【令和6年10月施行】登記における代表取締役等住所非表示対応の概要と企業がおさえておくべき留意事項
Judicial Scrivener
Yusuke Yamada
2024年4月1日より、不動産所有権に関する相続登記の申請義務化が始まります。すでにテレビや書籍、インターネット等多くの媒体で取り上げられているため、目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。この不動産登記法の改正により、全国各地に散在する相続未了の土地や建物、空き家対策に、国が本腰を入れて取り組み始めたとも言えます。その現れとして、正当な理由なく相続登記の申請義務に違反した場合には10万円以下の過料を科す、というある種の強制力を伴った構成となっています。本記事では、今回の改正の概要と対応事項について解説します。
目次
はじめに、不動産登記とはどのようなものかご説明します。
法務局で発行される不動産の登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)には、権利に関する登記事項として「甲区」欄と「乙区」欄が設けられており、各権利の大まかな内容が記載されています。
「甲区」には所有権に関する情報が、「乙区」には抵当権や賃借権等の、所有権以外の権利に関する情報がそれぞれ権利変動に応じて登記され、今回とりあげる相続登記申請義務化の対象は、「甲区」の所有権を対象にすることとされています。
すなわち、登記名義人として「甲区」に登記されている所有者が死亡し、相続が発生した場合、その相続人への名義変更(所有権移転登記)を行う必要がある、というのが古くから存在する相続登記の運用であり、その促進を図ったものが今回の改正です。
ではなぜ、そもそも相続登記を行う必要があるのでしょうか。
不動産登記という手続きにも不動産登記法という根拠法規が存在し、そこには、登記名義人をめぐる法律行為や相続等が発生した場合、その事象及び時系列に沿って忠実に登記に反映しなければならない、という要請がはたらいています。これを、「登記の連続性」と呼びます。
また、例えば相続に伴う遺産分割によって、法定相続分を超える不動産の所有権を取得した際、登記名義を取得しておかなかったがために、その後同じ不動産が第三者に売買され所有権の登記を経由されてしまうと、遺産分割によって取得した自らの権利を対抗できなくなってしまいます。
そのような場合、裁判を起こしたとしても、自ら登記名義を得ていない以上は権利主張もできないため、不利な立場になってしまう、といったケースも起こり得ます。これを、「登記の対抗力」と言います。
以上のような「登記の連続性」、「登記の対抗力」といった性質を反映させるため、相続があった際はすみやかに登記手続を行っておく必要があるのです。
当事務所では、スタートアップ企業のクライアントが比較的多いため、ご依頼いただく登記の種類としても、主にファイナンスにともなう手続き等、そのほとんどが法人に関するものとなります。
法人に関する登記の場合、基本的には効力発生日から2週間以内に登記しなければならないという会社法第915条第1項の要請(原則として、2週間を経過してしまうと数万円の過料(罰金)が科される)がはたらきます。
一方で、不動産登記にはこのような申請期限を遵守するための規定がほぼなく、不動産所有者に相続が発生した場合などには、たとえば遺産分割協議が滞ったまま放置されていたり、あるいは手続そのものが煩雑なため敬遠され、被相続人の登記名義のままの状態であったり、といった不動産が全国各地に存在するようになってしまいました。
売却等を予定していなければ、相続登記をしないことで受けるデメリットも「登記の対抗力」等を除けばそう多くはなく、また、比較的資産価値の低い山林や雑種地のような土地の相続登記については、その土地の規模・面積によっては諸々の費用や手間をかけるメリットそのものが見出しにくいため、相続登記が放置されてしまう傾向にあります。
現在の所有者がわからない、あるいは所在不明の土地は年々増加しています。2016年時点で所有者不明土地は410万haと、九州の面積(367万ha)を上回っており、2040年頃には720万haにまで広がると予想されています。
このままでは不動産取引にも悪影響を及ぼし、ひいては日本経済が停滞してしまうおそれもあると言えるでしょう。
そのような問題を解決すべく、国が打ち出した施策として誕生したのが、相続登記の申請義務化なのです。
次に、相続登記申請義務化にかかる法改正(令和3年改正不動産登記法)の具体的な中身を見ていきましょう。
所有権の登記名義人に相続が発生した場合、その相続により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知ったときから3年以内に、相続による所有権移転の登記を申請しなければならないことが、基本的な義務となりました(不動産登記法第76条の2第1項)。
単に自己が相続人となることだけでなく、具体的に不動産を取得したことを知ったときに初めて義務が生じるところが一つのポイントです。
相続によって不動産の所有権を取得するパターンとして、相続人全員が法で定められた持分割合により不動産を取得する場合のほか、被相続人が遺した遺言によって特定の相続人が取得する場合、あるいは、相続人間で行われた遺産分割によって取得するようなケースもあります。
これらのいずれの場合でも、不動産の所有権を取得した相続人は、上記の期間内に相続登記を申請する必要があると言えますが、他方で、たとえば遺言によって不動産の所有権を取得した相続人以外の相続人や、遺産分割の結果、不動産の所有権を取得しないこととなった他の相続人に関しては、相続開始時に遡って承継しなかったこととなるため(民法第909条)、相続登記の申請義務を免れることとなります。
また、遺産分割そのものは、法定相続分による相続登記がされた後でも行うことができるのですが、遺産分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した相続人は、その遺産分割の日から3年以内に所有権移転の登記を申請しなければならない、という追加的な申請義務も、今回の改正により加わりました(不動産登記法第76条の2第2項)。
