広告表示規制の動向と企業に求められる対応策―違反リスクと実務対応(前編)
Attorney admitted in Japan
Akihiro Saotome
Eri Kaneko
広告表示規制は、インターネット広告やSNSの普及、消費者被害の状況などを踏まえて、景品表示法をはじめとする関係法令の改正が定期的に行われる分野です。特に近年は、どのような広告表示内容が行政処分や指導の対象となりやすいかといった、摘発リスクのトレンドを把握することが、企業の広告・マーケティング実務において重要となっています。前編では、No.1表示とステルスマーケティングについて解説しました。後編となる本記事では、特定商取引上の広告規制と確約手続について取り上げます。
Akihiro Saotome is a Japanese qualified lawyer specialized in general corporate governance, as well as financial regulation and data protection. He graduated from the University of Hitotsubashi School of Law in 2014 and has been admitted to the Tokyo Bar Association in 2015. He started his career as a lawyer by joining Nippon Life Insurance Company in 2016. After graduating the University of Michigan Law School in 2021, he joined ZeLo in 2022.
目次
特定商取引法第12条は、通信販売における商品の性能や品質、取引条件などについて「著しく事実に相違する表示」をすることや、「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」(誇大広告)を禁止しています。
近年、消費者庁はECサイトをはじめとするオンライン取引への監視を著しく強化しており、2023年9月には、消費者庁取引対策課内に、オンライン上の不正行為を専門に監視する体制(いわゆる「デジタル班」)を設置し、執行を強化しています。
その結果、特定商取引法第12条を直接の根拠とした業務停止命令に至る処分が急増しています。
景品表示法との主な共通点・相違点は以下のとおりです(第1回 景品表示法検討会(2022年3月16日)の資料4「景品表示法を取り巻く現状について」56頁を基に筆者にて作成)。
| 項目 | 景品表示法(第5条) | 特定商取引法(第12条) |
|---|---|---|
| 規制内容 | ①優良誤認表示(第1号) ②有利誤認表示(第2号) ③指定告示(第3号) | ①著しく事実に相違する表示の禁止 ②実際より著しく優良・有利と誤認させる表示の禁止 |
| 不実証広告規制 | あり(第7条第2項) 優良誤認の疑いがある場合、表示の裏付けとなる合理的根拠の提出を求められる。提出できない場合、優良誤認表示とみなされる。 | あり(第12条の2) 誇大広告の疑いがある場合、表示の裏付けとなる合理的根拠の提出を求められる。提出できない場合、誇大広告とみなされる。 |
| 執行 | ①措置命令(表示の差止め、周知徹底、再発防止策) ②課徴金納付命令(不当に得た利益の剥奪) | ①指示(業務改善命令) ②業務停止命令(最長2年間) ③業務禁止命令(違反行為を行った役員等個人への命令) ④罰則(懲役・罰金) |
令和4年6月1日の改正特定商取引法の施行により、オンライン申込みの「最終確認画面」に関するルール(第12条の6)が新設され、それに伴って「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」が公表されました。
この改正により、契約の主要な内容をわかりやすく表示する義務が課されるとともに、消費者を誤認させるような表示が禁止され、いわゆるダークパターンと呼ばれるものの典型例が規制対象となりました。さらに、事業者がこれらの最終確認画面のルールに違反し、その結果、消費者が内容を誤認して申込みを行った場合、消費者はその申込みの意思表示を取り消すことができることとなりました(第15条の4)。
第12条の6第2項では、最終確認画面において、消費者に内容を誤認させるような表示が禁止されています。ガイドライン等では、以下のような人を誤認させる表示が例示されています。
