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【弁護士が解説】「ライドシェア」に関わる法規制とは?政府動向と合わせて解説

昨今、訪日観光客(インバウンド)の急回復を受け、経済界や政界(自民党の菅前総理、河野デジタル大臣、小泉元環境大臣等)から「ライドシェア」に関する発言が多くなされており、今後の動向が注目されています。本記事では、注目を集める「ライドシェア」の概要や法規制について、国土交通省自動車局にてバス・タクシー等の旅客運送に関する法令改正等に従事した経験を持つ弁護士が解説します。

【弁護士が解説】「ライドシェア」に関わる法規制とは?政府動向と合わせて解説
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PROFILE
Keita Mashita

Attorney admitted in Japan

Keita Mashita

Graduated from Nagoya University (LL.B, 2016), passed Japan Bar Exam (Registered in 2018). Experience at Mori Hamada & Matsumoto (2019-2023), seconded to Road Transport Bureau of the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism (Passenger Transport Division and Accident Compensation Policy Office) (2021-2023), and joined ZeLo (2023-). Main practice areas include M&A, startup law, regulations on automobiles, mobility and transportation, dispute resolution, and public affairs.

Attorney admitted in Japan

Yutaka Ichikawa

「ライドシェア」とは

「ライドシェア」とは、ライドシェアリング(Ride-sharing)の略称です。直訳すると「相乗り」となりますが、その意味は文脈に応じて様々です。本記事では、説明の便宜上、国土交通省国土交通政策研究所による以下の分類に従うこととします。

分類概要代表的なサービス
営利型
ライドシェア
ドライバーがアプリ等を用いた仲介により他人を有償で自分の車に乗せて運送することUber(アメリカ)
Lyft(アメリカ)
DiDi(中国)
GoJek(インドネシア)
Grab(シンガポール)
非営利型
ライドシェア
ドライバーがアプリ等を用いた仲介により他人を無償又はガソリン代等コストの範囲内で自分の車に同乗させることnotteco(日本)
Bla Bla Car(フランス)
出典:国土交通省 国土交通政策研究所「国土交通政策研究第 148 号『運輸分野における個人の財・サービスの仲介ビジネスに係る国際的な動向・問題点等に関する調査研究」(2018年6月)2~3頁を参考に筆者にて作成

両者の最も大きな違いは、乗客の支払う対価が、有償(営利)であるか、無償又はガソリン代等のコストの範囲内(非営利)であるかという点です。また、そのほかの違いとして、通常、営利型ライドシェアは、タクシーやハイヤーのように、目的地まで運送してくれるドライバーの車をアプリ等で拾う形態であり、乗客側が目的地を決定する一方、非営利型ライドシェアは、乗客が自分と同一方向に向かうドライバーの車にまさに「相乗り」させてもらう形態であり、ドライバー側が目的地を決定するという点も重要です。

このように営利型と非営利型によってサービス態様が大きくことなることから、近年では営利型ライドシェアを「ライドヘイリング」(Ride-hailing。「hail」=「拾う」)と呼ぶことも多くなっています[1]

なお、日本においては、「ライドシェア」というと、一般的に営利型ライドシェアを指すことが多く、昨今の経済界や政界における議論も、主に営利型ライドシェアを念頭に置いたものと考えられます。

ライドシェアに関する法規制

営利型ライドシェア

結論として、営利型ライドシェアを何らの許可等なく行うことは、違法な「白タク」行為として道路運送法により認められていません。同法による規制の概要は以下のとおりです。

旅客自動車運送事業(バス・タクシー事業)の許可

  • 旅客自動車運送事業を行うためには、国土交通大臣の許可が必要(道路運送法4条1項、43条1項)
  • 運転者は、第二種免許保有等の要件を満たす必要あり(同法25条等)
  • 事業者は、運行管理者の選任等の安全・利用者保護の体制を整備する必要あり(同法23条1項、27条1項等)