このほかに、相続登記申請義務化に関連する法令として、相続人申告登記という制度が新たに創設されています。
これは、3年以内に相続登記を申請しなければならないという相続人への義務負担を考慮し、その負担軽減を目的としてつくられたものです。
すなわち、相続登記の申請義務を負う方が、3年以内に、所有権の登記名義人に相続が開始したこと、自らがその相続人であることを登記官に申し出さえすれば、相続登記よりもより少ない提出書類によって、相続登記の申請義務を履行したものとみなされることとなります。
この相続人申告登記の申出は、相続人が複数の場合でも、各々が単独で行うことができますが、相続登記の申請義務は個々の相続人ごとに判断されるため、共同相続人のうち1名が相続人申告登記を行うことのみでは、相続人全員が申請義務を履行したことにはなりません。
なお、他の共同相続人の分も含めて代理の申出をすることは可能とされています。
また、相続人申告登記は、あくまでも相続登記申請義務の簡易な履行を認めたものに過ぎず、相続登記そのものではないことにも注意が必要です。
そのため、相続によって不動産を取得した方が第三者にこれを譲渡するような場合には、改めて相続による所有権移転登記を行った上で、第三者への所有権移転登記をする必要があります。
また、相続人申告登記の申出をした方が、その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に、相続による所有権の移転登記を行わなければなりません(不動産登記法第76条の3第4項)。
相続登記の申請義務のある方が、正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料に処せられることとなります(不動産登記法第164条第1項)。
では、「正当な理由」とはどのような場合を指すのでしょう。この点について、法務省では次のように類型化し、明示しています。
(1)相続登記の義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
(2)相続登記の義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
(3)相続登記の義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
(4)相続登記の義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
(5)相続登記の義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
なお、(1)から(5)に該当しない場合であっても、個別の事案における具体的な事情に応じ、登記をしないことについて何らかの理由があり、その理由に正当性が認められる場合には、正当な理由があると認められ、過料は科されないものとされています。
また、相続登記の申請義務違反があった場合でも、即時に過料が科されるものではなく、法務局等からの催告に応じて相続登記を行えば過料は免れますし、催告に応じず正当な理由もないまま相続登記を行わない場合であっても、過料事件の通知を受けた裁判所の方で最終的な判断をしたのちに、過料が科される仕組みとなっています。
以上のような新たな制度を実際に運用していく上で、いくつかのパターン別に対応方法を検討してみたいと思います。
遺言によって不動産の所有権を取得した場合も、その相続人は、3年以内に相続又は遺贈による所有権移転の登記を申請しなければなりません。すぐに登記申請できない事情があるような場合には、相続人申告登記の申出によって申請義務を履行することができます。
遺言によって不動産の所有権を取得した相続人以外の他の共同相続人については、相続開始当初から当該不動産の所有権を取得しなかったことになるため、相続登記の申請義務を負うことはありません。
この場合は、3年以内に相続登記を申請しなければなりませんが、もちろん、相続人申告登記の申出をすることでも構いません。
なお、他の共同相続人の相続放棄によって単独で相続することとなった場合には、相続放棄を知った日が所有権の取得を知った日にあたるため、その日から3年以内に相続登記の申請又は相続人申告登記の申出を行えば足りることとなります。
このようなケースでは、3年以内に遺産分割がまとまるか否かで対応方法が異なります。
3年以内に、遺産分割の内容にしたがって相続登記を申請することとなります。
遺産分割協議書の準備に時間を要する等、すぐにその登記実現がかなわない事情があるような場合には、法定相続分での相続登記をしてしまうことで義務を免れることもできますし、あるいは相続人申告登記の申出をすることも考えられます。いずれにせよ、遺産分割の時から3年以内に、遺産分割の内容にしたがった登記をしなければならないことには注意を要します。
遺産分割の結果、不動産の所有権を取得しないこととなった他の相続人には、申請義務は課されません。
3年以内に、共同相続人が各自で相続人申告登記の申出を行うか、あるいは法定相続分での相続登記を行っておく必要があります。
そして、その後の遺産分割によって不動産の所有権を取得した方が、遺産分割から3年以内に相続登記を申請することとなります。
相続登記の申請義務化は、2024年4月1日が施行日となっています。施行日以降の相続について適用されるのはもちろん、施行日よりも前に発生した相続についても、自己のために相続開始があったことを知り、なおかつ所有権を取得したことを知った日、または施行日のいずれか遅い日から3年以内に登記申請をしなければならないという経過措置が設けられています(改正附則第5条第6項)。
少子高齢化が深刻化する日本において、相続にかかわる問題、特に所有者不明土地や空き家対策といったテーマに則った形で行われた今回の法改正に伴い、国民に課される義務に寄り添う司法書士として、果たしていく責任もより厚みを増していくものと考えております。
本記事でご紹介した相続登記の申請義務化に関わる対応をはじめ、相続に関するお悩みやご不明点等がございましたら、法律事務所ZeLoまでいつでもお気軽にお問い合わせください。