【弁理士が解説】最新の登録事例から学ぶ生成AIの特許戦略

Patent Attorney
Toshihiko Adachi

ChatGPT(GPT-3.5)が公開されて、2年以上が経ちました。AIとの共存に悩む企業もあれば、AIの活用で業務の効率化に成功した企業もあり、さらにはAIを活用したことでサービスが飛躍的に進歩して売り上げが倍増した企業もあるかと思います。 法律事務所ZeLoでは、AIを活用されている企業様から「AIを単に活用しているだけでは特許取得は難しいのでは?」といったご相談が多く寄せられます。 確かに「単にAIを活用した」というだけでは、特許を取得することが難しい場合もありますが、それは「AIを活用しているだけだから」ではなく、「すでに出願されているから(厳密には過去の特許出願書類に記載されているから)」という場合が多いです。 本記事では、AI関連発明の特許出願件数の推移を紹介します。出願件数がどのように推移しているかを把握することで、特許出願を検討する際の参考にしていただければ幸いです。 なお、あくまで参考情報であることにご留意ください。
Toshihiko Adachi graduated from the University of Electro-Communications in 2002 and graduated from University of Tsukuba in 2012. He started his career as a patent attorney (Japan) in 2017. Before being a patent attorney, he used to be a patent examiner at Janan Patent Office. He joined ZeLo in 2024. He handles prosecutions of patents in various kinds of technical fields.
Toshihiko Adachi graduated from the University of Electro-Communications in 2002 and graduated from University of Tsukuba in 2012. He started his career as a patent attorney (Japan) in 2017. Before being a patent attorney, he used to be a patent examiner at Janan Patent Office. He joined ZeLo in 2024. He handles prosecutions of patents in various kinds of technical fields.
目次
後ほど時代毎の特許出願の状況を把握するために、「AI」の歴史を簡単にご紹介します。
1956年のダートマス会議で、ジョン・マッカーシー氏が「Artificial Intelligence(人工知能)」という言葉を初めて使用しました。このとき、ジョン・マッカーシー氏は、「人工知能とは、学習や知能の他の側面を機械でシミュレートする科学と工学である。」と発言したようです。この定義は、「知能とは何か」を厳密に定義するよりも、機械が知能的な行動をどこまで再現できるかに焦点を当てたものでしたが、ジョン・マッカーシー氏のこの発言により、AI研究の基礎が築かれ、学問としてのAI研究がスタートし、ルールベースのプログラムや探索アルゴリズムの研究が進むきっかけになりました。しかし、現実の問題はルールだけでは対応できず、また、当時のコンピューター技術では莫大な計算量を処理することもできず、第一次AIブームは終了しました。
2 . 第二次AIブーム(1980年代):特定の専門分野への特化
第二次AIブームでは、化学分析、医療診断などの、特定の専門分野での知識を使うシステムが開発されました。また、日本でも通商産業省(現:経済産業省)と新世代コンピュータ技術開発機構(ICOT)とが主導した第五世代コンピュータ・プロジェクトにおいて、AIの大規模開発が行われました。しかしながら、第二次AIブームでも、あまり期待した成果は得られませんでした。その原因として、第一次AIブームと同様に、当時のコンピューター技術では知識の獲得が手作業で大変であり膨大なルールを管理できないという点がありました。
3 . 第三次AIブーム(1990〜2000年代):機械学習
第三次AIブームでは、これまでの主流だった「ルールベース」から、データを学習する「機械学習」への移行が始まりました。このころからサポートベクターマシン(SVM)、ベイズ推定、ニューラルネットワークの改良などが進みました。また、第三次AIブームでは、第二次AIブームまでと違い、IBMの「ディープ・ブルー」がチェス世界王者カスパロフ氏に勝利(1997年)するなど、一定の成果がありました。
4 . 第四次AIブーム(2010年代〜現在):ディープラーニング
