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【序章全文公開】書籍『ルールメイキングの戦略と実務』を出版しました

法律事務所ZeLoは、2021年3月1日に、書籍『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務)を出版いたします。 本書は、新規ビジネスモデルの設計からルールメイキングまでをサポートする「パブリック・アフェアーズ部門」のメンバーを中心として、商事法務様やルールメイキングに関わる企業様のサポートも得て、当事務所のメンバー全員で執筆を進めてまいりました。 今回は「ルールメイキングに関する入門的な内容をより多くの方にお届けしたい」という思いから、書籍『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務)の序章を無料公開いたします。 序章では、ビジネス戦略としてのルールメイキングのあり方や方法について、事例を交えながら解説しております。序章から書籍の内容の一端を知っていただけたら幸いです。

【序章全文公開】書籍『ルールメイキングの戦略と実務』を出版しました
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ルールメイキングの戦略と実務

ルールメイキングの戦略と実務

編著
官澤康平、南知果、徐東輝、松田大輝(法律事務所ZeLo・外国法共同事業)
発売日
2021年3月1日(書店)、3月3日(Amazon)
ページ数
280ページ
サイズ
A5判並製
定価
3,520円(税抜価格3,200円)
ISBN
978-4-7857-2842-7

第1節 ルールメイキングの発想―電動キックボードのシェアリングサービスを例に

近年、企業法務において、「ルールメイキング」という言葉を目にする機会が増えてきている。IoT やAI、ブロックチェーンなどの新しい技術によるイノベーションへの期待が高まる一方で、これらを必ずしも想定していない現行の法規制が技術を実装することの壁となる場面も多く、ルールをどのように整備していくのかが、国の政策としても企業の戦略としても大きな課題となっている。

もっとも、「企業もルールメイキングに積極的に関与すべきだ」、「法務部や弁護士はルールメイキングの重要性を認識すべきだ」と急に説明されても、ルールメイキングの具体的イメージがない中では理解しづらいであろう。ルールメイキングが具体的にどのような活動を指し、またそれがなぜ重要なのかという点については第1章に譲ることとし、まずは企業によるルールメイキングのイメージを掴んでもらいたい。

そのため序章では、法律実務家(法務部員や弁護士)が事業部や事業者から相談を受けた場合に、ルールメイキングの発想を取り入れることでどのような対応が可能になるのかということを、電動キックボードのシェアリングサービスの事例を題材に検討する。

1 事例―電動キックボードのシェアリングサービス

A社は、キックボードを製造販売する企業である。
A社の代表取締役Xは、近年、諸外国でキックボードにバッテリ―を付けて走行する電動キックボードが流行していることを知り、A社でも自社で製造しているキックボードの構造を大幅に変更しない態様で電動キックボードを製造し、そのシェアリングサービスを提供することで、誰もが気軽に電動キックボードで走行できるような社会を実現したいと考えている。
Xは、A社の顧問弁護士であるYに対して上記の考えを伝え、問題となる法規制の確認と、法規制が存在する場合にA社やユーザーはどのような点に留意する必要があるのかについて相談した。

2 初期的な対応

企業の法務部員や弁護士のような法律実務家は、事例のように、事業者が新規サービスを行う場合における法規制のリサーチや、リサーチ結果を踏まえた対応方法のアドバイスを求められることが頻繁にある。

事例のような相談を受けた場合、まずは文献やインターネットを利用したリサーチを行うことが想定される。関連する法令のあたりをつけて文献の調査を行い、あるいは、初期的なリサーチであれば、「電動キックボード/法規制」、「電動キックボード/法律」などの検索ワードでインターネット上での調査を行うというような方法である。

実際にリサーチを行ってみると、比較的短時間で、2002年11月に「いわゆる『電動キックボード』及び『電動スクーター』について」という警察庁交通局の見解が示されていることや、電動キックボードに関連する法規制として道路交通法、道路運送車両法、自動車損害賠償保障法などが存在することが確認できる。

