【2024年3月29日公表】4月開始!「日本型ライドシェア」の概要と留意点について弁護士が解説
Attorney admitted in Japan
Keita Mashita
自動運転は、交通事故の大幅な低減や地方における移動手段の確保、生産性の向上、ドライバー不足の解消等に資することが期待されており、各国がその開発・導入にしのぎを削っています。米カリフォルニア州サンフランシスコ市では、2023年8月10日からドライバーのいない「ロボタクシー」の24時間営業が認められる等、その進歩はまさに日進月歩の状況です。そこで、法律事務所ZeLoでは、国土交通省自動車局にて、自動運転やMaaSに関するルール整備を含め自動車行政に広く従事した経験を持つ弁護士を中心に、ビジネス発展の役に立ちたいという思いから、注目を集める自動運転の法規制を様々な角度から解説する連載企画を始めました。第1回目の本記事では、自動運転に関する日本の現状や法規制の全体像について解説します。
Graduated from Nagoya University (LL.B, 2016), passed Japan Bar Exam (Registered in 2018). Experience at Mori Hamada & Matsumoto (2019-2023), seconded to Road Transport Bureau of the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism (Passenger Transport Division and Accident Compensation Policy Office) (2021-2023), and joined ZeLo (2023-). Main practice areas include M&A, startup law, regulations on automobiles, mobility and transportation, dispute resolution, and public affairs.
一口に「自動運転」といっても、ドライバーの運転を支援するに留まるものや、ドライバーを全く必要とせずにシステムが全運転を行うものまで、様々な形態が存在しており、一般的に以下の6段階に分けて定義されています[1]。
操縦主体 | レベル | 概要 | 対応する車両の呼称 |
---|---|---|---|
システム | レベル5 | 完全自動運転(特定条件による限定なし) | 完全自動運転車 |
レベル4 | 特定条件下での自動運転 (条件外でもシステムが安全確保) | 自動運転車 (限定領域) | |
レベル3 | 特定条件下での自動運転 (条件外ではドライバーが安全確保) ※特定条件=速度、地理、気象等による一定の条件 例:高速道路上、30km/h以下、悪天候でない | 条件付自動運転車 (限定領域) | |
ドライバー | レベル2 | 縦・横双方向の運転支援(自動追従+車線維持等) | 運転支援車 |
レベル1 | 縦又は横の一方向のみの運転支援(自動ブレーキ、自動追従(ACC[2])、車線維持(LKAS[3])等) | ||
レベル0 | -(運転自動化なし) | - |
上表のとおり、レベル2まではドライバーが操縦主体であり、システムはあくまでドライバーの「運転支援」を行うのみである一方、レベル3以降はシステムが操縦主体である点で、レベル2とレベル3との間には非常に大きな差があります。また、レベル3は特定条件下ではシステムが操縦を行いますが、条件外となった場合にはドライバーによる安全確保が必要であり、この点で依然としてドライバーの存在を前提としています。他方で、レベル4は条件外となった場合であってもシステムが安全確保を行うため、ドライバーの存在が全く不要となります。最後に、レベル5は何らの条件・限定もなく、いつでも、どこでも自動運転を行うことが可能なレベルをいいます。
それでは、これらの定義を前提として、日本における自動運転の実用化状況を見ていきましょう。
レベル5 | -(実例なし) | |
レベル4 | 移動サービス | ・2023年5月、福井県永平寺町において、レベル4での無人自動運転移動サービスが開始 |
レベル3 | 自家用車 | ・2021年3月、高速道路・渋滞時でのレベル3走行が可能なホンダ・レジェンドが販売開始(世界初) |
移動サービス | ・2021年3月、福井県永平寺町において、レベル3での無人自動運転移動サービスが開始 | |
レベル2 | 自家用車 | ・2019年9月、高速道路でのレベル2走行が可能な日産・スカイライン(プロパイロット2.0搭載)が販売開始 ・他メーカーからも順次、レベル2走行が可能な車種が登場 |
移動サービス | ・2022年12月、JR東日本が運行する気仙沼線BRT(バス高速輸送システム)において、レベル2での自動運転バスサービスが開始 ・全国各地で実証実験が展開 | |
レベル1 | ・自動ブレーキ、ACC、LKAS等が普及[4] |
