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2022年6月までに改正公益通報者保護法が施行予定、内部通報制度の整備への影響は?

2020年6月8日、企業の不正を内部告発した従業員等を保護する公益通報者保護法の改正案が成立しました。今回の改正により、一定の条件を満たす企業は内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設定、調査、是正措置等)を義務付けられることとなり、内部通報制度構築の重要性も増しています。今回は、公益通報者保護法の改正と内部通報制度についてご紹介させていただきます。

2022年6月までに改正公益通報者保護法が施行予定、内部通報制度の整備への影響は?
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PROFILE
Masayuki Matsunaga

Attorney admitted in Japan

Masayuki Matsunaga

Graduated from the Faculty of Law, Waseda University in 2009, and completed the School of Law at the University of Tokyo in 2012. Registered as a lawyer in 2013 (Daini Tokyo Bar Association). Joined The Tokyo Marunouchi Law Offices in 2014, and became a member of ZeLo in February 2018. His main practice includes business restructuring and insolvency, M&A, fintech, startup support, general corporate matters, labor and employment, and litigation and dispute resolution. He is the author of publications such as "Strategy and Practice of Rulemaking" (Shojihomu, 2021).

高井正巳

2013年東北大学文学部卒業。同年、裁判所入所。スタートアップ企業の人事・総務部などを経て、2019年9月法律事務所ZeLoに参画。人事・労務分野のリサーチなどを中心に業務を行っており、日常的な労務相談やIPO支援、人事・労務に関する記事執筆などのサポートに取り組んでいる。

公益通報者保護法とは

 公益通報者保護法は、犯罪行為や不正行為が企業内で行われている場合や、その可能性がある場合に、公益通報者の保護を図り、公益通報を促すことで、国や社会の安全を守ろうとする法律です。公益通報者保護法は、2004 年に公布され、2006 年に施行されました。同法の附則において、施行後5年を目途として改正を検討する旨が定められており、所管行政庁である消費者庁において検討が重ねられてきましたが、施行から14年後となる2020年、改正法案が成立しました。

 成立から2年以内に施行される予定で、「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第 51 号)に関するQ&A(改正法Q&A)(2021年8月最終更新) 」によると、2022年6月1日施行に向けて準備が進められています。

法改正の内容

 今回の改正のポイントは以下のとおりです。

内部通報に対応するために必要な体制の整備(窓口設置、調査、是正措置等)

 常時雇用する労働者の数が300人を超える事業者については、①公益通報を受け、公益通報に係る通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務に従事する者を定めること、②公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を取ることが義務付けられました(改正法11条1項、2項。なお、従業員数300人以下の事業者については努力義務とされています(同条3項))。

 事業者が取るべき措置の内容については、内閣総理大臣が指針を定めることとされており(同条4項)、今後公表されると思われる指針の内容に沿った体制の整備が必要になると考えられます。

内部通報の実効性確保のための行政措置(助言・指導、勧告、公表)

 内閣総理大臣は、前述の事業者の義務に関し、必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができるとする規定が追加されました(改正法15条)。また、当該事業者の義務に違反し、勧告に従わなかった場合、内閣総理大臣はその旨を公表できることとなりました(同法16条)。

内部調査等の担当者への通報者に関する情報の守秘義務

 公益通報対応業務に従事する者または当該業務に従事する者であった者は、当該業務で知り得た事項であって通報者を特定させるものを漏らしてはならないという守秘義務が規定されました(改正法12条)。この規定に違反した場合は、30万円以下の罰金という罰則規定も追加されています(同法21条)。

保護の対象に役員、退職者(退職後1年以内)を追加

 現行法では、保護されるのは労働者であり、退職者や役員等は保護の対象外となっています。退職者や役員等に対しては保護の効力は及ばない点は議論がされていたところ、今回の改正により、保護の対象に退職後1年以内の退職者や役員が追加されました(改正法2条1項3号、4号)。退職者が公益通報するという可能性は十分に考えられるため、事業者としては対応が必要と考えられます。

保護される通報・行政罰(過料)の対象を追加

 保護される通報の内容である通報対象事実は、特定の法律に違反する犯罪行為等に限定されていましたが、今回の改正により、特定の法律に違反する犯罪行為の事実だけでなく、行政罰である過料の理由とされている事実も対象となりました(改正法2条3項)。通報対象となる法律は、2021年7月19日現在で475本あり、会社法や金融商品取引法、景品表示法、個人情報保護法等で過料の理由とされている事実についても通報の対象となりましたので注意が必要です(出典:消費者庁「公益通報者保護法において通報の対象となる法律について(2021年10月21日最終閲覧)」)。

