【弁護士が解説】E2E型自動運転と法規制(後編)─事故の民事責任・刑事責任と実務対応
Attorney admitted in Japan
Keita Mashita
2026年6月、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)で、レベル4を含む自動運転システム(ADS)の国際基準が合意され、このうち国連規則は2027年1月頃に発効する見込みです。もっとも、国連規則が発効しても、その日から日本の基準になるわけではなく、道路運送車両の保安基準等の改正を経て国内に取り込まれます。本記事では、国土交通省自動車局への出向経験を有する弁護士が、発効までの手続と国内基準への反映の仕組み、レベル3の国連規則(第157号)の前例、開発企業が今から備えるべき点を解説します。
Graduated from Nagoya University (LL.B, 2016), passed Japan Bar Exam (Registered in 2018). Experience at Mori Hamada & Matsumoto (2019-2023), seconded to Road Transport Bureau of the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism (Passenger Transport Division and Accident Compensation Policy Office) (2021-2023), and joined ZeLo (2023-). Main practice areas include M&A, startup law, regulations on automobiles, mobility and transportation, dispute resolution, and public affairs.
自動運転は、運転の自動化の程度に応じてレベル0〜5に区分されます。レベル3は、一定の条件下でシステムが運転を担い、作動の継続が難しい場合は運転者が対応する段階、レベル4は、一定の条件下でシステムがすべての運転を担い、運転者の対応を前提としない段階です。
今回合意されたのは、1958年協定に基づく国連規則(UN Regulation No.185。番号は暫定)と、1998年協定に基づく世界技術規則(UN GTR No.26)であり、レベル4を含む高度な自動運転システムを対象としています[1]。
1958年協定は基準の調和に加えて認証の相互承認を目的とし、日本やEUなどが加盟しています。1998年協定は基準の調和を目的とし、米国や中国も加わっています[2]。
新基準は、混在交通の中で「有能で注意深い人間ドライバー」と同等以上の安全水準を確保することを前提に、詳細な試験方法を一律に定めるのではなく、次の三つを組み合わせています[3]。
メーカーは、シミュレーション・試験路・実道という各試験環境の信頼性も示さなければならず、当局は、SMSの監査やセーフティ・ケースの評価、確認試験を通じて審査します[4]。
国連規則は、2026年7月30日付の国連事務総長の通知から6か月以内に、通知時の締約国の5分の1を超える反対がなければ採択され、採択の日に発効します。反対した締約国や、当初から適用しない旨を通知した締約国には効力が及びません[5]。国土交通省は、発効を2027年1月頃と見込んでいます[6]。
各国は国連規則を採用するかを個別に判断し、採用する場合は国内法の形で取り入れます。日本では、道路運送車両の保安基準(保安基準)や道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(細目告示)、装置型式指定規則等の改正によって取り込まれます[7]。レベル3の国連規則(第157号)の前例は、次のとおりです。
つまり、国内での要件は、国連規則の発効ではなく、保安基準等の改正の内容によって決まります。したがって、具体的な適用関係は、今後の保安基準等の改正資料を確認して判断する必要があります。
現在、自動運行装置は細目告示72条の2の基準に適合する必要があります[12]。そして、人または物の運送サービスに用いるレベル4の車両については、国土交通省の「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」が安全確保の考え方を示しています。
同ガイドラインは2025年9月に改訂され、シナリオを用いた安全性評価や、「有能で注意深い人間ドライバー」と同等以上の安全性を一つの水準とする考え方が示されました[13]。
また、運転者席等のない車両は、基準緩和の認定を個別に受ける必要があり、国土交通省の検討会は保安基準自体の見直しへ進む方針を打ち出しています[14]。
同検討会は、自動運行装置の保安基準を改正する場合、新車には適切な猶予期間を設けて適合を求め、既に使われている車両への適用は、改正の内容に応じて個別に判断するという考え方も示しています[15]。販売後の車両を抱える企業にとっては、改正後の基準がどの範囲に及ぶかが重要となります。
新基準のもとでは、車両の性能に加え、安全管理体制や市場投入後の監視・報告を含む審査への対応が重要になります。例えば、新たな国連規則は、報告対象の事象を定め、次の報告を求めています。
報告の対象には、事象の発生時にADSが作動していた場合だけでなく、発生前30秒以内に作動していた場合も含まれます[16]。検討会も、使用過程でのモニタリングの結果を当局に報告する仕組みを示しています[17]。
保安基準等の改正は、原則として案の段階で意見公募にかけられます[18]。開発企業としては、次の点に留意が必要です。
今回の国際基準は、自動運転車の安全性を、車両の性能だけでなく、メーカーの体制と市場投入後の運用まで含めて示すことを求めるものです。国内の基準は、今後の改正を通じて具体化されていきます。
開発企業にとっては、国内基準の確定を待つのではなく、新たな国際基準の内容も踏まえ、早期に体制整備の検討を開始しておくことが、円滑な市場投入につながるといえます。
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[1] UNECE「ECE/TRANS/WP.29/2026/137」(国連規則案。規則番号の185は暫定)、「ECE/TRANS/180/Add.26」(UN GTR No.26)
[2] 国土交通省報道発表資料 別添2「1998年協定及び1958年協定の概要」
[3] 前掲注1の国連規則案 序文1項〜3項、国土交通省「日本が主導した世界初の自動運転システムの国際基準が合意」(2026年6月26日)別添1
[4] 前掲注1の国連規則案 序文4項・5項
[5] 国際連合事務総長寄託通知「C.N.288.2026」(2026年7月30日)
[6] 国土交通省「日本が主導した世界初の自動運転システムの国際基準が合意 ~安全な自動運転車の開発が加速~」(2026年6月26日)
[7] 戸嶋浩二=佐藤典仁=秋田顕精編著『自動運転・MaaSビジネスの法務〔第2版〕』(中央経済社、2023年)88頁
[8] United Nations Treaty Collection「United Nations Regulation No. 157」
[9] 国土交通省「自動運転技術に関する国際基準等を導入します」(2020年12月25日)、同「別紙」
[10] 前掲注7・88頁
[11] 国土交通省「大型車の衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)の基準を強化します~道路運送車両の保安基準等及び保安基準の細目を定める告示等の一部改正について~」(2023年1月4日)、同「別紙」
[12] 国土交通省「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(2023年9月22日時点)第72条の2 (指定自動車等以外の自動車の新規検査等には、同告示150条の2が適用されます。)
[13] 国土交通省物流・自動車局「自動運転車の安全確保に関するガイドライン」(2025年9月30日改訂(第2版))7〜9頁
[14] 国土交通省「自動運転車の安全性能確保策に関する検討会報告書」(2025年3月)13頁
[15] 前掲注14の報告書 18頁
[16] 前掲注1の国連規則案 7.4項(市場投入後の安全。7.4.3項・7.4.6項・7.4.7.1項・7.4.8.1項・7.4.9.1項・7.4.9.3項)、附属書3。
[17] 前掲注14の報告書 19頁
[18] 行政手続法2条8号イ・39条1項・4項