近年の特定商取引法に関する行政処分の多くは、単一の違反行為ではなく、複数の条文にまたがる複合的な違反がまとめて指摘される傾向にあります。
特に多いのが、①科学的根拠のない劇的な効果を謳う「誇大広告」(第12条)と、②「最終確認画面等における表示義務違反」(第12条の6)を組み合わせて処分されるケースです。
| 時期 | 事業者 | 行政処分 | 処分内容 |
|---|---|---|---|
| 2024.12.23 | 化粧品販売会社 ※代表者個人も業務停止 | 指示 業務停止命令 (6か月) | 誇大広告 (塗布するのみで即座にしわ・しみを消すことができるかのような表示、「一回限り 解約不要 1,980円」としつつ広告から遷移するページからの申込は定期購入) 最終確認欄での非表示 (分量、販売価格、代金の支払の時期及び方法、引渡時期並びに本件定期購入契約の解除の条件及び方法) |
| 2025.3.14 | ダイエット食品販売会社 ※代表者個人も業務停止 | 指示 業務停止命令 (6か月) | 誇大広告 (誰でも容易に10キロの痩身効果、食事量にかかわらず体重増加しない) 最終確認欄での非表示 (初回引渡時期) |
| 2025.6.17 | 化粧品販売会社 ※代表者個人も業務停止 | 指示 業務停止命令 (6か月) | 誇大広告 (3秒塗布するのみでしわがのびる) 申込画面の誤認表示 (初回のみで解約手続を行うことが可能な定期購入契約であることが強調。しかし、クーポン適用の場合4回分購入必須。) |
業務停止命令は、事業の継続性に影響を生じかねないものであり、事業者によっては、景品表示法の課徴金納付命令よりも影響が大きいと考えられます。執行が強化されている現状においては、通信販売業者は、特定商取引法の遵守(特に法12条及び法12条の6の遵守)について最大限の注意を払う必要があります。
また、特商法においては、次に述べる確約手続の制度はないため、違反を未然に防止する体制整備がより重要となってきます。
景品表示法に違反するおそれのある不当な表示や、過大な景品類の提供が疑われる場合には、消費者庁が調査に乗り出します。調査では、関連資料の収集や事業者への事情聴取などが行われ、事実関係が詳細に確認されます。
調査の結果、実際に違反行為が認められた場合、消費者庁は当該事業者に対し「措置命令」という行政処分を発出します。この措置命令において、事業者は不当表示によって一般消費者に生じた誤認を解消すること、再発防止策を講じること、そして今後同様の違反行為を行わないことなどを命じられます。
一方で、違反の事実までは認められないものの違反につながる恐れのある行為が判明した場合には、消費者庁から事業者に対して行政指導が行われ、是正措置や注意喚起がなされます。
事業者が不当表示を行った場合(景品表示法第5条第3号に該当する表示を除きます)、消費者庁は原則として、当該事業者に対して課徴金の納付を命じることになります。
これは違反行為によって不当に得た利益の一部を国庫に納めさせる行政上の制裁であり、正式には「課徴金納付命令」と呼ばれる措置です。課徴金納付命令は、不当な表示による消費者への悪影響を抑止し、事業者に経済的なペナルティを科すことで再発防止を図る効果があります。
2024年10月以降、景品表示法第4条又は第5条に違反する疑いのある行為については、事業者自らが問題解決に取り組むための制度が導入されています。これが「確約手続」と呼ばれる制度で、調査対象となった事業者が自社の違反が疑われる行為を認めたうえで、消費者への影響を是正し再発防止策を実行する計画(以下「確約計画」といいます。)を自主的に提出するものです。
消費者庁がその計画を適切と認めて受け入れれば、措置命令等の正式な行政処分に至ることなく問題が解決される仕組みになっています。この確約手続の導入により、事業者は自主的かつ迅速に違反状態を改善するインセンティブを持つことになり、消費者被害の拡大防止と行政手続の効率化の両面で効果が期待されています。
確約手続の制度導入以降、2025年9月30日時点で確約計画が認定されている事例は以下のとおりです。
| 時期 | 事業者 | 違反被疑行為 | 確約計画 |
|---|---|---|---|
