日本と韓国のAI規制を比較―日本のソフトロー型と韓国AI基本法の違いとは
Attorney admitted in Japan
Masataka Ogasawara
Attorney admitted in Japan
Inho Kim
本連載は、日本と韓国のAI法制を比較しながら解説する、法務法人DLGと法律事務所ZeLoによる合同企画です。今回、日本と韓国において、AIをはじめとするテクノロジー領域・先端分野に強みを有するDLGとZeLoは、AIビジネスに関わる日韓の事業者向けに、両国のAI法規範の概要を紹介する合同連載企画を開始しました。本連載では、各事務所がそれぞれ日本法・韓国法の内容を解説するとともに、両国制度の比較も交えながら、実務的観点から分かりやすく整理していきます(各国5回、全10記事予定)。第1回となる今回は、日本および韓国AI法制の全体像を紹介します。DLGによる韓国編第1回とあわせてご覧ください。なお、DLGのウェブページにて、本記事の韓国語版も公開しています。
Yusuke Mizuno graduated from Osaka University in 2016 (LL.B.) and has been admitted to the Daiichi Tokyo Bar Association in 2018. After working at the Tokyo office of Nishimura & Asahi, he joined ZeLo in 2024. His practice focuses on international arbitration and litigation, general corporate, sustainability matters and IP.
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目次
日本では、2025年に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」が施行され、他方、韓国でも2026年1月に包括的なAI基本法が施行されており、世界的にAI技術の急速な発展とともに、法規範・ガバナンス整備が進められています。
日本と韓国は、地理的・文化的に近接するだけでなく、経済・ビジネス上の交流も極めて活発であり、AI関連事業においても例外ではありません。もっとも、日本と韓国では、近い時期に「AI法」が施行されている一方、その制度設計や規制アプローチには大きな違いも見られます。
このため、日本と韓国の双方でAIビジネスを展開する事業者にとっては、両国の制度趣旨や規制構造の違いを理解し、それぞれの法規制・政策動向を踏まえたガバナンス体制を構築することが重要になります。また、国外事業者にも適用され得る規定が存在する点にも注意が必要です。
日本のAI規制は、AIの技術進歩と変化に柔軟に対応するため、ハードロー(法律)と法的拘束力を持たないソフトロー(ガイドライン等)を組み合わせたアプローチを採用しています。
日本の規制・規範の階層構造は以下のとおりです。
上記の階層構造は、韓国における、法律→施行令→告示→ガイドライン、ならびに一般法および個別法という体系と似通っているようにも見えます。
しかし、日本のAI法は、韓国のようにAIに関する一般的・包括的な規制基準を示すものというよりは、AI施策のための土台を作る「基本法」、「推進法」としての性格が強く、国を主語・宛名にした規定がほとんどである点で大きな違いがあります[2]。
2025年に全面施行されたAI法では、国は、事業者等が遵守する事項を含む指針の整備、悪質な事案に対する調査やその結果に基づく指導・助言等を行うことが規定されています。
全体の概要は以下のとおりです[3]。
| 第一章 総則 | 目的、定義、基本理念(1条~3条) 国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者・国民の責務、連携の強化、法制上の措置(4条~10条) |
| 第二章 基本的施策 | 研究開発の推進、施設・設備の整備・共用の促進、適正性の確保、人材の確保、教育の振興、調査研究、国際協力(11条~17条) |
| 第三章 人工知能基本計画 | 人工知能基本計画の策定(18条) |
| 第四章 人工知能戦略本部 | 人工知能戦略本部の設置等(19条~28条) |
| 附則 | 施行期日、見直し規定 |
AI法が対象とする「人工知能関連技術」(AI関連技術)は、①「人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術」と、②「入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術」を指すものと定義されています。
韓国AI法において、「人工知能」が、「学習、推論、知覚、判断、言語の理解等、人間が有する知的能力を電子的方法により具現したもの」と定義され、「人工知能システム」が「多様な水準の自律性及び適応性を有し、与えられた目標のため、現実及び仮想環境に影響を及ぼす予測、推薦、決定等の成果物を推論する人工知能基盤システム」と定義されていることと比べると、周辺のシステムも含み得るやや広い規定となっています。
AI法は国等の責務に関する規定が多いですが、AIの「活用事業者」に関する規定も定められています。「活用事業者」は、AI関連技術を活用した製品・サービスの開発者、提供者、利用者を指します(7条)。
AI法には明示的な域外適用条項は設けられていませんが、国会答弁等において、国外事業者であっても日本語を用いてAIの研究開発や活用を行うなど、我が国の事業者や国民に対して事業活動を行う者は対象になると説明されています[4]。
AI法は政策推進に重きが置かれた法律ではあるものの、企業を含む活用事業者も以下の重要な規定の適用対象となっています。
事業活動においてAIを活用する事業者は、二つの責務を負うこととされています。
上記1は、努力義務となっているのに対し、2の義務は「協力しなければならない」とより強い文言で定められています。これらの義務違反に対する罰則はありませんが、次にみる、国による「必要な措置」の対象となる可能性があるため、注意が必要です。
国は、AIの開発や活用動向の収集、不適切な方法による権利侵害事案の分析・調査を行うこととされ、この結果に基づき、活用事業者が不適切な開発・活用を行っている場合や、前述の「国の施策への協力義務(7条)」に違反した場合などに、国から指導、助言、情報提供などの「必要な措置」を受ける可能性があります。
また、悪質な事案や事象が発生した場合には、日本に法人や事業所のない国外の事業者に対しても、AI法に基づく国の調査等を行う方針であると説明されています[5]。
「必要な措置」の内容については、今後の運用の中でより明確になっていくこととなりますが、悪質なAIサービス事業者名の公表等の可能性についても、個別の案件ごとに是非を検討することとされています[6]。
AIを活用する事業者がAI法に沿った適切なガバナンスを構築する上で、政府が定める基本計画や、階層的に整備されている以下のソフトローが具体的な手引きとなります。
法律事務所ZeLoでは、AIを含む先端領域や、韓国を含む国際法務に関するご相談に対応しています。本連載のテーマに関連する事項をはじめ、上記の分野にご関心がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
[1] AIに関するガイドライン等の全体図については、内閣府作成「各府省庁等のガイドライン等」も参照。
[2] ただし、「基本法」ではなく「推進に関する法律」との名称が付けられていることについては、イノベーションの促進とリスク対応を両立しながら、AIの研究開発および活用を強力に推進することによって、国民生活の向上と経済社会の発展を目指すという趣旨であることが説明されています(第217回国会 衆議院本会議第17号(2025年4月8日))。
[3] 内閣府作成「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)の概要」も参照。
[4] 第217回国会 衆議院本会議第17号(2025年4月8日)。
[5] 第217回国会 参議院内閣委員会第17号(2025年5月27日)。
[6] 第217回国会 参議院本会議第19号(2025年5月16日)。
ただし、衆議院および参議院における附帯決議では、「活用事業者等に対する調査、指導及び助言等に当たっては、当該事業者等の営業秘密や知的財産権の保護に配慮しつつ、過度に重い負担や情報開示を求めないように留意すること」とされています(https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/217/pdf/k0802170292170.pdf)。
[7] https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html
[8] https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_guideline/ai_guideline.html
[9] https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20260331_report.html