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スタートアップの競争戦略における知的財産とは?業界構造・参入障壁・交渉力への影響を解説

多くのスタートアップ経営者は、知的財産が重要であることは理解しています。しかし、資金調達、プロダクト開発、営業、提携交渉といった仕事に追われ、知的財産は、いずれ対応すべきものとして後回しにされがちです。これは、知的財産を単に法務手続として見てしまっているためと考えられます。確かに、特許出願や商標出願を行っても、直ちに売上が増加するわけではなく、顧客がその場で評価するものでもありません。しかし、競争戦略の観点から見ると、知的財産は競争の条件を整えるための重要な手段です。競争戦略においては、利益を決める第一要因は業界構造です。そして、知的財産は、その業界構造に働きかけることが可能です。本記事では、業界構造に与える知的財産の影響を整理して解説します。

スタートアップの競争戦略における知的財産とは?業界構造・参入障壁・交渉力への影響を解説
STARTUP-LAW
PROFILE
Hirotaka Hokkyo

Patent Attorney

Hirotaka Hokkyo

Toshihiko Adachi graduated from the University of Electro-Communications in 2002 and graduated from University of Tsukuba in 2012. He started his career as a patent attorney (Japan) in 2017. Before being a patent attorney, he used to be a patent examiner at Janan Patent Office. He joined ZeLo in 2024. He handles prosecutions of patents in various kinds of technical fields.

企業の競争環境を決める要因とは?

業界の収益性に影響する5つの力

自社の競争環境を考えるとき、ともすればライバル企業からの影響ばかりに意識が向きがちです。しかしながら、自社の競争環境に影響するのは、ライバル企業の存在ばかりではありません。

経営学者のマイケル・ポーター氏は、自社の競争戦略を作る際の決め手として、以下のように説きました[1]

  1. 企業を、その環境との関係で見ることが最も重要である。
  2. その環境の中心になるのは、企業が競争を仕掛けたり仕掛けられたりしている業界の構造である。
  3. 業界に作用する5つの力が、業界の収益率を決める(5つの力が強いほど、業界の収益率は悪化する)。

この5つの力とは、(1)新規参入の脅威、(2)代替の脅威、(3)買い手の交渉力、(4)売り手の交渉力、(5)競争業者間の敵対関係、の5つです。これは、いわゆる5フォースというフレームワークにて広く知られています(下記図1)。

5つの力は、それぞれ以下のように説明されます。

新規参入の脅威

参入が容易な市場であれば、その市場には次々と模倣者が入ってきやすくなります。

新規参入者は、既存企業より有利なコスト構造、流通構造、顧客体験等を持ち込み、既存企業の価格、顧客基盤等を崩していく場合があります。このような場合、既存企業の利益が削られていきます。

例えば、インターネット時代になってから、書籍小売業界にはネット書店の新規参入者が台頭し、既存の店舗型書店の利益は削られていきました。

代替の脅威

同じ顧客ニーズを別の仕組みや製品形態で満たす選択肢が現れると、自社は、価格や条件を顧客に比較されることとなります。結果、競争が激化します。

例えば、かつてデジタルカメラという商品が存在しましたが、スマートフォンという代替品が登場し、スマートフォンがデジタルカメラ並みのカメラ機能を備えるようになりました。そのため、デジタルカメラは一眼レフ等の高級機を除き、市場から撤退を余儀なくされました。

買い手の交渉力

自社の商品やサービスの買い手が、自社よりも強い立場にあれば、買い手は売り手に対して値下げを求めてきます。

業界の中に売り手が多数いて、しかも一社一社の規模や影響力が小さく、なおかつ、買い手が少数の大口顧客に集中している場合などは、売り手は買い手に対して強く出にくい状態となります。その結果、自社の収益が削られやすくなります。

例えば、米国の自動車部品大手サプライヤーであるCollins & Aikmanは、自動車大手ビッグスリー(General Motors(GM)、Ford Motor Company(Ford)、Chryslerからの値下げ圧力にさらされ、2000年代中盤に破産に至りました。

売り手の交渉力

重要部材、プラットフォーム、データ源等々の売り手からそれらの供給物を購入し、その供給物を利用して自社が商品やサービスを提供している場合があります。このような場合において、売り手の供給物が買い手にとって不可欠であり、他の売り手が少ない/存在しないとき、売り手の交渉力が強くなります。

売り手の交渉力が強いと、売り手は高値での購入を迫ってきます。結果、自社の収益が削られていきます。

例えば、1990年代、OSの売り手のMicrosoft Corporation(Microsoft)は、OS価格を引き上げることでPCメーカーの収益を侵食しました。