自家用車による有償運送の原則禁止

  • 自家用車による有償運送は原則禁止(道路運送法78条本文)
  • 例外として、以下の場合には有償運送ができる(同条各号)
    1. 災害のため緊急を要するとき(1号)
    2. 市町村、NPO法人等が国土交通大臣の登録(79条)を受けて行うとき(自家用有償旅客運送)(2号)
    3. 公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して行うとき(スクールバス、介護タクシー等)(3号)

上記のとおり、自家用車による有償運送も一切認められないわけではなく、一定の例外が存在します。このうち、1. は災害時、3. は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合の例外であり、極めて限定的なものです。したがって、実務上重要なのは、2. の「自家用有償旅客運送」となります。

「自家用有償旅客運送」とは、交通空白地での運送や障がい者等の運送といった、地域住民の生活に必要な運送について、バス・タクシー事業による提供が困難な場合に、市町村、NPO法人等が自家用車を用いて有償で運送できることとする制度です。同制度の概要は下表のとおりです。

<自家用有償旅客運送制度の概要>

運送の主体・市町村
・NPO法人等の非営利団体
運送の種類・交通空白地有償運送
(交通空白地における地域住民や観光客等の来訪者のための運送)
・福祉有償運送
(障がい者等の単独では公共交通機関を利用することが困難な方のための運送)
登録の要件・地域の関係者(※)において、(i)バス、タクシーによることが困難、かつ、(ii)地域住民の生活に必要な運送であるとの協議が調っている
・安全・利用者保護体制の確保
(運行管理・整備管理の責任者を選任等)

※地域住民、地方公共団体、NPO、バス・タクシー事業者及びその組織する団体、地方運輸局又は運輸支局等
運転者の要件・第二種免許 又は 第一種免許+一定の講習
収受できる対価の要件・実費の範囲内(目安として、地域のタクシー運賃の概ね1/2の範囲内)
・地域の関係者において協議が調っている

自家用有償旅客運送の制度が創設された2006年からの導入状況は以下のとおりです。既に多くの地域で活用されていることがわかります。

出典:国土交通省「ラストワンマイル・モビリティ/自動車DX・GXに関する検討会」第1回・資料2「ラストワンマイル・モビリティの現況について」(2023年2月20日)13-14頁

上記のとおり、自家用有償旅客運送の登録を受けることにより、例外的に自家用車による有償運送を行うことができます。また、これと配車アプリ等を組み合わせることも可能です。実際に、京都府京丹後市では、Uberの配車アプリを活用した自家用有償旅客運送(「ささえ合い交通」)が行われています(参考:NPO法人 気張る!ふるさと丹後町ホームページ「『ささえ合い交通』とは」)。

他方、自家用有償旅客運送については、「『交通空白地』について目安がなく地域関係者間の協議が難航する場合がある」、「現行の目安に従った対価では、運転手の人件費等の必要費用を賄うことができず、持続可能な運営をすることは困難な場合が多い」等の課題も指摘されています[2]。この点、国土交通省に設置された有識者検討会(「ラストワンマイル・モビリティ/自動車DX・GXに関する検討会」)において、自家用有償旅客運送の円滑な導入や持続可能性向上のための施策(一例は以下のとおり)が2023年5月にとりまとめられたところであり[3]、今後の施策の具体的な内容や効果が注目されます。

  • 「半径1km以内にバス停・駅がない地域であって、タクシーが恒常的に30分以内に配車されない地域」は少なくとも交通空白地に該当する、という目安を示す。
  • 従来の「地域のタクシー運賃の概ね1/2の範囲内」という対価の目安を廃止し、必要費用も勘案して実費を適切に収受できるように目安を新たに設定する。

非営利型ライドシェア

上記のとおり、道路運送法による規制対象は「有償」での運送であり、「有償」でない運送については規制の対象外となっています。したがって、非営利型ライドシェアについても、「有償」での運送に該当しない場合には、旅客自動車運送事業の許可や自家用有償旅客運送の登録は不要となります。

道路運送法上の「有償」の解釈については、国土交通省の通達が複数存在しており、これらを参照することが不可欠です。通達の概要は以下のとおりです。

(1)道路運送法の解釈について(昭和34年2月28日自旅第2826号)(抜粋)

