霞が関から法律事務所へ。経済産業省での経験をパブリック・アフェアーズ分野で活かしたい
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Attorney admitted in Japan
Daiki Matsuda
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Attorney admitted in Japan
Mayuha Yamada
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法律事務所ZeLo・外国法共同事業の高橋尚子弁護士が、日本組織内弁護士協会(JILA)監修の書籍『企業法務のための規制対応&ルールメイキング ―ビジネスを前に進める交渉手法と実例―』の一部執筆を担当しました。本書は、弁護士による行政への働きかけ・折衝を通じて法律・規制の壁を撤回させる技術や、新規事業に合致しないルールの変更を促す手法を、具体的な事例をもとに解説した書籍となります。本書の特徴や、執筆を担当した部分の概要について、高橋弁護士に聞きました。
Hisako Takahashi graduated from the University of Tokyo (LL.B., 2005) and the University of Tokyo School of Law (J.D., 2007). In addition, she earned an LL.M. in Environmental Law and Policy at Stanford Law School in 2015. She began her legal career at Mori Hamada & Matsumoto since 2009. Following the 2011 nuclear disaster in Japan, she served on the National Diet’s Fukushima Nuclear Accident Independent Investigation Commission. She worked as a part-time intern at the Japan Office of the International Labour Organization (ILO) in 2013. She was a Stanford University Schneider Fellow at the World Resources Institute’s Global Energy Program in 2015. Prior to joining ZeLo, she worked for the Mitsubishi Research Institute, Inc. Her main practice areas include general corporate, labor and employment law, environmental and energy law, and sustainability issues.
本書は日本組織内弁護士協会(JILA)に所属する25名の弁護士(弁護士有資格者を含む)による共著です。それぞれの弁護士が、官公庁や民間企業等での勤務を通じて経験した、「企業法務担当者がビジネスを前に進めるために、どのように官公庁と関わりをもっていけばよいか」、等 様々なアイデアが盛り込まれた、読み応えのある1冊の事例集に仕上がっています。
私は、第3章「はじめに――政策形成過程における民間の立場からの法的知見の活用」と、第3章第2節「ルールを使って行政を動かす 1ガイドライン策定への関与の可能性(2)官民連携によるガイドライン策定の意義と事業者の関与――データの利用に関する契約ガイドライン(産業保安版)の実践例」を執筆しています。
本書では、民間企業による規制対応やルールメイキングに関する取り組みを、大きく以下の3つの場面に分けて紹介しています。
①「ルールの枠内で動く」(第3章第1節)
民間企業が、ある規制に基づく処分を下された(または下されそうな)ときの対応について、様々な方法の概要を紹介しています。例えば、許認可の例外事由を検討する、処分の緩和を検討するといった具体例があります。
②「ルールを使って行政を動かす」(第3章第2節)
より能動的に、官公庁にガイドラインの策定を促したり、民間企業に対する不利益な処分に対して行政不服審査等の仕組みを用いて変更を促す方法を紹介しています。併せて、民間企業から官公庁にどのように考えを伝えていくか、意見交換等の取組みのポイントを解説しています。
③「ルールそのものを変える(ルールメイキング)」(第3章第3節)
更に一歩進んで、上記①②では目的を達成できず、民間企業の新規ビジネスに対して、そのままでは法的な不確実性がありビジネスを開始できない場合等に、民間企業の立場からルールそのものをどのように変えていくかについて手法を検討しています。
本書で取り上げるいずれの事例も、細かな法令に関する議論は避け、民間企業関係者のみならず、官公庁関係者、規制対応やルールメイキングにご関心がある学生の皆さまにも理解いただきやすいよう工夫が施されています。また、多数の弁護士の経験談がまとまっているため、政策形成過程における法的知見の活用の場面は様々であることも実感いただけるかと思います。
近年、政府や自治体との関係構築・コミュニケーションや、幅広いステークホルダーを巻き込んだ取組みなどを行う、いわゆる「パブリック・アフェアーズ」とよばれる業務領域は、実に様々な立場からの関与が可能となっています。私自身も、ここ数年の経験を通じて、官民が連携して政策の質の向上を図ることが可能になっていると実感する機会は多くありました。
本書第3章「はじめに――政策形成過程における民間の立場からの法的知見の活用」では、政策形成過程において法的知見が活用できる場面や、自らの法的知見を活用するうえで心がけるべきポイントについて解説をしています。お読みいただくことで、政策形成場面における、弁護士をはじめとする法的知見を有する人材の活躍の場や職域の広がりを感じてもらえるはずと思います。
第3章第2節「ルールを使って行政を動かす」のうち「1 ガイドライン策定への関与の可能性 (2)官民連携によるガイドライン策定の意義と事業者の関与――データの利用に関する契約ガイドライン(産業保安版)の実践例」では、経済産業省が2019年4月に公表したガイドラインを題材としたものです。
2年にわたる同ガイドラインの策定 ・改定過程において、民間の事業者がどのように官公庁側に課題意識や解決策等のアイデアを効果的に伝えたか、官民連携のポイントをまとめています。お読みいただくと、民間企業にとって、常日頃から官公庁とのコミュニケーションを取り、政策立案の動向についてアンテナを張ることの重要性がご理解いただけるものと思います。
なお、「データの利用に関する契約ガイドライン(産業保安版)」策定に関わっていた当時、官公庁側の立場で関与している担当者の1人が、山田真由葉弁護士でした。不思議なご縁で、現在はお互いに法律事務所ZeLoに参画していますが、官民双方の立場から政策立案に関与した経験を、今後のリーガルサービスにも活かしていければと考えています。
社会課題が複雑化するに伴い、課題解決のための官民の相互連携は今後もますます重要になっていくものと確信しています。本書の法的知見の活用方法や、官民連携のポイントがヒントとなり、パブリック・アフェアーズの活性化につながれば嬉しいです。
ビジネスを前に進める交渉手法と実例
企業法務のための規制対応&ルールメイキング