競争業者間の敵対関係

業界内に既存企業が多く、自社と競合関係にあり、かつ、他社との差異化が弱い場合、既存企業間の競争は、値下げ、新製品投入、広告合戦、サービス競争などの形で現れます。そこから価格競争が起きやすくなり、結果として自社の収益が削られていきます。

例えば、米航空会社のUnited Airlines, Inc.(United)、Delta Air Lines, Inc.(Delta)およびNorthwest Airlines, Inc.(Northwest)は、航空会社間での厳しい競争による価格競争に巻き込まれたことあり、破産に至りました。(Unitedは2002年、DeltaおよびNorthwestは2005年。)

収益は製品力だけでは決まらない―業界構造と知的財産の関係

企業の収益性は、しばしば商品・サービス力や営業力の問題として語られます。しかし、5フォースの考えによれば、企業の収益性を第一義的に決めるのは、その企業の商品・サービス力ではありません。むしろ、その企業が属する業界の構造、すなわちその業界に作用する5つの力である、と理解されます。

そして、その5つの力のそれぞれの大小は、業界ごとに異なります。このことから、業界の特性的に、そもそも収益を上げやすい業界と、上げにくい業界がある、ということが分かります。

したがって、自社が優れた製品を持っていても、例えば、自社の属する業界へ他社が新規参入することが容易であれば、製品は早期に模倣されやすく、競合品が現れやすくなります。その結果、自社製品は価格競争に巻き込まれ、値下げ圧力にさらされ、収益が削られてしまうことになるのです。

以上説明したとおり、5つの力が主に業界の収益性を決めていますが、知的財産は、その5つの力のいずれかに作用することで、業界の収益性を変え得る力を持っています。

以下に、知的財産が5つの力に影響を及ぼし得る例を解説します。

知的財産は参入障壁を築き、競争の時間をコントロールする

知的財産は、参入障壁になり得る

知的財産は、5フォースでいう「(1)新規参入の脅威」に最も直接的に効き得ます[2][3]

特許、営業秘密、商標(ブランド)、ノウハウは、いずれも模倣者の参入コストを引き上げる可能性を持っています。ただし、知的財産は、ただ所有しているだけでは余り意味を持ち得ません。

知的財産は、事業の利益の源泉と結び付き、かつ、模倣者が模倣しようとしたときに避けて通れない要所に配置されているときに、大きな意味を持ち得ます。このような知的財産には、競争条件を変えられる可能性があります。

これに対し、回避容易な特許、他社技術との差異化に結びつかない特許、使用をしていない/する予定の無い商標、社内に散在して体系化されていないノウハウは、実際の参入障壁にはなりにくいのです。

知的財産は、代替の脅威に作用し得る

知的財産は、5フォースでいう「(2)代替の脅威」にも効く場合があります。

例えば、ある商品の代替品の性能を顧客が求める性能レベルに至らせるために、その代替品に特定の重要技術を採用せざるを得ない場合、その重要技術が特許で押さえられていると、代替品メーカーはその重要技術を回避するか、ライセンスを受けるかを考えることになります。

このような場合に、回避設計すると性能が落ちる、回避設計の開発費が重い、ライセンスを受けると採算が悪い、等の見込みであれば、代替品を作ろうという代替品メーカーの動機付けが弱くなります。結果、代替の脅威を抑えることにつながります。

知的財産は、時間を設計できる

知的財産は、参入障壁になり得る・代替の脅威に作用し得るだけでなく、時間を設計できる可能性も秘めています。

特許権には、存続期間があります。自社の商標に信用が化体しブランド化している場合に、競合が他の商標の使用を開始しても、商標に信用が化体しブランド化するには時間を要します。

つまり、知的財産によって競争相手を永遠にブロックすることは叶いませんが、競争相手が追いつくまでの時間を稼ぐことはできます。競争相手が追いつくまで間に、自社は、顧客基盤、流通、標準、補完サービス、組織能力等を積み上げることができるのです。

以上から、スタートアップ経営者が立てるべき問いは、『特許や商標を取得するべきか』ではなく、『自社のどの優位を、どの競争相手に対して、どの程度の期間、どのような手段で守るのか』であるべきです。知的財産についての議論は、ここから始まるのです。

知的財産は差別化を維持し、交渉力を高める

知的財産は、買い手の交渉力に作用し得る

知的財産は、5フォースでいう「(3)買い手の交渉力」に作用する場合があります。

例えば、スタートアップが大企業の顧客と向き合う場面(自社が商品やサービスの売り手で、自社の商品やサービスの買い手が大企業の顧客の場面)では、大企業とスタートアップのパワーバランスから、価格交渉力の主導権は顧客側(大企業側)が握ることが多くあります。