| 2025.2.26 | パーソナルトレーニングジム運営会社 | ウェブサイトにおいて、ある期限を表示し、その期限までに無料体験をして体験日当日に入会した場合に限り、通常50,000円の入会金が値引きされるかのように表示していたが、実際には、その期限後であっても、無料体験当日に入会した場合は入会金が値引きされるものである疑いがあった | ①将来不作為(今後同様の行為をしないこと)の決定 ②一般消費者への周知徹底 ③再発防止策の策定・実施 ④料金の一部返金 ⑤上記に関する履行状況の報告 |
| 2025.8.28 | ヨガスタジオ運営会社 | ・ホットペッパービューティにおいて、星5の口コミを投稿することを条件に、当該利用者が次回店舗を利用する際に支払う施術料金から500円を割り引くことを伝えることにより、当該利用者が星5の口コミを投稿した ・対象会社従業員が星5の口コミを投稿した ・クーポンにおいて、比較対象価格を表示していたが、比較対照価格は、最近相当期間にわたって提供された実績のないものであった | ①将来不作為の決定 ②一般消費者への周知徹底 ③再発防止策の策定・実施 ④料金の一部返金 ⑤上記に関する履行状況の報告 |
| 2025.9.19 | 冷凍食品販売会社 | ・冷凍宅配食(以下「本件商品」という。)一般消費者に販売するに当たり、客観的な調査に基づかないNo.1表示をしていた ・第三者に対し、対価の提供を条件に、本件商品に関してSNSへの投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示を、自社ウェブサイトの「レンチン5分のご褒美ご飯 SNSでも話題に!」との表示箇所等において抜粋するなどして表示していた | ①将来不作為の決定 ②一般消費者への周知徹底 ③再発防止策の策定・実施 ④料金の一部返金 ⑤上記に関する履行状況の報告 |
| 2025.9.19 | 冷凍食品販売会社(2社) | 冷凍宅配食(以下「本件商品」という。)を共同して一般消費者に販売するに当たり、第三者に対し、本件商品の無償提供を条件に、本件商品に関してSNSへの投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示を、本件商品の販売サイトの「使ってみた方の感想 Instagramでの投稿レビュー」との表示箇所等において抜粋するなどして表示していた | ①将来不作為の決定 ②一般消費者への周知徹底 ③再発防止策の策定・実施 ④上記に関する履行状況の報告 |
| 2025.9.26 | インターネット接続サービス提供会社 | 表示されている期間内にインターネット接続サービスを申し込んだ場合に限り、ウェブサイトに表示されているキャンペーンの各種特典の適用を受けることができるかのように表示していたが、実際には、表示していた期間後に申し込んだ場合であっても、同種または類似のキャンペーンの各種特典の適用を受けることができるものであった | ①将来不作為の決定 ②一般消費者への周知徹底 ③再発防止策の策定・実施 ④料金の一部返金 ⑤上記に関する履行状況の報告 |
確約手続を利用する場合、消費者庁による調査開始後の一般的な手続の流れは、以下のとおりです。
- (消費者庁⇒事業者)調査開始
消費者庁から事業者に対して連絡があり、消費者庁が指定した報告書のフォーマットに沿って違反被疑行為や事業者の会社概要等について報告を行うよう求められます。- (事業者⇒消費者庁)確約手続の相談・協議
事業者は、1の調査開始後、いつでも、調査を受けている行為について、確約手続の対象となるかどうかを確認したり、確約手続に付すことを希望する旨を申し出たりするなど、確約手続に関して消費者庁に相談することができます。- (消費者庁⇒事業者)確約手続通知
消費者庁は、違反被疑行為がなされるに至った経緯、違反被疑行為の規模及び態様、一般消費者に与える影響の程度並びに確約計画において見込まれる内容その他当該事案における一切の事情を考慮し、確約手続により問題を解決することが適切と判断した場合、違反被疑行為について確約手続に付すことが適当である旨の通知を行います。- (事業者)確約計画の作成・申請
事業者は、上記通知を受けて、確約手続を利用することを希望するときは、違反被疑行為や違反被疑行為が及ぼしている消費者等への影響に対する対応策や再発防止策等(以下「確約措置」といいます。)を盛り込んだ確約計画を作成し、消費者庁宛に申請します。- (消費者庁)確約計画の認定・公表
消費者庁は、確約措置が、違反被疑行為等を是正するために十分であり、確実に実施されると見込まれるものであるときは、確約計画を認定し、公表します。- (事業者⇒消費者庁)履行状況の報告
事業者は、認定を受けた確約計画の履行状況について、消費者庁に報告を行います。
以下、実務上のポイントについて解説します。
