、法令をクリアした形でデジタルについても実証をする。そして、実証においてデジタル手法で特段問題が起きてなければ、「デジタルを用いることで一本化することに問題無い」という形で進めた事例になります。
官澤:現行法令上、認められている方法と新しい方法を併用して実証するというのは面白い発想ですよね。また、事業者の方が新しく事業を始める際の相談も弁護士としてよく受けますが、業法が問題になるケースもよくあります。問題となる規制が業法であったとしても、例3のように参加者や期間を限定等することで、「業」として行うものではないため、法令に違反しないと整理し実証ができるのであれば、幅広い分野でサンドボックスの活用ができそうですね。
藤森:既存の規制の中でどのような形であれば、適法に実証が可能か、事業者の方と一緒に、規制所管省庁や事業所管省庁との調整も含めて検討させていただきます。
山田:「実証の内容及びその実施方法」の中では、既存の法令が保護している保護法益を侵害せずに実証を行うことができることについても十分に説明することが重要ですよね。
藤森:ご指摘のとおり、「法益」を侵害せずに実証を行うことは重要です。現行の規制が存在する理由は、例えば人の生命等の「法律によって保護される利益」を侵害しないためでもあり、サンドボックス実証を実施する中でも、その法益をしっかりと守る方法が重要であると、当方も考えています。
また「人の生命等」の他に「電子化」の文脈で、「不動産の賃貸契約時における書面交付の電子化に関する実証」を実施したのですが、「購入者などの保護」「取引の安全を確保」が保護法益になると考えておりまして、その実証において法益を守るために定められた紙での運用を実施した上で、デジタルに関する実証を行いました。
官澤:事業者の方としては、どの程度の措置を講じれば、保護法益を守るのに十分な措置と言えるのか手探りの中で、事前相談の段階で規制所管省庁とも調整しながら進めることができるのは、ありがたいですね。
後編では、申請書で問題となりやすいポイントや計画認定からフォローアップまでを解説しています。
▼内閣官房「規制のサンドボックス制度」詳細ページ
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/s-portal/regulatorysandbox.html
▼法律事務所ZeLo「パブリック・アフェアーズ」詳細ページ
https://zelojapan.com/service/public-affairs
※掲載内容は公開当時の内容です。(2024年7月1日)
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