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【速報】AI活用推進法が成立:概要と企業への影響

2025年5月28日、日本において人工知能(AI)分野に特化した初の法律「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下「AI活用推進法」)が参議院本会議で可決・成立しました。本法は、AIを使った人権侵害などのリスクを抑制するため、国が調査し事業者に是正を促すことを目的としています。本記事では、成立の背景から概要・企業などへの影響と今後の展望を解説します。

【速報】AI活用推進法が成立:概要と企業への影響
AI
PROFILE
Satoshi Nomura

Attorney admitted in Japan, NY

Satoshi Nomura

Graduated from the University of Tokyo Faculty of Law in 1997 and registered as a lawyer (Japan) in 2000 (member of the Tokyo Bar Association). After working at Nagashima Ohno & Tsunematsu, Porter, Wright, Morris & Arthur (U.S.), and Clifford Chance LLP, he joined ZeLo Foreign Law Joint Enterprise in 2020. His practice focuses on general corporate, investment, start-up support, finance, real estate, financial and other regulatory matters. In addition to domestic cases, he also handles many overseas cases and English-language contracts. He is also an expert in FinTech, having authored the article "Fintech legislation in recent years" in the Butterworths Journal of International Banking and Financial Law. His other major publications include "Japan in Space - National Architecture, Policy, Legislation and Business in the 21st Century" (Eleven International Publishing, 2021). Publishing, 2021).

Hiroto Shimauchi

Attorney admitted in Japan

Hiroto Shimauchi

Graduated from the Faculty of Law at the University of Tokyo (LL.B) in 2017. Passed Japan Bar exam in 2018. Qualified to Practice Law in 2019 (Daini Tokyo Bar Association). Joined ZeLo in 2020. Specializes in providing legal advice in cutting-edge technology fields such as AI, Web3, and Fintech, as well as a wide range of corporate matters including M&A involving Cross-border Transactions, Stock Options, Startup Finance, and Litigation/Dispute Resolution.

AI活用推進法成立の背景

2025年5月28日、日本において人工知能(AI)分野に特化した初の法律「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下「AI活用推進法」)が参議院本会議で可決・成立しました。この法律は、技術動向の調査や事業者への指導といった方法で国がAIの悪用リスクに対応し、国民の不安を和らげつつAI活用を促進することを狙いとしています。欧州連合(EU)が包括的なAI規制法(AI Act)を2024年に世界で初めて施行するなど海外では規制の動きが先行していますが、日本の新法は罰則規定を設けず、強い規制を避け、企業の自主的な研究開発を後押しする姿勢を鮮明にしています。

日本でこのような法律制定に至った背景には、AI分野での立ち遅れと技術への不安感があります。実際、2023年のAI分野への民間投資額では、日本は約7億ドルで世界12位と低く、1位の米国(約672億ドル)に大きく水をあけられています[1]。生成AIを利用したことがある日本の個人は9%に過ぎず、米国(46%)・中国(56%)と比べ著しく低調です。一方、ディープフェイクなどAIの悪用事例に対する国民の不安は根強く、「現行の規制や法律でAIを安全に利用できる」と考える日本人は13%に留まり、77%が「AIには規制が必要」と感じています。

こうした状況を踏まえ、日本政府は、イノベーション(技術革新)を促進しつつリスクにも対応するため、既存の刑法や業法など個別法ではカバーしきれない部分を補完する新たな基本法の必要性を訴えました。本法はAI開発・活用促進に関する日本初の基本法であり、政府は「世界のモデルとなる制度」を構築して日本を「最もAIを開発・活用しやすい国」へと押し上げることを目指すとしています。

AI活用推進法の目的と基本理念

AI活用推進法の第1条(目的)では、本法律がAI関連技術の研究開発および活用に関する施策について基本理念基本計画を定め、さらに人工知能戦略本部(AI戦略本部)を設置することで、AI研究開発・活用の施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の向上と国民経済の健全な発展に寄与することを掲げています第3条(基本理念)では、AIが経済社会および安全保障上極めて重要な技術であることを踏まえ、研究開発力の維持・向上や国際競争力の強化基礎研究から実用化までの総合的・計画的な推進を図ることが謳われています。また、犯罪への悪用や個人情報漏えい、著作権侵害などAI活用に伴うリスクに鑑み、AIの研究開発・利用の過程における透明性の確保等の必要な措置を講じることも基本理念に盛り込まれました。さらに、日本が国際的な協調のもとでAI分野のルール形成を主導し、世界的な規範にも即した形でイノベーション促進とリスク対処の両立を図ることが謳われています。