照会
2 法第101条第1項及び法第102条第1項第3号に規定する「有償」とは、いかなる財物の収受をも有償と解するか。

回答
設問の条項に規定する「有償で」とは、社会通念上、運送行為に対する報酬と認められる財物を収受することをいい、単に行為に対する謝礼にとどまるものは含まれない。上記に合致する限り、収受する財物の種類及び額並びに収受の名目のいかんを問わない。

(2)自家用自動車を使用して行う法律違反の取締並びにこれに関する道路運送法の解釈及び運用について(昭和34年7月10日自旅第1529号・自貨第256号)(抜粋)

3 法第101条第1項本文及び法第102条第1項第3号(有償運送)に関する解釈について
(1)「有償で」とは、運送の対価(運送サービスの提供に対する反対給付をいい、社交儀礼的なものを除く。)として財物を収受することをいい、名目のいかんを問わず、直接たると間接たるとを問わず、また、金銭であると他の財物であるとを問わない。また、給付、反対給付の間に必ずしも均衡がとれている必要もない。(後略)

(3)「道路運送法における許可又は登録を要しない運送の態様について(平成30年3月30日国自旅第338号)」及び「宿泊施設及びエコツアー等の事業者が宿泊者及びツアー参加者を対象に行う送迎のための輸送について(平成23年3月31日国自旅第239号)」

【任意の謝礼の収受】 
・好意に対する任意の謝礼の収受は「有償」に該当しない。 
・但し、謝礼を誘引する場合は「任意の謝礼」とはいえない。
【価値換算が困難な物等の収受】
・金銭的な価値換算・流通困難な物(野菜等)や換金性がない物(一部の地域通貨等)の収受は「有償」に該当しない。
【実費の一部(特定費用)の収受】 
・特定費用(ガソリン代、道路通行料及び駐車場料金)の収受は「有償」に該当しない。
【施設利用者等の無料送迎】
・デイサービス等/ホテル・旅館/エコツアー事業者が、利用者/宿泊者/ツアー参加者を対象に行う無料送迎は、道路運送法の規制の対象外。
【家事・身辺援助サービス等に伴う無料送迎】
・子供の預かりや家事・身辺援助の提供が中心となるサービスに伴う無料送迎は、道路運送法の規制の対象外。
【運転役務の提供】
・利用者の所有する自動車を使用して送迎を行う場合(自動車運行管理業、自動車運転代行業(※))は、運転者に対して対価が支払われたとしても、運転役務の提供(代わりに運転したこと)に対する報酬であって運送の対価とはならない。
※但し、自動車運転代行業を行うためには、自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律に基づく公安委員会の認定を受けることが必要[4]
出典:「道路運送法における許可又は登録を要しない運送の態様について」(令和2年3月31日国自旅第328号)及び「宿泊施設及びエコツアー等の事業者が宿泊者及びツアー参加者を対象に行う送迎のための輸送について」(平成23年3月31日国自旅第239号)を参考に筆者にて作成

上記(1)及び(2)の通達のとおり、運送の対価は、収受の名目を問わないとされている点が重要です。この点、米Uber Technologiesが2015年2月に福岡市で始めた「みんなのUber」(アメリカと同様に、一般ドライバーがアプリを用いた仲介により利用者を自分の車に乗せて運送するサービス)では、上記白タク規制を回避するために、利用者の利用料は無料とした上で、Uberからドライバーに対して「データ提供料」の名目で金銭を支払っていました。しかし、当該「データ提供料」が実態としては運送の対価に当たるとして、国土交通省からサービス中止の行政指導を受けることとなりました [5]

また、上記(3)の通達のとおり、任意の謝礼の収受や実費の一部(特定費用)の収受等、一定の場合には「有償」での運送に該当せず、道路運送法の規制対象外であることが示されています。もっとも、どういった場合に「任意の謝礼」といえるのか等、不明確な範囲も多く、通達の許容する範囲に収まっているかどうかを正確に判断するのは難しいといえます。

