「調停による国際的な紛争解決契約に関する国連条約(シンガポール条約)」クロスボーダー紛争解決の新しいツール
Attorney admitted in Japan, NY
Satoshi Nomura
US Lawyer
Joel Greer
国際紛争の解決手段として、日本でも国際仲裁や国際調停が用いられることが増えており、日本政府もこれらの制度を用いやすくするための対応を進めています。本記事では、国際仲裁や国際調停に関する法制の見直し内容として、2023年改正仲裁法と調停国連条約実施法の規定内容について説明します。
Graduated from the University of Tokyo Faculty of Law in 1997 and registered as a lawyer (Japan) in 2000 (member of the Tokyo Bar Association). After working at Nagashima Ohno & Tsunematsu, Porter, Wright, Morris & Arthur (U.S.), and Clifford Chance LLP, he joined ZeLo Foreign Law Joint Enterprise in 2020. His practice focuses on general corporate, investment, start-up support, finance, real estate, financial and other regulatory matters. In addition to domestic cases, he also handles many overseas cases and English-language contracts. He is also an expert in FinTech, having authored the article "Fintech legislation in recent years" in the Butterworths Journal of International Banking and Financial Law. His other major publications include "Japan in Space - National Architecture, Policy, Legislation and Business in the 21st Century" (Eleven International Publishing, 2021). Publishing, 2021).
In his 20 years of practice, Joel has represented Asian, European, and North American companies in numerous international arbitration or pre-arbitration matters, including under the rules of the International Chamber of Commerce, Japan Commercial Arbitration Association, and London Court of International Arbitration, as well as in international mediation under the rules of the Singapore International Mediation Centre. These matters have concerned disputes arising from licensing agreements, construction contracts, joint venture agreements, and sales and purchase agreements, among others. More recently, Joel has advised on space law and policy matters, as well as geotechnology issues.
近年、我が国において、国際仲裁・国際調停の活用に向けた以下の動きがありました。
このような潮流の下、2023年4月21日、仲裁法の一部を改正する法律(以下「改正仲裁法」)・調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律(以下「調停国連条約実施法」)が、参議院本会議において全会一致で可決され、成立しました。仲裁法の改正は、同法の制定以来20年ぶりとなります。
日本の現行の仲裁法は、2003年、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)が規定する国際商事仲裁法モデル法(以下「モデル法」)に準拠して制定されました。モデル法は1985年に策定され、その後2006年に一部改正されましたが、日本の仲裁法では当該改正が反映されていませんでした。
2023年4月の改正法では、最新の国際水準に見合った法制度を整備することで、国際仲裁の利用が促進されることが期待されており、主な改正内容は以下の4点です。なお、改正仲裁法の施行日は、公布の日から1年を越えない範囲において政令で定める日とされています。
現行の仲裁法においては、仲裁合意に基づき、その対象となる民事上の紛争について審理し、仲裁判断を行う仲裁廷が必要と認める暫定措置や保全措置を講ずることができる旨が規定されているものの、かかる措置について裁判所を通じて強制執行するための制度が整備されていませんでした。
2023年4月の改正法では、仲裁判断があるまでの間に、仲裁廷が発する権利、証拠を保全するための命令(暫定保全措置命令)の類型及び発令要件等に関する規定が整備され、暫定保全措置命令に基づく強制執行等を許す決定(執行等認可決定)の制度が創設されました。
導入された暫定保全措置命令は、以下の5類型に整備されています。
現行の仲裁法においては、仲裁に服することの前提となる仲裁合意は、書面により行うことが必要とされています。
2023年4月の改正法において、口頭の契約においても、仲裁条項を含む文書又は電磁的記録が引用されているときは、仲裁合意が書面性を満たすものとされました。
現行の仲裁法においては、仲裁関係事件手続の管轄は、当事者が合意により定めた地方裁判所や被申立人の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所等とされていました。
2023年4月の改正法により、仲裁地が日本国内にある場合には、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所にも管轄が認められるようになりました。当該改正は、これらの裁判所による国際仲裁等の専門的な事件処理態勢の構築を促進することを目的としています。
2023年4月の改正法により、仲裁判断に基づき民事執行を裁判所に申し立てる際、一定の要件を満たす場合には、外国語で作成された仲裁判断書等について日本語による翻訳文の添付を省略することが可能になりました。
改正仲裁法の可決と同時に、国際調停に関する新法である調停国連条約実施法についても可決・成立しました。これは、国際調停によって行われた和解合意の執行等に関する国際的な枠組みであるシンガポール条約(調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約。2020年9月発効。)の締結・批准を見据え、同条約に基づく日本での強制執行を可能とする制度を設けることが目的です。シンガポール条約の具体的な内容については、以下の記事をご参照ください。
2023年10月1日に日本はシンガポール条約への加入手続をとりました。日本は12番目の締結国で、効力発生日は2024年4月1日です。
今回の改正により、国際仲裁及び国際調停が日本でより活用されることが期待されます。
法律事務所ZeLoでは、所属する日本法弁護士や米国資格を有する外国法事務弁護士などにより、チームを編成するほか、緊密に連携する現地法律事務所とも連携し、世界の法域を問わずリーガルサービスを提供しています。実際、国際仲裁・調停、海外訴訟対応などの国際紛争に関する案件を多く取り扱っています。紛争問題についてはとりわけ初期段階での対応も重要です。随時、ご相談も承っていますので、お気軽にお問い合わせください。
本記事は、原文である"Amendments to Japan’s Arbitration Act and New Legislation on International Mediation"の翻訳であり、英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。
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