上表のとおり、日本においては、現状、レベル4までの自動運転が実用化されています。このうち、福井県永平寺町におけるレベル4での無人自動運転移動サービスは、2023年4月から施行された改正道路交通法(下記「自動運転に関する法規制の全体像」参照)に基づく特定自動運行の許可を受けた初の事例であり、その導入効果や今後の運行課題が注目されます。また、JR東日本は、気仙沼線BRTにおける自動運転バスサービスについて、2024年秋頃までに現在のレベル2からレベル4に引き上げる方針を発表しており[5]、今後の許認可取得に向けた動向が注目されます。
なお、レベル5は現在、実用化されていません。「いつでも、どこでも自動運転」を実現することは技術上極めて困難であり、実用化の目途も立っていないのが現状です。下記「自動運転に関する政府目標・動向」のとおり、レベル5については政府目標も定められていません。
自動運転については、諸外国に後れをとらぬよう、政府としても明確な目標を定めて推進しています。直近の政府文書(閣議決定文書)に記載された主な政府目標は下表のとおりです。
全般 | ・2025 年目途で全都道府県における自動運転の社会実験を実施 |
物流サービス | ・2024年度以内に、新東名高速道路の駿河湾沼津―浜松間(約100km)において深夜時間帯での自動運転車用レーンを設定[6]、高速道路におけるレベル4自動運転トラックの実証開始 ・ 2026年度以降、高速道路でのレベル4自動運転トラックの社会実装 |
移動サービス | ・地域限定型のレベル4無人自動運転移動サービスについて、2025年度目途に50か所程度で実現、2027年度までに100か所以上で実現 |
なお、自家用車については、2022年までの政府文書[7]により「2025年目途に高速道路での自動運転(レベル4)市場化」という目標が定められていますが、直近の政府文書では特段の言及はありません。これは、「商用車での先行実装から自家用車での量産開発に」という自動運転技術の社会実装アプローチの考え方が表れているものと考えられます。
<自動運転技術の社会実装アプローチ>
直近の政府文書(閣議決定文書)における自動運転に関する具体的記載は以下のとおりです。
<国土交通省「国土形成計画(全国計画)」(2023年7月28日閣議決定)[8]抜粋>
第1部 新たな国土の将来ビジョン 第2章 目指す国土の姿 第2節 国土構造の基本構想 3.広域的な機能の分散と連結強化 (2)三大都市圏を結ぶ「日本中央回廊」の形成による地方活性化、国際競争力強化 (前略)さらに、5G の整備や高規格道路における自動運転など、デジタルとリアルの融合を通じたネットワーク機能の強化により、国土の中央に位置する特性を活かし、全国各地との交流が活発化することが期待される。その一環として、2024年度内に、新東名高速道路の駿河湾沼津と浜松の両サービスエリア間の約100kmにおいて、深夜時間帯での自動運転車用レーンを設定し、貨物トラックの自動運転サービスの実証を開始する。(後略) 第2部 分野別施策の基本的方向 第4章 交通体系、情報通信体系及びエネルギーインフラの高質化に関する基本的な施策 第1節 シームレスな総合交通体系の高質化 3.シームレスな拠点連結型国土の骨格を支える国内幹線交通体系の高質化 (高規格道路ネットワークの高質化) (前略)さらに、新東名高速道路の駿河湾沼津 SA から浜松 SA 間に深夜時間帯における自動運転車用レーンの設定や道路インフラからの情報提供により、2026年度以降の高速道路におけるレベル4自動運転トラックの社会実装を目指すとともに、高速道路 SA/PA 等における自動運転車両の拠点施設がニーズに応じて整備されるよう計画的な支援を実施する。(後略) 5.デジタルを活用した新たなモビリティの充実 自動運転の実装の加速化に向けて、地域限定型の自動運転移動サービスについて、2025 年度を目途に50か所程度、2027 年度までに100か所以上で実現するため、研究開発から実証実験、社会実装まで一貫した取組を行うとともに、これに向けて意欲ある全ての地域が同サービスを導入できるようあらゆる施策を講ずる。具体的には、持続可能な自動運転移動サービスの構築に向けて、2023 年度中に BRT 専用空間での中型バスでの自動運転移動サービスを開始する。また、歩行者や自転車等の交通参加者が存在する混在空間での自動運転移動サービスの実現を目指し、インフラからの道路交通状況の情報提供(路車協調システム)について、車載センサで検知困難な交差点等における状況を自動運転車や遠隔監視室へ情報提供する上で必要となる、インフラと車両の役割分担や路側センサに関する調査検討、車両制御への活用等に関する実証実験を実施する。また、物流の担い手不足解消や物流効率の向上に向け、2024 年度に高速道路における自動運転トラックの実証を開始し、2026年度以降のレベル4での社会実装を目指す。その際、合流等の車両単独では対応が困難と想定される事象を特定し、道路インフラからの支援策について検討する。