この警察庁交通局の見解によれば、電動キックボードは定格出力0.60キロワット以下の電動式のモーターにより走行するものであり、道路交通法2条1項10号と道路運送車両法2条3項に規定される「原動機付自転車」に該当すると解されている。

そのため、電動キックボードを公道で運転するためには運転免許証が必須となり、ヘルメットを着用するなど、原動機付自転車としての運転方法に従う必要がある。また、電動キックボードを公道で利用するためには、前照灯、番号灯、方向指示器等の構造および装置について道路運送車両の保安基準に適合する必要がある。さらに、電動キックボードの所有者は、自賠責保険などの保険に加入する必要があるほか、地方税法に規定する軽自動車税を納付する義務があり、ナンバープレートを取り付ける必要もある。

以上の調査結果を踏まえ、Yとしては、電動キックボードに関連する法規制内容を整理し、A社が電動キックボードのシェアリングサービスを提供するにあたり、A社やユーザーが留意すべき点として、概ね以下の点をXに報告することになる。

・電動キックボードは道路交通法、道路運送車両法に規定される「原動機付自転車」に該当する。
・電動キックボードを運転するために運転免許証が必要であり、ヘルメットの着用など道路交通法の規定を遵守する必要がある。
・電動キックボードは道路運送車両法に基づく保安基準に適合する必要がある。
・電動キックボードの所有者は、自賠責保険に加入する必要があり、また、軽自動車税の納付が必要となる。
・電動キックボードにナンバープレートを取り付ける必要がある。

3 ルールメイキングの発想

このような報告内容は、事業者がビジネスを進めるかどうかを検討するにあたって有益な情報であり、法律実務家として相談を受けた場合の初期的対応として一般的なものである。

もっとも、報告内容を前提とすると、Xの希望を完全には実現できないという結論になる。すなわち、Xは、「自社で製造しているキックボードの構造を大幅に変更しない態様」での製造を行い、「誰もが気軽に電動キックボードで走行できる」ことを希望している。しかし、報告内容に基づくと、電動キックボードは道路運送車両法に基づく保安基準に適合するように、ミラーや方向指示器を備え付ける必要があるほか、ナンバープレートを取り付けなければならない。そのため、Xが従来製造販売していた通常のキックボードの構造を相当程度変更することが必要になると考えられる。また、電動キックボードを運転するためには運転免許証が必要であり、誰もが気軽に利用できるものとはいえない。

ここで、もう一歩進んでXの希望を叶えるために採り得る対応として、どのようなことが考えられるだろうか。

Xが希望するような電動キックボードのシェアリングサービスを提供するためには、道路交通法および道路運送車両法上の電動キックボードの取扱い自体を変えなければならない。そのため、Xの希望を叶えるためには、法規制の見直しを促すような対応を考える必要があるといえる。

このように、法規制の枠内でどのようにビジネスを展開できるかを考えるのみならず、法規制の見直しという発想を持つことがルールメイキングの第一歩である。

もっとも、法規制を変えることはそう簡単なことではない。法規制の緩和をゴールにおく場合、なぜ法規制を変えなければならないのか、ルールメイキングを行った後にある未来を想像し、そのルールメイキングの意義もあわせて考えることが重要となる。電動キックボードの事例であれば、誰もが気軽に電動キックボードで走行できる未来をイメージし、電動キックボードがなぜ社会において必要とされるのか、どのような社会課題を解決することができるのかといったことなどを考える必要があるだろう。また、法規制のどの部分をどのように緩和することを目指すかについても、よく検討する必要がある。

