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【弁護士が解説】2026年1月施行 取適法(旧下請法)改正のポイントと実務対応

令和8年(2026年)1月1日から、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」として改正・施行され、適用対象となる取引類型や事業者の範囲が拡大します。取適法に違反した場合、事業者名公表などの行政措置や刑事罰が科されるおそれがあることから、委託事業者の法令対応がこれまで以上に重要となります。本記事では、「取適法とは何か」という基本的な用語解説から、違反リスク、資本金基準・従業員基準を踏まえた適用対象判定の手順、対象となった場合に必要な実務対応、さらに禁止行為とその具体的な対策までを体系的に解説します。

【弁護士が解説】2026年1月施行 取適法(旧下請法)改正のポイントと実務対応
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Haruya Takeshita

Attorney admitted in Japan

Haruya Takeshita

Passed the bar exam in 2022 while studying at Keio University. Studied abroad in South Africa the same year. In 2023, participated in launching a new business at a local construction company in India, overseeing on-site operations, sales, and recruitment. Registered as an attorney (Daini Tokyo Bar Association) and joined ZeLo in 2025. His main practice areas include cross-boarder transaction, real estate, financial law and funds, labor and employment, and corporate venture capital.

2026年1月施行:下請法は「取適法」へ

取適法とは:用語解説

令和8年(2026年)1月1日から、下請法が改正され、「中小受託取引適正化法」(通称:取適法/とりてきほう)として新たに施行されます。これにより、適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大され、中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護が強化されます。

(出典:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」(2025年11月18日))

取適法に違反した場合のリスク

取適法(中小受託取引適正化法)に違反した場合、委託事業者には①事業者名の公表などの行政措置、②刑事罰およびこれらに伴うレピュテーションリスク等があります。

行政措置と事業者名の公表

公正取引委員会、中小企業庁および事業を所管する各省庁の大臣が連携して監督を行います。

違反やその恐れがある場合に改善を促す指導が行われ、受託者の不利益が大きい場合には、是正を求める勧告がなされ、勧告の内容に従うか否かを問わず、「違反した事業者名」と「違反内容」が一般に公表されます。

※中小受託事業者が当局へ通報したことを理由に、取引停止等の不利益な扱いをすること(報復措置)は厳格に禁止されており、指導・勧告の対象です。

刑事罰:50万円以下の罰金

行政措置とは別に、取適法の一部の規定に違反した場合には、刑事罰(50万円以下の罰金)が科される可能性があります。

※当局からの報告要請を拒んだり、虚偽の報告をしたりした場合も、同様に罰金の対象となります。
※刑事罰の対象となる行為を行った行為者と法人の両方に刑事罰が科される可能性があります。

改正による規制強化

改正により、事業所管省庁の主務大臣にも新たに指導・助言権限が付与され、かつ同主務大臣への通報も、報復措置の禁止の対象となりました。

自社の取引は適用対象?対象判定の手順

取適法の適用対象となるかどうかは、①取引の内容と、②委託事業者及び受託事業者の規模に係る要件資本金基準または従業員基準)の2点によって判断されます。

まずは、自社の取引が法の対象となる取引類型に該当するかを確認し、次に、取引相手を含めた双方の規模を確認するという手順で検討します。

取引類型の確認(特定運送委託の追加)

取適法の対象となる取引(製造委託等)には、従来の4類型に加え、新たに特定運送委託が追加されました。これにより、対象取引は以下の5類型となります。

  1. 製造委託:物品の製造や加工の委託(部品、原材料、金型等の製造を含む)
  2. 修理委託:物品の修理の委託
  3. 情報成果物作成委託:プログラム、デザイン、設計図などの作成の委託
  4. 役務提供委託:役務の提供を目的とするサービス(運送、倉庫保管、情報処理など)の委託(建設工事の下請を除く)
  5. (新設)特定運送委託:事業者が、販売する物品、製造や修理を請け負った物品又は情報成果物に基づき作成された物品を、その取引の相手方(顧客等)に対して運送する行為の委託
(出典:公正取引委員会「(令和7年9月26日)荷主・物流事業者の皆様へ~取適法の対象が特定運送委託まで拡大します~」1頁)

従業員基準の追加と資本金基準

従来、下請法の適用は資本金基準のみでしたが、取適法では下記の従業員基準が新たに追加され、適用対象が大きく広がります。従業員基準は、資本金基準が適用されない場合でも適用されます。