さらに、空港における地上支援業務の自動化・効率化に向けて、2025 年までに空港制限区域内における車両に係るレベル4無人自動運転の導入を目指す。 (中略) これらの新たなモビリティサービスの社会実装を加速化させるため、2023 年度内に策定する「デジタルライフライン全国総合整備計画」に即して、関係府省の連携したプロジェクト等の取組を推進する。 自動運転車両やサービスロボット、ドローンは、地域の旅客・貨物需要等に合わせて自由に組み合わせる時代へ変化しており、今後は、これらをトータルにモビリティとして捉え、移動需要に対する新たなモビリティ政策を検討していくことが必要となる。単なる実証ではなく社会実装につながるよう、必要となるハード・制度の整備も含め、「モビリティ・ロードマップ(仮称)[192]」を策定し、官民での取組の連携を図る。 [192] 自動運転車・ロボット・ドローン等のモビリティを横断的に捉え、それらの社会実装に向けて必要となる技術開発、事業モデルの構築、ハード・ソフトのインフラや制度の整備など、官民での目標・取組を定めた長期計画(2021 年まで発行された「官民 ITS 構想・ロードマップ」を発展的に継承するもの)。
<内閣府「経済財政運営と改革の基本方針 2023 について(いわゆる骨太方針)」(2023年6月16日閣議決定)[9]抜粋>
第2章 新しい資本主義の加速
5.地域・中小企業の活性化
(デジタル田園都市国家構想と「新時代に地域力をつなぐ国土」の実現)
(前略)
空飛ぶクルマを推進するほか、ドローン、自動運転等の実装と面的整備に向け「デジタルライフライン全国総合整備計画」を年度内に策定し、2024年度にはドローン航路や自動運転支援道[124]の設定を開始し、先行地域での実装を実現する。
(後略)
[124] 高速道路における物流トラックを対象とした路車協調システム等による自動運転の支援を含む。
<内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(2023年6月16日閣議決定)[10] 抜粋>
Ⅷ.経済社会の多極化 1.デジタル田園都市国家構想の実現 (2)デジタル田園都市国家を支える地域交通、ヘルスケア、教育の整備 ①自動運転の社会実装 技術が成熟しつつある低速・定路線のバス等から速やかに自動運転の社会実装を進める。2025 年目途で全都道府県での自動運転の社会実験を実現すべく、官民連携で導入に取り組む事例を後押しするとともに、MaaS(Mobility as a Service)の社会実装を推進する。あわせて、ロボットタクシーの社会実装を進める。 さらに、自動運転に必要なローカル5Gの整備、自動運転支援道(トラック・バスの自動運転車用レーン等)の設定等も進めることで、2027年度までに、無人自動運転移動サービスを100か所以上で実現する。また、自動運転やドローン等での安全な運行のため地理空間情報(G空間情報)の整備・活用を図る。
<成長戦略等のフォローアップ(2023年6月16日閣議決定)[11]抜粋>
Ⅳ.「経済社会の多極化」関連のフォローアップ 1.「デジタル田園都市国家構想の推進」関連 (自動運転・自動運転移動サービス) ・地域限定型の無人自動運転移動サービスを 2025 年度目途に 50か所程度で、また 2027年度までに 100か所以上で実現するため、2023年度に、レベル4自動運転車両を用いた限定空間での無人自動運転移動サービスの実証や、混在交通環境下にある市街地の交差点等での路車協調システムを用いた車両制御の実証等を行う。
上記のほか、国土形成計画に記載のとおり、2023年度内に策定される「デジタルライフライン全国総合整備計画」に即した取組の推進や「モビリティ・ロードマップ(仮称)」[12]の策定も見込まれており、今後これらの動向についても注視していく必要があります。
なお、ここでは詳細は割愛しますが、2023年8月24日に公表された令和6年度国土交通省予算概算要求[13]においても、上記政府目標を踏まえた要求が盛り込まれています。
主な関係法令[14] | 主な法令改正等の状況 | |
交通に関する ルール | ・道路交通法 | ・自動運行装置を使用する運転者の義務や作動状態記録装置による記録に関する規定の整備等(レベル3への対応) 【改正道路交通法(2020年4月施行)】 ・特定自動運行(レベル4相当)に係る許可制度の創設 【改正道路交通法(2023年4月施行)】 |
車両に関する ルール | ・道路運送車両法 | ・保安基準対象装置への自動運行装置の追加(レベル3・4への対応) 【改正道路運送車両法(2020年4月施行)】 ・特定自動運行(レベル4相当)に係る許可制度の創設を踏まえた自動運行装置の保安基準整備 【改正道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(2023年1月施行)】 |