4 ルールメイキングの方法

法規制の緩和を目指したルールメイキングを行うこととした場合、次に検討すべきはその方法である。法規制の緩和のために法律を変更する必要がある場合、変更するための法律案が国会に提出され、審議・可決される必要があるが、日本において、国会に法律案を提出することができるのは、内閣か国会議員のいずれかのみである。そのため、電動キックボードに関する法規制を緩和したい事業者としては、現状の法規制には問題があり、規制緩和に取り組むべき政策課題であると政治家や行政に認識してもらう必要がある。そのために事業者が取り組むことのできる方法としては、例えば以下のようなことが考えられる。

(1) 他の事業者との連携

電動キックボードのシェアリングサービスという事業において、他の事業者は競合ということになるが、既存の規制を見直して欲しいという立場からすると、同志のような存在である。そこで、例えば、他の事業者と共同して電動キックボードに関する事業者団体を設立し、あるいは、既に存在する電動キックボードに関する事業者団体に加入するなどして、個社ではなく団体として、電動キックボードの安全性・有用性を訴えていくという方法を採ることが考えられる。人々が電動キックボードの安全性・有用性を認知し、法規制の問題に社会の注目を集めることができれば、規制緩和に対する機運が高まり、規制緩和のきっかけとなり得る。

また、他社と共同で、電動キックボードの利用に関する安全性を担保するための自主規制ルールを策定するといったことも考えられる。政治家や官僚が規制緩和を検討するにあたって、電動キックボードの危険な利用が横行する可能性があるような場合には、緩和に慎重となってしまうことが予想される。適切な自主規制ルールを策定することによって、利用者の安全および電動キックボード事業の信頼性を確保し、規制緩和へとつなげることができるのである。

(2) 規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)の活用

また、一事業者として規制緩和を試みる方法の一例としては、規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)を利用する方法が考えられる。

規制のサンドボックス制度の詳細は第3章第3節に記載するが、実証実験を実施して、保護法益等の観点から問題が生じないかを確認し、実証で得られた結果を活用して規制の見直しを目指すという制度である。

電動キックボードの場合、現行法の取扱いでは原動機付自転車に該当するものと解されているが、そもそも、道路交通法や道路運送車両法において原動機付自転車の規制が設けられた当時、電動キックボードのような移動手段は存在しなかったと思われる。そのため、電動キックボードを想定した規制は用意されておらず、電動キックボードに近い原動機付自転車に該当するという整理を後からすることで規制を及ぼすこととされたと考えられる。

電動キックボードについても安全性を確保するために一定の措置が必要であることに疑いはないが、最高速度は一般的な原動機付自転車よりも遅く、サイズもそこまで大きくはないため、原動機付自転車よりも軽微な規制でも安全性を確保する余地はあるといえる。そこで、私道などの道路交通法や道路運送車両法の規制の適用を受けない場所において実証実験を行い、当該実証結果に基づき電動キックボードに適した内容の規制へと変更を促すことが考えられる。

5 ルールメイキングの意義

ルールメイキングの具体的な方法論や実例は、本書の別の箇所で詳細に記載するが、上記で示した電動キックボードの事例はルールメイキングが活用できる一場面である。

実際に、電動キックボードについては、規制のサンドボックス制度で認定を受けた実例がある(2019年10月17日付経済産業省ホームページ「規制のサンドボックス制度に係る実証計画を認定しました―キャンピングカーの『空間』の活用に関する実証、電動キックボードのシェアリング実証、ハイブリッドバイクの公道走行実証―」)。また、電動キックボードのシェアリング事業を展開する事業者等による事業者団体が実際に設立され、業界での自主的取組みも行われている(2019年5月28日付株式会社LUUP ホームページ「国内電動キックボード事業者を中心に、マイクロモビリティの社会実装を促進する『マイクロモビリティ推進協議会』を設立」)。これらの方法は、いずれも直ちに規制を変えることができるわけではないものの、電動キックボードの社会実装を促進させることを試みる有意義な活動である(※)。

(※)なお、規制のサンドボックス制度による実証の終了を受け、2020年9月30日には新事業特例制度に基づく特例措置の整備が行われた。これは、特定の区域において、「立ち乗り電動スクーター」の普通自転車通行帯の通行を認めることなどを内容とするものである。