ライドシェアに関する政府動向

斉藤国土交通大臣及び松野内閣官房長官は、菅前総理等の発言を受けて、それぞれ以下のとおり記者会見で発言しています(下線太字は筆者による)。

2023年8月25日 斉藤鉄夫国土交通大臣記者会見(抜粋)>

いわゆるライドシェアは、運行管理や車両整備について責任を負う主体を置かないままに、自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態を前提としており、安全の確保の観点から問題があると考えています。このため、タクシーなどの安全・安心な交通サービスが、インバウンド需要にもしっかりと応えられるよう、また先ほども申し上げたように、需要に供給がきちんと対応できるように、しっかりと応えられるよう各種の支援や規制緩和等に取り組んでいかなければいけないと考えているところです。

2023年9月8日 松野博一内閣官房長官記者会見(抜粋)>

運行管理や車両整備について、責任を負う主体を置かないまま、自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態を前提とする、いわゆるライドシェアについては、安全の確保、利用者の保護等の観点から様々な課題があるものと認識しています。いずれにせよ、タクシーを含む安全で安心な交通サービスが地方部や観光地等で供給力を増やし、需要にしっかりと応えられるよう、政府として引き続き、不断に対応を検討し、取り組んでまいりたいと考えております。

いずれもライドシェア(営利型ライドシェア)に対する従来の国土交通省の見解 [6]を踏襲しており、ライドシェアの導入については慎重な姿勢が示されています。このような姿勢の背景には、過去に「いわゆる『ライドシェア』は引き続き導入を認めない」旨の下記国会附帯決議が行われていることもあるように思われます。

<持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取組を推進するための地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(下線太字は筆者による)>

衆議院(2020年4月14日)参議院(2020年5月26日)
五 自家用有償旅客運送が事実上の営利事業として地域公共交通の担い手となっているタクシー事業者の経営を圧迫することにならないよう対策を講ずること。また、地域公共交通会議等における関係者の協議を経て、安全の確保、利用者の保護等に万全を期すこと。あわせて、いわゆる「ライドシェア」は引き続き導入を認めないこと七 自家用有償旅客運送が事実上の営利事業として地域公共交通の担い手となっているタクシー事業者の経営を圧迫することにならないよう対策を講ずること。また、地域公共交通会議等における関係者の協議を経て、安全の確保、利用者の保護等に万全を期すこと。あわせて、いわゆる「ライドシェア」は引き続き導入を認めないこと

他方で、上記記者会見においては、タクシー等が需要に対応できるよう各種支援・規制緩和等に取り組んでいくことも示されており、今後の動向を注視する必要があります。

旅客運送分野の法規制は専門家にご相談を

上記のとおり、ライドシェアを含む旅客運送分野は、法令に加えて多数かつ複雑な通達によって法規制が構成されており、法的リスク・論点を正確に把握することが難しい分野となっています。

法律事務所ZeLoは、訴訟・紛争解決などの伝統的な企業法務領域はもちろんのこと、web3・AIなどの最先端領域や、新しいビジネスモデルに関する支援に強みを持っています。特に、旅客運送分野については、国土交通省自動車局への出向経験を有し、自動車/モビリティ関連規制に深く精通した弁護士による専門的なアドバイスを提供しています。

個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問合せください。


[1] 戸嶋浩二・佐藤典仁編著『自動運転・MaaSビジネスの法務』(中央経済社、2020)154頁。

[2] 国土交通省自動車局「ラストワンマイル・モビリティ/自動車 DX・GX に関する検討会 『ラストワンマイル・モビリティに係る制度・運用の改善策』編」(2023年5月)7頁

[3] 前注参照

[4] なお、いわゆる1人運転代行サービス(スタッフが折り畳み式電動バイクに乗って利用者の下に行き、電動バイクを折り畳んで利用者の車に積んだ上で、利用者の車を代わりに運転して目的地まで移動するサービス)は、随伴車を伴わないことから自動車運転代行業に該当せず、また、利用者の自動車に対する運転役務の提供に留まることから直ちには上記白タク規制に違反しないと整理されています(経済産業省 2020年8月26日付「確認の求めに対する回答の内容の公表」。

[5] 2015年3月6日太田昭宏国土交通大臣会見要旨

[6] 例えば、2023年4月26日衆議院国土交通委員会における斉藤国土交通大臣答弁

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