責任に関する ルール | <民事責任> ・民法 ・自動車損害賠償保障法 ・製造物責任法 <刑事責任> ・刑法 ・自動車運転死傷処罰法 | <民事責任> ・レベル4までの自動車が混在する当面の「過渡期」における損害賠償責任のあり方について有識者検討会で議論・とりまとめ(2018年3月公表)[15] <刑事責任> ― |
運送サービスに 関するルール | <移動サービス> ・道路運送法 <物流サービス> ・貨物自動車運送事業法 | <移動サービス・物流サービス共通> ・自動運転車を用いた旅客/貨物自動車運送事業において輸送の安全確保等のために事業者が講ずべき事項や手続きの規定 【改正旅客自動車事業運輸規則、 改正道路運送法施行規則(2023年4月施行)】 |
上記のとおり、自動運転関連ビジネスに対しては多岐にわたる規制が適用されます。また、当該規制の解釈・適用に関しては必ずしも明らかでない部分も多く、そのような部分については政府の動向や各種有識者委員会における議論等を踏まえつつ、ビジネスモデルの検討を進める必要があります。加えて、現行の法規制によりビジネス上の支障が生じる場合等には、民間事業者から自動運転の開発状況や特性を踏まえた適切な規制の在り方について、官公庁に対して積極的に働きかけることも考えられるところです。
法律事務所ZeLoは、訴訟・紛争解決などの伝統的な企業法務領域はもちろんのこと、web3・AIなどの最先端領域や、新しいビジネスモデルに関する支援に強みを持っています。特に、自動運転については、国土交通省自動車局への出向経験を有し、自動運転を含む自動車/モビリティ関連規制に深く精通した弁護士による専門的なアドバイスを提供しています。また、現行の法規制がビジネスの障壁となるようなケースにおいて、ルールメイキング・規制緩和の働きかけなどをサポートしています。
個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問合せください。
[1] 米国自動車技術会(Society of Automotive Engineers)策定のSAE International J3016(2016年9月)参照。日本においても、一般的にJ3016に基づく定義が採用されています。
[2] “Adaptive Cruise Control”の略称。
[3] “Lane Keep Assist System”の略称。
[4] 特に、自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)については、2021年11月より国産の新型車への搭載が義務化されています。
[5] 東日本旅客鉄道株式会社「気仙沼線 BRT における自動運転レベル4認証取得を目指します」(公開日:2023年4月4日)
[6] この点、(i)高速道路に加え、一般道にも自動運転支援道を設定するほか、(ii)2025年度以降、東北道等でも自動運転車用レーンを展開する方針が示されています(デジタル田園都市国家構想実現会議(第14回)資料6・8頁)。
[7] 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議「官民 ITS 構想・ロードマップ これまでの取組と今後の ITS 構想の基本的考え方」(公開日:2021年6月15日)及びデジタル庁「デジタルを活用した交通社会の未来2022」(公開日:2022年8月1日)
[8] https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/content/001621775.pdf
[9] https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/2023_basicpolicies_ja.pdf
[10] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2023.pdf
[11] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/fu2023.pdf
[12] 策定に向け、デジタル庁に設置された「「モビリティ・ロードマップ」のありかたに関する研究会」において議論が進められています(https://www.digital.go.jp/councils/mobility-roadmap)
[13] https://www.mlit.go.jp/page/kanbo05_hy_003149.html
[14] ここでは国内法令のみ取り上げていますが、国際ルールとして、ウィーン交通条約(1968年道路交通に関する条約)や国連の機関である道路交通安全グローバルフォーラム(WP.1)の決議、自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)で策定される自動車の国際基準が存在しており、これらについても留意が必要となります。
[15] 国土交通省自動車局「自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書」(公開日:2018年3月20日)。