特に、スタートアップが売り込む商品やサービスが、他の商品やサービスと代替可能な場合、顧客は値下げ圧力をかけてくる可能性が高いと想定されます。

しかし、スタートアップが売り込む技術が知的財産で保護され、模倣困難であるとき、交渉は単なる価格比較から離れやすくなります。

知的財産は、売り手の交渉力に作用し得る

知的財産は、5フォースでいう「(4)売り手の交渉力」に作用する場合があります。

例えば、スタートアップが原料、部材、基盤技術、クラウド環境、データ、製造委託先等の調達先と向き合う場面(自社が調達品の買い手で、調達先が調達品の売り手の場面)では、自社がその調達先に強く依存し、その調達先から調達するより他に方法が無いとき、売り手の交渉力が強くなります(自社の交渉力が弱くなります)。

しかし、自社がその調達先に依存しなくて済む代替可能な設計等の技術を有していれば、調達先への依存を弱める(つまり売り手の交渉力を弱める)ことができます。そして、その代替可能な設計等の技術を知的財産で押さえておけば、その技術を他社が採用することを排除できます。

その結果、自社のみが、その技術を使用可能という状況を実現できます。これにより、自社の調達先への依存を弱める(売り手の交渉力を弱める)ことを確実にし得るのです。

知的財産は、共同開発先、資本提携先との交渉力に作用し得る

5フォースの観点からは離れますが、知的財産は、共同開発先や資本提携先との交渉力にも作用し得ます。

独自技術、独自データ、独自設計等を持たない企業は、交渉のたびに相手の条件を飲まざるを得ない状況に陥りやすいといえます。

他方、自社が共同開発先や資本提携先にとって必要な資産を所有しており、それが知的財産として保護されている場合、共同開発、資本提携、ライセンス、M&A等において好条件を引き出すことにつながります。

つまり、知的財産は経営の交渉カードといえるのです。

知的財産は、競争の激化を抑制し得る

既存の競争業者が商品やサービスを模倣し合い、差異が失われて同質化しやすい環境にあると、顧客には各社の違いが見えにくくなります。そのため、商品やサービスは価格競争となりやすく、競争業者間の敵対関係は激化しやすくなります。

例えば、特許権によって独自技術の模倣を抑えたり、意匠権によって外観の模倣を抑えたりすることで、競争業者は、真正面からの競争を避けて、それぞれ独自の位置取りがしやすくなります。

その結果、顧客から見て各社の商品やサービスが異なるものとして認識されれば、商品やサービスが価格競争に陥ることを回避できます。

スタートアップの知的財産戦略―経営者が問うべき4つの視点

以上見てきたとおり、知的財産は、5つの力のいずれかに作用することで、業界の収益性を変え得る力を持っています。

ただし、上記で説明したとおり、5つの力のそれぞれの大小は、業界ごとに異なります。したがって、知的財産が5つの力のいずれに効果的に作用するのか/しないのかも、業界ごとに異なってきます。

そのため、スタートアップ経営者は、知的財産を単に法務手続として見るのではなく、以下を問うべきです。

  1. 自社はどこで戦っているのか
  2. 戦いの場はどのような業界特性(5フォースの各力の大小)を持っているか
  3. その業界特性を踏まえて、自社はどのような戦略で戦うのか(自社の利益の源泉は何か)
  4. その業界特性と自社戦略を踏まえて、どのような知的財産をどの力に及ぼすのが効果的か

これらの問いに答えていくことで、知的財産が自社の武器になるはずです。

競争戦略として知的財産を活用し、利益を守るために

知的財産は、業界への参入条件を変え、模倣速度を落とし、交渉力を改善し、または敵対関係の激化を抑制することで、自社の利益が残る構造を作る武器になり得ます。

知的財産をこのように眺めると、知的財産は、法務論点である前に、競争戦略の論点であるといえます。

つまり、スタートアップ経営者は、単に「何を出願すべきか」を問うのではなく、上記の4つの問いを問うたうえで、知的財産を、競争の条件を整え利益を守るための道具と考えるべきなのです。そして、スタートアップ経営者は、創業当初から知的財産の創出・保護・活用計画を立案し、事業計画に含めることが好ましいのです。

法律事務所ZeLoには、お客様の事業の特性を理解しながら、知財活動を伴走した経験のある弁護士および弁理士が在籍しています。法務・知財のプロフェッショナルとして、貴社の事業に資する知的財産の設計をサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

注釈

[1]出典:M.E.ポーター『競争の戦略[新訂版]』ダイヤモンド社、第42刷 p.17

[2]同 p.26

[3]同 p.31

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