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【弁護士が解説】MaaSの概要と日本における法規制の全体像

「自動車業界は『100年に一度の大変革の時代』に入っている」-近年、そう言われるようになった自動車業界においてキーワードとなるのが「MaaS」(Mobility as a Service)です。2023年7月には電動キックボードに関する新たな交通ルール(改正道路交通法)が施行される等、今では毎日のようにMaaSに関するニュースを目にするようになりました。そこで、法律事務所ZeLoでは、国土交通省自動車局にて、自動運転やMaaSに関するルール整備を含め自動車行政に広く従事した経験を持つ弁護士を中心に、ビジネス発展の役に立ちたいという思いから、注目を集めるMaaSの法規制を様々な角度から解説する連載企画を始めました。第1回目の本記事では、「MaaS」の基本的概念等について解説します。

【弁護士が解説】MaaSの概要と日本における法規制の全体像
MAAS
PROFILE
Keita Mashita

Attorney admitted in Japan

Keita Mashita

Graduated from Nagoya University (LL.B, 2016), passed Japan Bar Exam (Registered in 2018). Experience at Mori Hamada & Matsumoto (2019-2023), seconded to Road Transport Bureau of the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism (Passenger Transport Division and Accident Compensation Policy Office) (2021-2023), and joined ZeLo (2023-). Main practice areas include M&A, startup law, regulations on automobiles, mobility and transportation, dispute resolution, and public affairs.

Attorney admitted in Japan

Yutaka Ichikawa

MaaSとは

MaaS(マース)とは、「Mobility as a Service」の略称です。直訳すると、「サービスとしてのモビリティ」という意味ですが、一般的には、「様々な種類の交通サービス及び交通関連サービスを、単一かつ包括的なオンデマンド移動サービスとして統合すること」と解されています[1]。2006年にフィンランドでMaaS構想が誕生し、2016年にMaaS Global社が世界初のMaaSアプリ「Whim」をリリースしたことにより、こうした概念が世界中に急速に広まりました。

国土交通省も、このような解釈を踏まえ、MaaSについて、「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。」と説明しています [2]。

出典:国土交通省「日本版MaaSの推進

上記のような意味でのMaaSは「マルチモーダルサービス」とも言われます(いわゆる「狭義のMaaS」)。また、MaaSは、広く“IoTやAIを活用した新しいモビリティサービス”全般を意味することもあります(いわゆる「広義のMaaS」) [3]。広義のMaaSには、自動運転を活用した運送サービスのほか、以下のようにカーシェアやデマンド交通(予約型の運行形態の輸送サービス)等が含まれます。

出典:経済産業省「「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」中間整理」(2018年10月17日公表)7頁

以下では、主に狭義のMaaS(マルチモーダルサービス)を念頭において解説します。

MaaSのレベル分け

MaaSは、統合対象に応じて、下表のとおり、0から4までの5段階にレベル分けされています。各地域でのMaaSの進展度を測るうえで、これらのレベル分けが参考になります。

レベル詳細
4<社会目標の統合>
都市計画等の政策レベルで官民が一体となって推進されている状態
3<サービス提供の統合>
各交通サービスが定額制等のパッケージとして利用できる状態
2<予約・支払の統合>
各交通サービスの検索、予約、支払が一括してできる状態
1<情報の統合>
各交通サービスの料金、時間、距離等の情報を一括して検索できる状態
0<統合なし>
各交通サービスが個別・単独で提供されている状態
Jana Sochorほか「A topological approach to Mobility as a Service: A proposed tool for understanding requirements and effects, and for aiding the integration of societal goals」を参考に筆者にて作成

日本においては、株式会社ナビタイムジャパンが提供するNAVITIMEやGoogleが提供するGoogleマップ等の経路検索サービスが既に普及しており、レベル1については実現している状態といえます。他方で、レベル2以降については、現状、全国的に普及しているアプリ等は存在せず、一部地域で利用可能なMaaSアプリケーションの提供(例えば、トヨタフィナンシャルサービス株式会社が提供し、愛知県等で利用可能な「my route」等)等に留まっています[4] 。

MaaSに関する政府動向

上記のとおり、MaaSは移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段であることから、政府としてもその普及を推進しています。

具体的には、経済産業省・国土交通省において、先駆的に新しいモビリティサービスの社会実装に挑戦する地域の提案を募集し、それぞれの対象となる地域を選定し、移動課題の解決や地域経済の活性化に向けた取組を推進するプロジェクトである「スマートモビリティチャレジ」が2019年度から実施されています。スマートモビリティチャレンジは、経済産業省の「地域新MaaS創出推進事業」及び国土交通省の「日本版MaaS推進・支援事業」によって構成されており、2023年度には、両事業合わせて14事業(地域)が選定されました [5]。

また、直近の政府文書(閣議決定文書)においても、以下のとおり、自動運転等と並んでMaaSに関する記載がなされており、政府による更なる取組が期待されます。

<経済財政運営と改革の基本方針 2023 について(2023年6月16日閣議決定)(いわゆる骨太方針)[6] >

第2章 新しい資本主義の加速
5.地域・中小企業の活性化
(「シームレスな拠点連結型国土」の構築と交通の「リ・デザイン」)
(前略)地域公共交通については、改正法129の円滑な施行等あらゆる政策ツールを総動員するとともに、国の執行体制の強化を図る。MaaS等の交通DX・GX、地域経営における連携強化、ローカル鉄道の再構築130、地域の路線バスの活性化など「リ・デザイン」の取組を加速化するとともに、デジタル田園都市国家構想の実現に資する幹線鉄道ネットワークの地域の実情に応じた高機能化・サービスの向上、ラストワンマイルの移動手段であるタクシーや自家用有償旅客運送に関する制度・運用の改善等を通じて、豊かな暮らしのための交通を実現する。(後略)

