スタートアップが特許出願を検討する際に最低限押さえておくべき留意点は?メリットは?弁理士が解説
Patent Attorney
Toshihiko Adachi
皆さんは日本テレビ系「水曜ドラマ」枠にて放送中の『それってパクリじゃないですか?』をご覧になっていますか?ある飲料メーカーの知的財産部で働く藤崎亜季を主人公として、商標乗っ取り、パロディ商品、特許侵害など知的財産のトラブルに立ち向かう、お仕事ドラマです。これまで知的財産部にフォーカスしたドラマはあまりなかったため、弊所の知財チーム内でも大変話題になっています。本記事では、ドラマ『それってパクリじゃないですか?』の第1~5話に登場する知財用語について解説します。ぜひこのコラムを読んで、ドラマをより楽しんでいただき、知財を身近に感じて頂ければと思います!
「企業の知財業務のアウトソーシング化」をコンセプトに、弁理士や特許・商標を担当するパラリーガルなどを含めたチーム体制で、知的財産サービスを提供する。国内外の特許・意匠・商標などに関する出願や調査、紛争だけでなく、知的財産デューデリジェンス・IPO支援、規程類の整備・運用、知財ポートフォリオ管理など、幅広く企業をサポート。
※以下ネタバレを大きく含みますので、まだドラマをご覧になっていない方はぜひドラマを観てからお読みください!
「冒認出願」とは、他人の発明を盗み、自己もしくは第三者を発明者であるとしてした出願を指します。(出典:特許庁「用語解説」(2023年5月19日最終閲覧))
『それってパクリじゃないですか?』の第1話では、主人公の勤める飲料メーカー「月夜野ドリンク」が開発したボトルコーティングの発明が、ライバル会社「ハッピースマイルビバレッジ」に先に特許出願されてしまいます。そこで、「冒認出願」を主張し特許権を取り戻すという方針で進んでいくことになりますが…
知財業界では「冒認」という言葉が使われますが、「冒認」の語は国語辞典で調べても出てこず、また、現在の特許法の条文の文言としても存在していません。「冒認」とは、もともと明治初期の旧刑法で用いられていた「掠め取る」という意味で、今でも知財業界では、発明者等またはその承継人以外の者により無断でなされた特許等の出願を「冒認出願」と呼んでいます。
「冒認出願」は、特許のみならず、商標や意匠などにおいても起こり得ます。最近では中国において、日本の地名や地域ブランド、日本企業が保有する著名な商標や著作物などが、全く関係のない第三者によって商標登録出願されているといったケースが頻発して問題となっています。
ドラマでもあったように、特許の場合は真の権利者であれば比較的容易に特許権(または特許を受ける権利)を取り戻すことができますが、商標では、相手方の悪意を証明しなければならなかったり、自社商標がよく知られているものであることを示さなければならなかったりと一筋縄ではいかないため、何より早めの出願をおすすめしています。
『それってパクリじゃないですか?』の第2話では、「月夜野ドリンク」の主力商品である「緑のお茶屋さん」に対して「緑のおチアイさん」なる名称のチョコレート菓子が出てきて、ひと騒ぎになっていました。
パロディとは「文学作品の一形式。よく知られた文学作品の文体や韻律を模し、内容を変えて滑稽化・諷刺化した文学。日本の替え歌・狂歌などもこの類。また、広く絵画・写真などを題材としたもの」(出典:『広辞苑』第7版)を意味し、その歴史は紀元前にまで遡ります。パロディ商標はその性質上、どうしても既存の有名な商標に類似したものにならざるを得ず、許容されるボーダーがどこにあるのか、関連裁判例をみても明確ではありません。
日本では、パロディ商標が信用と名声に対するただ乗り行為だという否定的な認識が強く、また、世界的にみても、政治的・芸術的なパロディを幅広く認める一方で、商業的なパロディについては否定的な事例が多いといえます。
ドラマではOEM(業務委託)という形で平和裏に一件落着していましたが、実際にはそうはいかず、訴訟となっているケースが多々あります。
商標を採択する際には、他の商標との類似性や出所混同のおそれを検討するだけでなく、公序良俗違反になっていないかも念頭に入れて行う必要があり、問題なく安全に使用するためには、弁理士等の専門家のアドバイスが有効的です。パロディ商標に限らず、商標の使用や出願の際はまず専門家に相談することをおすすめします。
「クロスライセンス」とは、特許権者がお互いの持っている特許権を交換するように、相互に利用し合う、すなわち実施できるようにするライセンスを指します。(出典:特許庁「用語解説」(2023年5月19日最終閲覧))
ドラマでは「月夜野ドリンク」の保有する特許権と個人ブロガーの著作権に関してクロスライセンス契約が結ばれており、特許権同士ではなくとも、クロスライセンス契約は結ぶことが可能です。
自社が相手方から特許権侵害や著作権侵害の主張を受けた場合、訴訟で争うことも一つの手ですが、敗訴した場合、高額の損害賠償請求や今後使用できなくなるという高いリスクを負う可能性があります。
これに対し、クロスライセンス契約を結ぶことにより、相手方の特許や権利を無償、または低額なライセンス料で使用することができますので、単なる特許発明の実施権取得の契約や著作権利用許諾契約に比べて、お得といえます。実際、大企業では何社とも包括的なクロスライセンス契約を締結することで、訴訟を回避しつつ、製品開発の自由度を確保しているケースがあります。
しかし、クロスライセンス契約にはメリットばかりでなく、デメリットもあります。
自社の権利が安い対価で供与させられる可能性や、クロスライセンスにより競合相手を強化してしまい、それにより自社の事業が脅かされるといった事態も想定されます。クロスライセンス契約を締結するにあたっては、どの権利をどの範囲で許すかなど、慎重な対応が求められます。
また、クロスライセンス契約の交渉を有利に進めるために、他社が高く評価する権利を多数持っていることも重要です。これには、知財戦略が大きく関わってくるため、包括的な戦略形成が必要になってきます。
使い方によっては、諸刃の剣にもなりかねるクロスライセンス。ぜひ弊所・知財チームにご相談ください。
以上、『それってパクリじゃないですか?』の第1~5話に登場する知財用語解説でした。この先もどんな問題が起こってくるのか、主人公のロマンス(?)も楽しみです…!
ドラマでも描かれているように、企業にとって、知的財産は社員の汗と涙の結晶となる一方で、知的財産トラブルが様々起こり得ます。
自社の特許や商標などが冒認出願されてしまった場合の対応や、そもそも冒認出願を防止する対策、パロディ商標とならないための使用・出願時の対策、自社が不利にならないようなクロスライセンス契約の交渉や知財戦略形成など、安心して企業活動を行うためには、知的財産の対策は欠かせません。
法律事務所ZeLoの知財チームでは、特許、商標、意匠の出願対応にとどまらず、他社の特許や商標に対する侵害リスク評価の実施、知財ポートフォリオの一括管理、知的財産デューデリジェンスやIPOを見越した知財戦略の構築・運用などまで幅広く対応しています。自社の知的財産を見直したいという方は、ぜひ一度ご相談ください!