本書で説明するようなルールメイキングの方法は、実現したい事業目的の達成という観点からするとやや迂遠な方法であるという印象を抱かれるかもしれない。しかし、ルールメイキングの発想やその方法論を認識し、事業者や法律実務家が、適切な形で規制を変えたり、過度な規制が入ることを防いだりすることに積極的に関与することによって、新たなビジネスの創出を促進できる可能性がある。多様な立場の人々の関与により、適切な規制を実現し、健全に産業が育っていくための基盤を創造することができるという点に、ルールメイキングの大きな意義があると考えられる。

第2節 本書の目的と構成

本書の目的は、ビジネスと法務の視点からルールメイキングの実務・方法を整理し、その意義や課題を明らかにしていくことにある。筆者らは、本書を企業法務としてのルールメイキングの入門書とすることを意図しているものの、議論の素材を提供すべく、理論的・発展的な内容や問題提起も本書に適宜織り交ぜている。

本書の構成は、以下に掲げるとおりである。第1章から第3章までは総論的な位置づけであり、第4 章では各論として幅広く実例を紹介している。これらで扱いきれなかったテーマについては第5章と第6章で取り上げる形とし、終章において本書全体を総括する。

本書は上記のような構成で記載しているが、必ずしも章立ての順番で読み進める必要はない。例えば、ルールメイキングの実務を具体的に把握するという観点からは、第4章で取り上げる実例のいくつかをまず読むということも考えられるだろう。実例のうち前半の3事例を読む際には、第3章第3節の制度解説も適宜参照いただきたい。他方で、ビジネスとルールメイキングに関する総論的議論に関心がある方は、最初に第1章と終章を読んでいただき、関心に合わせて第3章や第6章に進んでいただくのがよいかもしれない。読者の皆様には、章立てにこだわらず、興味関心のある箇所から読み進めていただきたい。

書籍『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務)のご紹介

ビジネス戦略としてのルールメイキングのあり方や方法について、豊富な事例を交えながら解説します。基本的な事項の整理、方法論や活用できる制度の紹介、ソフトローに関する理論的検討などを行っています。事例紹介では、グレーゾーン解消制度等の活用事例、ネット選挙や収納代行に関するロビイングの事例など、幅広い実例を取り上げています。

ルールメイキングの戦略と実務

編著
官澤康平、南知果、徐東輝、松田大輝(法律事務所ZeLo・外国法共同事業)
発売日
2021年3月1日(書店)、3月3日(Amazon)
ページ数
280ページ
サイズ
A5判並製
定価
3,520円(税抜価格3,200円)
ISBN
978-4-7857-2842-7

【2021年3月23日(火)18時〜】書籍刊行記念イベントを開催 ※本イベントは終了いたしました

法律事務所ZeLoでは、3月23日(火)18:00~19:00に、書籍刊行記念WEBイベント「事業を成長させるルールメイキングの始め方」を開催いたします。

新規事業に挑むスタートアップ経営者や、事業開発・PRを担当する方へ向けて、企業主導のルールメイキング戦略を考えるにはどうすれば良いか、具体的な事例も踏まえて紹介いたします。ぜひお申込みフォームから登録のうえご参加ください。※本イベントは終了いたしました

【こんな方におすすめです】
・スタートアップ経営者、ビジネス開発やPR担当の方
・新規ビジネスの立ち上げに取り組むビジネスパーソン
・スタートアップを支援する弁護士・専門家・ベンチャーキャピタリスト

【登壇者】
・官澤 康平 弁護士:法律事務所ZeLo・外国法共同事業(第一東京弁護士会所属)
・南 知果 弁護士:法律事務所ZeLo・外国法共同事業(第二東京弁護士会所属)
・松田 大輝 弁護士:法律事務所ZeLo・外国法共同事業(第二東京弁護士会所属)

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