【弁護士が解説】施行前に確認しておきたいフリーランス保護新法の概要と実務対応
働き方の多様化や副業の解禁に伴うフリーランスの増加とその保護の必要性を背景に、2023年4月28日、フリーランスと企業間の取引関係を規律するための法律である「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(以下「フリーランス保護新法」といいます。)が成立しました。本記事執筆時点(2023年6月8日)では、フリーランス保護新法の施行日は未定ですが、遅くとも2024年秋頃までに施行される予定です。本記事では、その施行前に、フリーランス保護新法の概要、規制されるフリーランスとの取引及び当該取引において想定される実務対応について解説します。
目次
フリーランス保護新法の概要
フリーランス保護新法は、国が推進する働き方改革によって増加するフリーランスと企業間において、その力関係に起因する不適切な条件や不当な取引慣行に基づく取引が行われることを防止し、フリーランスの社会的な保護を促進することを目的とする法律です。
フリーランスと企業間の取引における力関係を規律する法律としては、独占禁止法やその補完法の下請代金支払遅延等防止法(下請法)が既に存在しますが、下請法では、その資本金要件により規律が及ばないフリーランスと企業間の取引があり、フリーランスの保護が行き届いていない部分がありました。
そこで、既存の法律で保護されることのなかったフリーランスを保護すべく、主に「(1)業務委託時の取引条件明示」・「(2)報酬支払の適正化」・「(3)継続的取引における禁止行為」・「(4)就業環境の整備」・「(5)解除の制限」について定めるフリーランス保護新法が成立しました。
企業がフリーランス保護新法に違反すると、公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣から、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令がなされ、命令違反及び検査拒否等に対しては、50万円以下の罰金が科される可能性があります(フリーランス保護新法18条~20条、22条、24条、25条)。フリーランス保護新法への違反は、企業の信頼に関わる重大な事態に発展しかねませんので、フリーランス保護新法について理解し、対応を検討することが重要です。
フリーランス保護新法で規制されるフリーランスと企業との取引
そもそも、フリーランス保護新法への対応を検討するにあたっては、その規制対象になるフリーランスと企業との取引について理解することが必要です。
フリーランス保護新法は、「業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合…」を規制場面として、フリーランスと企業との取引における企業側の行為を規制しています(フリーランス保護新法3条~5条)。そこで、ここに記載される各用語の定義を以下に整理し、フリーランス保護新法の規制対象となる取引について解説します。
①「特定業務委託事業者」: 特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、次のいずれかに該当するもの ・個人であって、従業員を使用するもの ・法人であって、2以上の役員があり、又は従業員を使用するもの ②「特定受託事業者」: 業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するもの ・個人であって、従業員を使用しないもの ・法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者)がなく、かつ、従業員を使用しないもの ③「業務委託」: 次に掲げるいずれかの行為 ・事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。 ・事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
以上から、フリーランス保護新法の規制場面である「【①業務委託事業者】は、【②特定受託事業者】に対し【③業務委託】をした場合…」は、概ね以下のように理解することができます。
【①企業(=複数役職員がいる法人又は団体)】は、【②フリーランス(=他に役職員がいない個人又は法人)】に対し【③一定の成果物の作成又はサービス提供の委託(=ほとんどの業務委託)】をした場合…
このように、いわゆる一般的な複数名メンバーが所属する企業が、個人法人を問わず単独で業務を行っている者(フリーランス)に対して、なんらかの業務を委託する場合には、ほとんどの場合にフリーランス保護新法による規制を受けると考えられます。
フリーランス保護新法に関する実務対応
上記のとおりフリーランス保護新法の規制対象は広く、クラウドソーシングサービスの利用者も増加している昨今においては、ほとんどの企業がフリーランス保護新法への対応が必要になることが想定されるので、早いうちから適切な実務対応のための体制を構築する必要があるといえます。
以下では、その体制構築の前提として、フリーランス保護新法の主な規制である「(1)業務委託時の取引条件明示」・「(2)報酬支払の適正化」・「(3)継続的取引における禁止行為」・「(4)就業環境の整備」・「(5)解除の制限」への対応策について順に解説します。
業務委託時の取引条件の明示(フリーランス保護新法3条)
企業は、フリーランスに対して業務を委託した場合、直ちに、以下の事項を書面又は電磁的方法(※)によって明示しなければなりません。
①給付の内容 ②報酬の額 ③支払期日 ④その他の事項(※)
※ いずれも詳細は公正取引員会規則で定められるものとされていますが、同規則は未制定のため、制定を待つ必要があります。もっとも、フリーランス保護新法は、下請法と同じ独占禁止法の補完法であると考えられるため、基本的には下請法における3条書面と同じような取り扱いになることが想定されます(下請法3条参照)。
報酬支払の適正化(フリーランス保護新法4条)