  • 製造委託、修理委託、特定運送委託、一部の情報成果物・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る)
    • 委託事業者の常時使用する従業員が300人超の場合、中小受託事業者の従業員数次第で対象となり得ます。
  • 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託
    • 委託事業者の常時使用する従業員が100人超の場合、中小受託事業者の従業員数次第で対象となり得ます。

資本金基準も含めた、改正後の取適法適用基準は以下のとおりです。

(出典:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」(2025年11月18日))

従業員数の計算方法の実務ポイント

算定の対象となる労働者

算定の対象となる労働者とは、労働基準法に規定する労働者のうち、日々雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用される者を除く)以外のものを指します

※正社員に限らず、契約社員、パートタイマー、アルバイトを含みます。
※当該事業者の賃金台帳の調製対象となる対象労働者の数によって算定されます。

適用を判断するタイミング

従業員基準の該当性は、原則として製造委託等をした時点における「常時使用する従業員の数」によって判断されます。継続的な取引関係がある場合でも、個々の発注(製造委託等)をした時点を基準とするのが原則です。

なお、頻繁に変動する従業員数を都度確認する実務的な負担を軽減するため、例えば、前々月中に賃金が支払われた対象労働者について、前月の末日における賃金台帳上の人数をもって、「常時使用する従業員の数」とする取り扱いが認められています。

取引先の「常時使用する従業員の数」が分からない場合

確認方法としては、書面または電子メール等の電磁的方法などの記録に残る方法が望ましいです。

具体的な方法としては、例えば、発注における見積依頼書に「従業員数が300人を超える場合は、以下のボックスにチェックを入れて御返送ください」等と記載することにより見積書返送時に従業員基準の該当性を確認する、相手方から提出してもらう見積書の備考欄に「従業員数は300人を超えていない」等の記載を記入してもらうなどの方法が考えられます。

取適法の対象となる場合の対応事項

取適法の対象となる「委託事業者」には、以下の4つの義務と11の禁止事項の遵守が求められます。

発注内容等の明示

委託事業者は、製造委託等をした場合、直ちに、発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法)等を明示しなければなりません。

発注書・注文書に最低限含めるべき主要な明示事項

項目契約書・発注書への記載
当事者情報委託事業者及び中小受託事業者の商号、名称、識別符号。
委託内容委託日、給付の内容、受領期日及び場所。
※給付の内容については、中小受託事業者が委託事業者の指示に即した給付の内容を作成又は提供できる程度の情報を明記。
検査検査をする場合は、その検査完了期日
代金・支払製造委託等代金の額(原則、具体的な金額)及び支払期日
※具体的な金額が困難な場合は算定方法を明記。
支払手段電子記録債権、一括決済方式など、金銭以外の支払手段を用いる場合の詳細。
有償支給原材料等を委託事業者から購入させる場合(有償支給)は、品名、対価、決済期日などを明記。

【改正ポイント】
中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールや、SNSのメッセージ機能などの電磁的方法による明示が可能になりました。

取引記録の作成・保存(2年)

委託事業者は、取引が完了した後、取引に関する記録を書類または電磁的記録として作成し、2年間保存する義務があります。この記録は、公正取引委員会などの調査に備え、取引の適正性を担保するためにも重要です。

支払期日(60日ルール)・遅延利息の支払い

取適法が適用される取引では、支払ルールが厳格に定められています。

支払期日(60日以内)の数え方

委託事業者は、物品等の受領日から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません。

※検査期間の長短にかかわらず、起算日は「給付を受領した日」であるため、納入後の検査に日数を要する場合でも、制度上支払遅延が生じないように、納入後の期間を見込んだ支払制度とする必要があります。

遅延利息

支払期日までに代金を支払わなかった場合は、物品等の受領日から60日を経過した日から実際に支払う日までの日数に応じ、中小受託事業者に年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。

【改正ポイント】
正当な理由なく支払代金を減額した場合も、遅延利息を支払う必要があります。

振込手数料の負担

改正により、振込手数料を製造委託等代金から差し引いて支払う行為は、中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、製造委託等代金の減額(禁止行為)に該当することになります。

これは、取引上の立場が弱い中小受託事業者が、形式的な合意があったとしても実質的に負担を押し付けられる蓋然性が高いという考え方に基づくものです。したがって、振込手数料は必ず委託事業者が負担しなければなりません。

