スタートアップが特許出願を検討する際に最低限押さえておくべき留意点は?メリットは?弁理士が解説
弁理士
足立 俊彦
特許法等では、所定の期間内に特許庁に対して手続をすることができなかった場合でも、一定の要件を満たせば、その期間が過ぎた後でも、権利等の回復が認められるという救済規定があります。この救済規定に係る回復要件が、令和5年(2023年)4月1日から緩和されます。今回の記事では、改正の概要や手続方法などを具体的にご紹介します。
目次
特許権・実用新案権・意匠権・商標権といった産業財産権の権利取得・維持のためには、手続ごとに定められた期限までに、特許庁に対して手続を行う必要があります。この期限を管理する業務は、企業の知財業務の中で最も重要なことの一つです。しかし、取り扱う案件数が増えるほど期限の管理は煩雑になるため、維持年金の支払時期などの重要な期限を見過ごして、権利が消滅してしまうケースも少なくありません。
平成23年(2011年)に公布された特許法等の一部を改正する法律により、所定の手続期間内に手続を行わないまま手続期限が過ぎてしまった場合における救済規定が整備されました。この救済規定に係る回復要件として、期間内に手続をすることができなかったことへの「正当な理由があること」が必要とされていました。しかし、その判断基準は諸外国と比較しても非常に厳しく、また、権利者等への立証負担も大きいものでした。
令和5年(2023年)4月1日より施行される改正法では、上記救済規定に係る回復要件が「正当な理由があること」から「故意によるものでないこと」に緩和され、回復手数料の納付が必要になります。
※令和5年(2023年)3月31日以前に手続期間を徒過した案件は、「正当な理由があること」のままです。
以下の救済手続期間内(手続ができるようになった日から2月以内で期間の経過後1年以内(商標に関しては6月以内)※)に、理由を記載した回復理由書の提出と、回復手数料の納付をします。
※優先権の主張を伴う出願については救済手続期間が異なるためご注意ください。
特許庁が例として挙げている回復理由書等の様式見本は以下のとおりです。なお、「*2」の「不注意により~を失念しており」は認められない可能性があるという情報があります。後述の「救済が認められない例」も含め、ご留意ください。
救済が認められない例として、以下が挙げられます。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きをみせてきたこともあって、特許庁では回復理由の内容を慎重に検討するようになってきています。以下の例でなくとも救済が認容されるとは限りませんのでご注意ください。
回復理由書の提出とともに、回復手数料も納付します。
以下は、印紙代のみの金額ですが、いずれも高額ですので、ご注意ください。
特許 | 実用新案 | 意匠 | 商標 |
---|---|---|---|
212,100円 | 21,800円 | 24,500円 | 86,400円 |
現行制度は諸外国と比較しても非常に厳格な運用がなされており、実効性のある制度とはいえませんでした。今般の回復要件緩和は自社発明やブランドの保護に大きなメリットをもたらすものといえるでしょう。
一方、他社権利等の調査においては、各期限から1年以内であれば権利等が回復する可能性があるため、これまで以上に他社の動向を注意する必要があります。
法律事務所ZeLo知的財産部門では、特許、実用新案、意匠、商標の出願対応にとどまらず、他社の特許や商標に対する侵害リスク評価の実施、知財ポートフォリオの一括管理、知的財産デューデリジェンスやIPOを見越した知財戦略の構築・運用などまで対応しています。自社の知財戦略や知財ポートフォリオを見直したいという方は、ぜひ一度ご相談ください。