企業は、フリーランスに業務委託をする場合、原則として、フリーランスが成果物を納品した日又はサービスの提供をした日(以下「業務提供日」といいます。)から60日以内の日を報酬支払期日として設定する必要があります。
他方で、支払期日を定めない場合には業務提供日が支払期日となり、業務提供日から60日を超えた日以降に設定した場合には、業務提供日から60日を経過する日が支払期日とみなされます。
なお、企業に業務委託をした元委託者が存在し、企業がフリーランスに当該業務を再委託する場合には、上記支払期日について、「業務提供日から60日」とあるのは、「元委託者の企業に対する報酬支払期日から30日」と読み替えた規制が適用されます。 これらを整理すると以下のようにまとめることができます。
①原則: 「業務提供日から60日(元委託者からの報酬支払期日から30日※)」を支払期日とする。 ②支払期日を「定めない」場合: 「業務提供日(元委託者からの報酬支払期日※)」が支払期日とみなされる。 ③支払期日を「業務提供日から60日(元委託者からの報酬支払期日から30日※)」を超えた日以降に設定した場合: 「業務提供日から60日(元委託者からの報酬支払期日から30日※)」を経過する日が支払期日とみなされる。 ※()内は企業からフリーランスへの業務委託が再委託の場合
継続的取引における禁止行為(フリーランス保護新法5条)
企業は、フリーランスに業務委託をする場合、以下の各行為をしてはなりません。
なお、①~⑤の各行為が禁止されるのは、一定期間を超える継続的な業務委託をする場合に限られていますが、当該期間は今後政令で定められるとされています。
① フリーランスに帰責性がないのに給付の受領を拒絶すること ② フリーランスに帰責性がないのに報酬を減額すること ③ フリーランスに帰責性がないのに返品を行うこと ④ 通常の相場に比べて著しく低い報酬の額を不当に設定すること ⑤ 正当な理由がなく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること ⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること ⑦ フリーランスに帰責性がないのに給付内容を変更させ、またはやり直させること
就業環境等の整備(フリーランス保護新法12条~14条)
企業は、業務委託をするフリーランスの就業環境等を整備するという観点で、以下のことが求められています。これらについては、厚生労働大臣より指針が示され、具体的な対応事項が明らかになると思われます。
募集事項の適正表示
企業は、広告等によりフリーランスを募集する場合、虚偽や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。規制対象となる広告や、対象となる情報については、今後厚生労働省令で定められることとされていますが、職業安定法に同趣旨の規定があるため、職業安定法施行規則4条の3の内容に近い省令が定められることになると想定されます。
育児・介護等に関する配慮
企業は、フリーランスに一定期間の継続的な業務委託を行う場合には、妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をしなければなりません。当該期間は今後政令によって定められることとされており、また「必要な配慮」として求められる具体的な対応は明らかではありませんが、フリーランスと適時・適切にコミュニケーションを取りながら、委託業務を遂行させるということが必要になります。
ハラスメントの禁止
企業は、ハラスメント(いわゆるセクハラ・マタハラ・パラハラ)により、フリーランスの就業環境が害されないように体制を整備し、適切な対応をしなければなりません。また、フリーランスがハラスメントについて相談をしたこと等に起因して、契約解除等の不利益的な取り扱いをしてはなりません。企業は、フリーランスに対しても、従業員と同じようにハラスメントについての配慮をすることが必要になります。
解除の制限(フリーランス保護新法16条)
企業は、フリーランスに一定期間の継続的な業務委託を行う場合、当該業務委託に係る契約を解除(更新拒絶)するにあたって、30日前までの解除予告をしなければならず、また、フリーランスから解除の理由の開示を求められた場合には、遅滞なくこれを開示しなければなりません。業務委託関係であっても、一定の継続的な関係がある場合には、その生活保障という観点から、労働法でいう解雇規制のような強い規制とまではいかずとも、解除にかかる一定の規制が設けられたものと考えられます。
フリーランス保護新法に関する今後の対応
以上のとおり、フリーランス保護新法は、企業との力関係において劣位になりがちなフリーランスを保護するという観点で、企業に様々な義務を課しており、しかもその規制範囲は広範に及びます。したがって、企業は、フリーランス保護新法の施行日までに、フリーランスとの取引において同法を遵守し適切な実務対応を行うための体制を整えなければなりません。その前提となるフリーランス保護新法による規制の詳細な要件等は、これから制定されることになる規則やガイドライン等によって、より明確になることが想定されます。雛型の整備を含め内部の実務的な手続を大きく変更しなければならなくなることも考えられるので、最新の動向を追いかけつつ、可能な範囲で着実に体制整備を進めていく必要があるといえます。
最新の動向を踏まえた対応を
本記事では、遅くとも2024年秋頃までに施行される予定のフリーランス保護新法について、その概要や、規制されるフリーランスとの取引及び当該取引において想定される実務対応を解説しました。
法律事務所ZeLoでは、企業法務全般の法務パートナーとして、日常的な法律相談や契約審査だけでなく、法改正や最新動向を踏まえた対応、ビジネスの適法性審査や規制対応、コーポレート業務など、幅広く対応が可能です。ぜひお気軽にご相談下さい。
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