AI活用推進法の主な内容

本法により、政府および関係機関が講ずべき施策や新たに設置される組織が定められています。主なポイントは以下のとおりです。

  • AI戦略本部の新設: 内閣に人工知能戦略本部を設置し、AI基本計画の立案・推進などAI政策を統轄します。本部長は内閣総理大臣で、全閣僚がメンバーとなり、省庁横断で総合的な戦略立案を行います。
  • AI基本計画の策定: 政府は基本理念に則り、AI研究開発・活用を推進するための**人工知能基本計画(AI基本計画)**を策定します。AI基本計画には政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策の基本方針が盛り込まれる予定です。
  • 研究開発の支援と基盤整備: AI分野の研究開発の推進や、データセンター・データセットなど研究基盤の整備・共有促進が掲げられており、それらのために必要な措置を講じるとしています。
  • 人材育成・教育の促進: AI人材の育成確保や学校教育におけるAI教育の振興も基本的施策に含まれており、将来的なAI人材基盤の強化が図られます。
  • 国際連携と指針の整備: 日本が国際的な規範策定に参画するとともに、AIの適正な活用を担保するため国際的な規範に即した指針(ガイドライン)の策定を行うと定めています。指針の内容は今後公表予定ですが、G7「広島AIプロセス」で合意された国際原則(例えば不適切なAI出力を減らす措置やAIの仕組み・リスク情報の開示、訓練データセットの透明性向上など)が反映される見通しです。
  • 調査研究とリスク対応: 政府が国内外のAI技術動向や利用実態を調査・研究し、不正・不適切なAI利用による被害事例について分析・対策検討を行うことが規定されました。調査結果に基づき、必要に応じて事業者や国民に対し指導・助言や情報提供を行う権限も付与されています。

企業・研究機関への影響と留意点

今回のAI活用推進法は基本的に政府を主体とする「推進策」が中心であり、民間事業者に直接の規制や罰則を課すものではありません。もっとも、第7条でAI活用事業者(AIを開発・利用する企業)の責務が定められ、事業者は国や自治体が実施する施策に協力する義務を負うことが明記されました。これは努力義務的な規定であり、違反しても直ちに罰則が科されるものではなく、政府は企業の自主性を尊重しつつイノベーション促進を優先する姿勢です。

しかし、事業者にとって留意すべきは、政府による調査への協力要請や、AIの不適切利用に関する是正指導があり得る点です。新法では、生成AIによるディープフェイク拡散や個人情報漏えい・著作権侵害といった悪質な事例について、政府が事実関係を調査・分析し、公表して広く注意喚起を行うことも想定されています。自社のAI活用が社会に与えるリスクに十分配慮し、透明性確保や安全対策に自主的に取り組むことが重要です。

今後策定されるガイドラインでは、AI開発者・提供者による不適切な出力を減らす工夫やAIの仕組みおよびリスク情報の開示、訓練データの透明性向上などが求められる可能性があります。国内外のAI事業者は、自社のAIガバナンス体制がこうした国際的な規範に沿ったものとなっているか点検し、日本市場においても信頼性の確保と法施策への協力姿勢を示していくことが肝要でしょう。

AI活用推進法の今後の展開とフォローアップ

AI活用推進法は公布の日から施行され、法律上、公布後3か月以内にAI基本計画の策定およびAI戦略本部の始動が予定されています。政府は今後、本法に基づき初のAI基本計画を策定するとともに、前述の指針の具体化作業に着手すると見込まれます。また、附則の「検討」規定により、国内外のAIを取り巻く動向や社会経済情勢の変化を踏まえて本法の施行状況を検証し、必要があれば所要の見直し措置を講ずることが定められています。したがって、技術革新や国際ルールの進展に応じて、今後ガイドラインの更新や制度の改訂が行われる可能性があります。企業・実務担当者としては、政府の基本計画の内容やガイドライン策定の動きを注視するとともに、自社のAI関連施策を継続的にアップデートしていくことが求められるでしょう。

法律事務所ZeLoでは、AIをはじめとする先端領域に関して、創業時から潜在性に注目して研究・実務を進めてまいりました。その知見と経験をもとに、専門チームを編成し、多数のクライアントへ法的アドバイスを提供しています。「生成AIを活用したビジネスを展開したいが、ビジネススキームについて相談したい」「法的論点について相談したい」など、どんなご相談でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。


出典:[1]内閣府 「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」(議案第29号)概要https://www.cao.go.jp/houan/pdf/217/217gaiyou_2.pdf、要綱https://www.cao.go.jp/houan/pdf/217/217youkou_2.pdf

参考:内閣府 「AI戦略会議・AI制度研究会 中間とりまとめ」(2025年2月4日)https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/interim_report.pdf

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