損害賠償の制限

 事業者は、公益通報によって損害を受けたことを理由として、通報者に対し損害賠償請求することができないとされました(改正法7条)。この規定により、事後的な損害賠償は難しくなったため、そもそも通報が起こらないように、法令遵守体制の整備等、事前の対応が重要であるといえます。

内部通報制度について

 公益通報者保護法を踏まえて、今日広く企業に導入されているのが内部通報制度です。内部通報制度は、企業の内部で起きている法令違反行為やコンプライアンス違反行為等に関する情報を受け付ける窓口を設置し、企業の自浄作用の向上やコンプライアンス経営を推進させ、従業員、取引先、株主・投資家等の社会的な信用を維持することで企業の価値向上や持続的発展を図るものです。

 一般的に、内部通報制度では、法律違反行為やコンプライアンス違反行為を満遍なく把握するために、通報の受付対象は広く設定されます。内部通報制度は、企業を揺るがすような問題をいち早く発見し、リスクに対応するためのものであり、企業にとってコンプライアンス遵守体制、リスク管理体制を支える重要な制度の一つであるといえます。

内部通報制度の必要性

法改正による影響

 従来、内部通報制度については、消費者庁が「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン(2016年12月9日公表)」を策定し、事業者に対し、当該ガイドラインを踏まえた内部通報制度の整備・改善を進めるよう働きかけを行っていました。

 今次改正で追加された事業者が取るべき措置の内容について、従事者の定め(改正法11条1項関係)や内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(改正法11条2項関係)に関しては、消費者庁「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号) 」に盛り込まれています。

 また、事業者が指針に沿った対応をとるに当たり参考となる考え方、想定される具体的取組事項等については、消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説(2021年10月公表) 」もご参照ください。

取締役の善管注意義務

 内部通報制度に関する事項は、取締役の善管注意義務に含まれると考えられます。会社法362条4項6号によれば、取締役会は企業の業務の適正を確保する体制の整備が求められ、その一つにリスク管理体制があります(会社法施行規則100条1項2号)。内部通報制度は、企業のリスクとなる問題を把握し、リスクを管理する体制の一部であるといえるため、内部通報制度を設置していない、または適切な制度設計や運営がされていないことが原因で企業に損害が生じれば、取締役が会社から損害賠償を求められたり、株主からの代表訴訟の提起により責任追及されたりすることも起こり得ます。

 実際の事例として、建設会社の偽装政治献金事件をめぐり、違法献金をやめさせる義務があったのにこれを怠り会社に損害を与えたとして、元代表取締役らを被告として株主が訴訟を提起した裁判例があります(東京地方裁判所平成26年9月25日判決)。この事例では、会社は、違法献金の有無を発見するため、実効性のある内部通報制度を整備する必要があり、具体的には、内部通報制度の周知徹底、外部の弁護士等による窓口の設置、匿名での通報受理等の措置を講ずべきであったとして、株主から元代表取締役らに対しコンプライアンス管理体制構築義務違反として責任追及がなされました。

 会社は一応の内部通報制度を設置していたため、コンプライアンス管理体制構築義務違反は認められませんでしたが、政治献金等につき法令違反に係る取締役の善管注意義務違反は認められています。同社の内部調査委員会の調査報告書では、内部通報制度の不備が指摘されており、制度自体は存在していたが、ほとんど利用されることはなく制度が無いのと同様であったとしたうえで、この制度が活用されていたら、不祥事のうちいくつかは未然に防止することができた可能性があったとされています。

 この事例からも、内部通報制度が整備され適切に運営されていれば、株主等から訴えられることもなく、また内部通報制度の自浄作用により不祥事を未然に防止できるものと考えられます。

まとめ

 公益通報者保護法の改正により、今後、コンプライアンス体制の強化、内部通報制度の整備等がますます重要になると想定されます。当事務所では、コンプライアンス体制や内部通報制度に関するご相談を承っております。懸念点等がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

【参考文献等】
中島茂ほか「ホットラインのすべて―立上げ・運用全マニュアル―」(商事法務・2017 年)

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