2012年、ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge(ILSVRC)という画像認証コンテストで、CNNを実装したAlexNetが画像認識コンテストで優勝しました。この成功により、AI業界全体がディープラーニングへ大きくシフトしました。ディープラーニングの研究が進むにつれ、音声認識、画像認識、自然言語処理などの分野で飛躍的な進歩を遂げました。また、2015年、Google社が自社製品で使用する人工知能・機械学習ソフトウェア「TensorFlow」をオープンソース化しました。そして2022年11月30日、ChatGPT(GPT-3.5)が公開され、AIの専門家のみならず、多くの人がAIを使用する時代が始まりました。
AIの歴史については、上記のとおりですが、その歴史に合わせて、AI関連発明の特許出願件数の推移を紹介します。まず、1965年以降のAI関連の特許出願件数は、下記のグラフのように推移しています。
上述した「AIの歴史」と照らし合わせると、第二次AIブームからAI関連発明の特許出願件数が増加し、その後一定水準を保ったまま第三次AIブームが経過し、第四次AIブームから急激に特許出願件数が増加していることがわかります。特に、AlexNetが画像認識コンテストで優勝した時期にAI業界全体がディープラーニングへ大きくシフトしたことに起因して、AIの開発が活発となり、それに伴って急激に特許出願件数が増加していています。
次に、第四次AIブーム(2010年~2022年)におけるAI関連の特許出願件数は、下記のグラフのように推移しています。
上述したように、AlexNetが画像認識コンテストで優勝した2012年からAI関連の特許出願件数が増加し始めています。また、出願件数の増加が特に著しいのは、2015年~2018年頃であることがわかります。
特に2015年は上述したように、AI実用化元年ともいわれるこの年で、Google社が自社製品で使用する人工知能・機械学習ソフトウェア「TensorFlow」をオープンソース化した年です。この年以降、AI市場が活性化し、研究開発が促進されたことで、特許出願件数もまた増加したのではないかと考えられます。
ところで、「第四次AIブーム(2010年~現在)におけるAI関連の特許出願件数」と謳っておきながら、なぜ2022年までしか情報が載っていないかというと、特許出願は原則として出願から1年半経過しないと公開されないからです。つまり、現状は2023年以降(厳密には2023年9月以降)の出願件数は正確には掴めないということになります。そこで、2023年以降の特許出願件数の推移を推察してみます。
まず、これらグラフやAI関連の市場動向を検討します。
グラフ1によれば、
しかし、グラフ2によると、
これらを鑑みると、推測ではありますが、衝撃的なイベントの発生よりも、市場の活性化が特許出願件数の増加に起因しているように見受けられます。例えば第三次AIブームの「チェス世界王者がコンピューターに負けた」というニュースは衝撃的ではありますが、市場活性との関係性は確認できませんでした。一方、日本政府が主導した第二次AIブームや第四次AIブームにおけるAlexNetの優勝は、AI業界に詳しくない一般人にはあまり知られていないニュースではありますが、技術的には重要な意味があり、市場に影響を与えたのではないかと考えられます。さらに、Googleが「TensorFlow」をオープンソース化したことは、民放でも放送されるほどに一般人に衝撃的なニュースであるだけでなく、多くの企業がAI事業に参入して市場が活性化した、大きなイベントであったと考えられます。
さて、2023年の直近である2022年は、ChatGPT(GPT-3.5)が公開された年となります。ご承知の通り、市場の活性化は、わずか5日間でユーザー数100万人を突破、2ヶ月でユーザー数1億人を突破するほどの驚異的なものであります。また、大企業のみならず、多くのスタートアップ企業がChatGPTを活用したビジネスを展開しております。2023年以降、AI市場は明らかに「活性化している」と言えるでしょう。
特許出願件数の推移及び市場動向から、2023年以降の特許出願件数が極めて急速に増加する可能性が見えてきました。特許は早いもの勝ちであり、AI関連発明の特許出願はますます増加するでしょう。特許出願するほどでもないかもと躊躇しているうちに他社に先に出願され、権利化できなくなる恐れがあるのみならず、他社から侵害で訴えられる可能性もあります。
特許を取得するか技術をブラックボックス化するかについては、特許戦略が関係しますが、今後AIを用いたAI関連発明の特許取得件数が増加していくことを考慮すると、国内はもちろんのこと、AI等のIT技術の開発が活発な海外への出願を見越したPCT出願について、十分に検討して特許出願に関する意思決定を行うことが望ましいものと考えます。
一方、出願すれば何でも権利化できるというものではなく、やみくもに特許出願すると費用が無駄となるので、相場観がわかる専門家に依頼する方がよいでしょう。
法律事務所ZeLoの知的財産部門では、元IT系企業のエンジニアの弁理士、元特許庁審査官の弁理士をはじめ、さまざまな分野についての経験が豊富なメンバーが在籍しております。また、支援内容として、国内外の特許出願に限らず、出願前の調査から、出願情報の管理、企業内部で行われた発明の取扱いを定める職務発明規程の作成等、貴社のご状況やご要望に合わせてワンストップでサポートします。
AI関連発明の特許出願を検討している方や自社の知財戦略を見直したいという方も、ぜひお気軽にご相談ください。