129 地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律(令和5年法律第18号)。
130 上下分離を含めた地方自治体と鉄道事業者等の連携・協働。

<新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版(2023年6月16日閣議決定)[7]>

Ⅷ.経済社会の多極化
1.デジタル田園都市国家構想の実現
(2)デジタル田園都市国家を支える地域交通、ヘルスケア、教育の整備
①自動運転の社会実装
技術が成熟しつつある低速・定路線のバス等から速やかに自動運転の社会実装を進める。2025 年目途で全都道府県での自動運転の社会実験を実現すべく、官民連携で導入に取り組む事例を後押しするとともに、MaaS(Mobility as a Service)の社会実装を推進する。(後略)

<成長戦略等のフォローアップ(2023年6月16日閣議決定)[8]>

Ⅳ.「経済社会の多極化」関連のフォローアップ
1.「デジタル田園都市国家構想の推進」関連
(地域交通)
・改正地域交通法に基づき、ローカル鉄道の再構築に向けた協議会の設置や実証の実施、バス等のエリア一括での協定に基づく運行の実施等を着実に行う。また、MaaS、自動運転技術の活用等のほか、地域医療等との連携も進めながら、地域公共交通ネットワークのリ・デザインを加速する

MaaSに関する法規制の全体像

MaaSに関する法規制は、①MaaSオペレーター(アプリ等の個々の交通サービス事業者が参加するプラットフォームを運営する事業者をいいます。以下同じです。)に対する法規制と、②プラットフォームに参加する個々の交通サービス事業者に対する法規制の大きく2種類に分けることができます。それぞれの法規制の概要は以下のとおりです。

① MaaSオペレーターに対する法規制

  • 自ら交通サービスを提供するわけではないため、各交通モードに係る事業法等が直接適用されるわけではない。他方で、プラットフォームの運営者として利用者・交通サービス事業者双方から一定の情報を取得した上で利用者と各交通サービス事業者をつなぐ役割を担うことから、様々な法規制が適用され得る。
  • 例えば、利用者の個人情報(決済情報や移動情報等が含まれ得る。)の取得及び利用については、個人情報保護法が適用される。
  • 各交通サービスの予約・決済まで提供する場合には、旅行業法が適用され、旅行業者としての登録が必要となる可能性がある。
  • プラットフォーム上の各交通サービス事業者間で価格等のデータが共有される場合には、独占禁止法に基づくカルテル規制等に留意する必要がある。また、規約変更や手数料の値上げ等に際しては、同法に基づく優越的地位の濫用規制等に留意する必要がある。

② 個々の交通サービス事業者に対する法規制

  • 交通モード(自動車輸送、鉄道輸送、航空輸送、海上輸送等)ごとに事業法等による様々な規制が存在する。
  • その中でも中核的な交通モードである自動車輸送に関する法規制として、道路運送法(バス・タクシー事業やレンタカー・カーシェア事業を規制)や貨物自動車運送事業法(トラック事業を規制)が重要。
  • 事業法の存在しないシェアサイクルや超小型モビリティ(電動キックボード等)のシェアサービスについても、道路交通法や道路運送車両法等の関連規制に留意する必要がある。

MaaSに関するご相談は弁護士へ

MaaSビジネスには、上記のとおり、多種多様な法規制が関係します。特に、個々の交通サービスの提供を実際に担うわけではないMaaSオペレーターに対しても旅行業法等の規制が適用され得る(場合によっては、交通事故が起きた場合等に旅行業法等に基づく責任を問われ得る)点には留意が必要です。

法律事務所ZeLoは、訴訟・紛争解決などの伝統的な企業法務領域はもちろんのこと、web3・AIなどの最先端領域や、新しいビジネスモデルに関する支援に強みを持っています。

特に、MaaS分野については、国土交通省自動車局への出向経験を有し、自動車/モビリティ関連規制に深く精通した弁護士による専門的なアドバイスを提供しています。

個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。


[1]MaaS構築に向けた共通基盤を作り出す官民連携団体である「MaaS Alliance」ウェブサイト「What is MaaS?」ページ参照

[2]国土交通省ウェブサイト「日本版MaaSの推進

[3]経済産業省「「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」中間整理」(2018年10月17日公表)4頁、6頁。

[4]なお、MaaSアプリケーションは活用されていないものの、都市部を中心に複数のモビリティに対する運賃の支払いが可能な交通系ICカード(Suica、PASMO等)が普及しており、1つのカードで様々なモビリティの支払いが可能という点でレベル2の一部が実現されているという見方や、一日乗車券など、有効期限内であれば定額で鉄道やバスなどが乗り放題になる仕組みが既に導入されているという点でレベル3の一部が実現されているという見方もあります(「MaaS の現状と、わが国で MaaS を導入する上での重要な2つの視点 ~地域ごとの“MaaS+”~」(みずほ情報総研レポートvol.18 2019)3頁)。

[5]「スマートモビリティチャレンジ」ウェブサイト

[6]経済財政運営と改革の基本方針 2023 について(2023年6月16日閣議決定)

[7]新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版(2023年6月16日閣議決定)

[8]成長戦略等のフォローアップ(2023年6月16日閣議決定)

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