前述のとおり、確約手続は、景品表示法第4条の規定による制限・禁止または同法第5条の規定に違反する疑いのある行為について、事業者の自主的な取り組みにより解決するために導入された制度であり、必ず確約手続を利用しなければならない(確約認定申請を行わなければいけない)わけではありません。
確約手続を利用しなかった場合、消費者庁による事実認定や事案の重大性に応じて、行政指導に留まることもあれば、措置命令等が出される可能性もあります。
そのため、事業者としては、調査対象となっている表示に違法性があるのか、どの程度違法性があるか、慎重に検討した上で、対応を決定する必要があります。
確約手続は、迅速性の観点も踏まえて導入されている制度です。
消費者庁の調査の動向を見定め、措置命令等がなされる間際になってから確約手続の相談・協議を行うことは認められない可能性が高いといえます。
したがって、事業者としては、調査が開始された後、速やかに確約手続を利用するか、意思決定をする必要があります。
確約計画に記載する是正措置または影響是正措置(以下「確約措置」といいます。)の内容は、被通知事業者が個々の事案に応じて個別具体的に検討することとなります。
令和6年4月に公表された「確約手続に関する運用基準」によれば、典型的な確約措置として、以下の項目が挙げられています。なお、上記の確約計画が認定された事案についても、この項目に沿って確約措置を検討していることが窺われます。
(ア)違反被疑行為を取りやめること
(イ)一般消費者への周知徹底
(ウ)違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置
(エ)履行状況の報告
(オ)一般消費者への被害回復
(カ)(アフィリエイターなど違反被疑行為の原因となった取引先との)契約変更
(キ)(有利誤認表示に合わせた)取引条件の変更
いずれの措置を検討するにあたっても、消費者庁に対して、当該措置内容の合理性(当該措置内容以外の措置を取らないことの合理性)を説明できるようにしておく必要があります。
特に実務上重要と考えられるのは、(オ)一般消費者への被害回復です。
上記運用基準上、「措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとする」とされていることから、返金措置を行わないとする場合は、説得的な理由付けが必要になると考えられます。
また、返金額や返金方法についても検討のポイントとなります。前者は、確約手続を利用するかといった点にも関わってきます。
例えば、仮に課徴金納付命令が出された場合の金銭的支出が返金総額よりもはるかに少ないと見込まれる場合は、確約手続を利用しないという選択肢も取り得るため、当該支出を算定したうえで合理的な返金額を決定していくことになります。後者は、例えば、消費者の連絡先が不明であった場合、どのような方法で返金を行うかが論点となります。
なお、返金は金銭による方法にとどまらず、第三者型前払式支払手段(いわゆる電子マネー等)も許容されます。返金対象者が多数に上る場合は、振込手数料を考慮し、電子マネー等で返金を実施することも検討に値します。
確約計画が認定されるか否かは、最終的には消費者庁の判断によるため、まずは何よりも法令違反または法令違反と疑われるような広告表示を行わないことが重要になってきます。
商材によっては、上記で取り上げた景品表示法や特定商取引法のみならず、薬機法や金融商品取引法、その他各種ガイドライン等様々な規制がかかってきますので、自社商材の広告表示に適用される法規制を漏れなく把握し、事前に確認しておく必要があります。
また、第三者に広告宣伝を委託する場合は、その行為が「事業者の表示」と認められることを認識し、当該第三者を適切に管理していく必要があります。
なお、2025年7月に公表された「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 報告書」によれば、飛躍的な技術革新がもたらす消費社会の複雑多様化・取引の個別化等を踏まえ、消費者法制の在り方の見直しが提言されています。
特に、ダークパターンや、AIプロファイリングに基づくレコメンデーション、ターゲティング広告等の規制が検討されていることから、事業者においては、個別の広告施策や広告文言についての適法性の確認に加え、広告手法等に関する法改正の動向も注視していくことが重要です。
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