日本編第1回:日本のAI法制の全体構造
Attorney admitted in Japan
Yusuke Mizuno
本連載は、日本と韓国のAI法制を比較しながら解説する、法務法人DLGと法律事務所ZeLoによる合同企画です。今回、日本と韓国において、AIをはじめとするテクノロジー領域・先端分野に強みを有するDLGとZeLoは、AIビジネスに関わる日韓の事業者向けに、両国のAI法規範の概要を紹介する合同連載企画を開始しました。本連載では、各事務所がそれぞれ日本法・韓国法の内容を解説するとともに、両国制度の比較も交えながら、実務的観点から分かりやすく整理していきます(各国5回、全10記事予定)。第1回となる今回は、日本および韓国AI法制の全体像を紹介します。本記事の執筆者は、DLGアン・ヒチョル代表弁護士です。日本編第1回とあわせてご覧ください。なお、DLGのウェブページにて、本記事の韓国語版も公開しています。
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人工知能(AI)は、もはや特定の技術企業だけの問題ではありません。企業の顧客対応、採用、教育、金融、医療、コンテンツ制作、法務レビュー、M&Aデューデリジェンスに至るまで、多様な領域でAIが活用されています。
かつてはAIを導入するか否かが主な関心事項でしたが、現在では、AIをどのような基準および責任体系の下で利用するのかが重要な問題となっています。
韓国もこうした変化に対応するため、「人工知能発展と信頼基盤造成等に関する基本法」、いわゆる「人工知能基本法」を制定し、2026年1月22日から全面施行しました。
同法は、AIの産業的発展を支援する一方で、AIが国民の権利および安全に及ぼし得る影響を管理するための基本的法的枠組みを整備した法律です。特定産業のみを対象とする規制ではなく、AI全般に適用される包括的基本法である点に大きな意義があります。
では、AIに関する他国の法制度はどのような構造を採っているのでしょうか。
EU AI Act は包括的AI法体系として、AIのリスクを基準に差別化された規制を適用しており、AIに関するグローバル規範を主導しています。
日本は、AI関連技術の研究開発および活用促進に重点を置いた法制度を整備しています。
米国は、連邦レベルの包括的AI基本法よりも、大統領令、各機関ガイドライン、州法、分野別規制を通じてAIを管理する構造に近いといえます。
また、中国は、生成AI、アルゴリズム推薦、ディープフェイク等の特定領域を中心に行政的管理体系を発展させてきました。
このように見ると、韓国の人工知能基本法は、EU型のリスクベース規制と、日本型の産業振興型基本法との中間に位置すると評価できます。すなわち、産業発展を支援しつつも、高影響AIや生成AI等については一定の責任と義務を課す折衷型構造です。
韓国のAI関連法令体系は、大きく四つの層として理解することができます。
第一は、人工知能基本法です。同法は、AIの開発・活用、産業振興、信頼性確保、高影響AI管理、生成AI等に関する基本事項を定めています。
第二は施行令です。施行令は、法律で定められた内容を具体化しています。
第三は告示です。告示では、高影響AI事業者の責務、AI安全性確保義務の履行方法等を詳細に定めています。
第四はガイドラインです。AI透明性確保ガイドライン、安全性確保ガイドライン、高影響AI判断ガイドライン、AI影響評価ガイドライン等がこれに該当します。
すなわち、法律が原則を定め、施行令および告示が具体的義務を定め、ガイドラインが実務上の判断基準を補完する構造となっています。
もっとも、人工知能基本法のみで全ての問題が解決されるわけではありません。実際の事業においては、個人情報保護法、著作権法、信用情報法、医療法、資本市場法、電子金融取引法 等、多様な個別法令が同時に適用されます。
例えば、AIが医療診断に使用される場合には、医療法および医療機器規制が問題となり得るし、信用評価に利用される場合には、金融規制および信用情報規制が問題となり得ます。
すなわち、人工知能基本法はAIに関する一般的基準を提示する法律であり、具体的事業においては、各産業別の個別法令も併せて検討しなければなりません。
人工知能基本法は、大きく二つの方向性を併せ持っています。一つはAI産業の発展支援であり、もう一つはAIに対する信頼基盤の造成です。
信頼基盤造成の観点では、高影響AI、生成AI、安全性確保、透明性確保、国内代理人指定等が重要な内容となっており、この部分は企業実務と直接関連します。
AIサービスを提供する企業は、自らが提供するサービスがどの類型のAIに該当するのか、どのような告知義務、表示義務、安全性確保義務等が発生するのかを確認する必要があります。
人工知能基本法は、AI事業者を「AI開発事業者」と「AI利用事業者」に区分しています。AIを直接開発して提供する事業者が存在する一方、外部で開発されたAIモデルやシステムを活用して最終サービスを提供する事業者も存在します。実務上は、一つの企業が両方の地位を同時に有する場合もあり得ます。
また、人工知能基本法は、高影響AI、生成AI、高性能AIを区別し、それぞれ異なる義務および責任を定めています。
高影響AIとは、人の生命・身体の安全および基本権に重大な影響または危険を及ぼすおそれのあるAIシステムであって、法律で定められた分野(保健医療、医療機器、採用、融資、交通手段等)のいずれかに利用されるものをいいます。事業者は、透明性確保義務等、多様な義務を負います。
生成AIについては、透明性確保が重要です。テキスト、画像、映像、音声等を生成するAIを活用する場合、利用者が、当該サービスがAIベースであることを認識できなければなりません。また、AIが生成した成果物についても、一定の場合にはAI生成物である旨を表示する必要があります。
高性能AIとは、学習に使用された累積演算量が1026 FLOPs以上であり、かつAI技術発展水準を考慮した場合に最先端AI技術を適用して構成・運営され、人の生命・身体の安全、基本権または公共安全に広範かつ重大な影響を及ぼす可能性が高いAIをいいます。事業者は、安全性確保義務等を負います。
人工知能基本法は、企業に新たな規制負担を課す法律である一方、同時にAI活用基準を整理する法律でもあります。今後、法律、施行令、告示、ガイドライン、行政解釈、産業別規制が相互に結合されることで、具体的な適用基準がより明確に形成されていくことになるでしょう。
これまで企業は、AIを導入しながらも、利用者への告知、データ出所、成果物表示、事故発生時の責任、外部モデル提供者との責任分担等を明確に定めていないケースが少なくありませんでした。
人工知能基本法は、このような部分を体系的に点検させる契機となり得ます。特に、AI企業、プラットフォーム企業、金融・医療・教育・採用分野の企業、生成AIを活用するコンテンツ企業は、人工知能基本法の適用可能性を事前に十分検討する必要があります。