取適法の禁止行為(遵守事項)とその対策

既存の主要な禁止行為:受領拒否/減額/返品/買いたたき

委託事業者が行ってはならない典型的な禁止行為(遵守事項)は以下のとおりです。

  • 受領拒否
    中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注した物品や成果物の受領を拒否する行為。自社の都合による発注の取消しや納期の延期も含まれます。
  • 減額
    中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に決定した代金を発注後に減額する行為。協賛金の徴収振込手数料の負担要請も減額に当たります。
  • 返品
    中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、受領した後、給付に係る物を引き取らせる行為。売れ残りや商品の入替えを理由とする返品は違反となります。
  • 買いたたき
    通常支払われる対価に比し著しく低い代金を不当に定める行為。コスト上昇分(労務費、原材料費等)について、価格交渉の場で明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くことも、買いたたきに該当する可能性があります。

その他、ここまでの解説で触れたものも含め、「代金の支払遅延」、「購入・利用の強制」、「報復措置」、「有償支給原材料等の対価の早期決済」、「不当な経済上の利益の提供要請」、「不当な給付内容の変更及びやり直し」があります。

改正で追加された禁止行為と実務上の対応方針

「協議に応じない一方的な代金決定」とは

「協議に応じない一方的な代金決定」(法第5条第2項第4号)は、代金額だけでなく、価格決定のプロセスそのものが公正であることを求めるものです。

これは、中小受託事業者の給付に関する費用の変動(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の高騰)や、代金の額に影響を及ぼし得る事情が生じた場合に適用されます。

以下の要件をすべて満たす場合に違反が成立します。

  1. 中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めた(値上げした見積書の提示など、協議を希望する意図が客観的に認められる場合を含む)
  2. 委託事業者が、当該協議に応じない(拒否、無視、回答の引き延ばしなど)、または、中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をしない
  3. その結果、委託事業者が一方的に製造委託等代金の額を決定したこと(代金の引き上げ、引き下げ、据え置きも含む)

実務上の対応方針

対象修正・整備内容
契約書/発注書コスト変動等による価格改定の協議に応じる旨の条項を追加する。
※条項例:「受託者が、本件成果物の完成に必要な費用の高騰などの合理的な理由に基づき●条●項に定める対価の変更を委託者に求めた場合、委託者は、誠実に協議に応じ、変更しない場合にはその理由を書面で通知するものとする。」
社内運用ルール中小受託事業者からの価格改定要求に対する対応期限と窓口を明確にし、対応フローを整備する。
※中小受託事業者の求めた事項が代金の額に関する協議との関連性を欠く場合、営業秘密の開示を求める場合、説明が尽くされているのに同じ質問が反復される場合には、応じなくとも問題にはなりません。
書類管理価格決定の過程で、中小受託事業者との間で交わされた見積書、交渉メール、議事録等の書類を保存するルールを徹底する。
代金据え置き時の対応コスト変動があったにもかかわらず代金を据え置く場合、合理的な理由を説明し、その説明内容を書面で残す。
※コスト上昇の根拠として「合理的な範囲を超えて詳細な情報」の提示を求める行為は、「協議に応じない」に該当する可能性があります。

取適法改正に伴う対応事項

2026年1月1日の取適法施行に向け、特に従業員基準の追加や特定運送委託類型の導入により、新たに法の対象となる可能性がある企業は、以下の点を検討する必要があります。

適用の有無の確認

  • 対象判定の実施
    主要な取引先について、資本金基準に加えて、従業員数基準(300人/100人)による対象判定が求められるようになります。また、物品の販売等に伴う運送委託(特定運送委託)の取引類型に該当しないか、注意が必要です。

委託事業者に求められる主な対応事項

  • 発注書・記録の整備
    適用対象となった場合、発注書(注文書)に、法定明示事項(給付内容、代金、支払期日(60日以内)など)を漏れなく記載する必要があります。また、取引記録(受領日、支払日、代金等)を2年間保存する体制の整備も求められます。
  • 支払期日の設定・振込手数料の負担
    支払期日を受領日から60日以内に設定する必要があります。また、製造委託等代金の振込手数料を委託事業者が負担する運用が求められます。

企業の取引実態に合わせた対応をするために

取適法の改正は、企業の取引実態に応じて複雑な論点を含みます。特に「従業員基準」の判断や「価格協議プロセス」に関する個別具体的な検討が必要な場合は、外部専門家への相談をご検討ください。

法律事務所ZeLoでは、企業の取引実態に合わせた取適法改正対応(対象判定、契約書・発注書の修正、社内運用マニュアルの策定)について、専門的なサポートを提供しております。

弁護士による社内研修の実施等も可能ですので、下記ページのお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

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