【事例あり】職場におけるパワハラで企業が雇用管理上講ずべき措置とは?労働施策総合推進法(パワハラ防止法)改正で義務付けられた制度構築と運用のポイント
Attorney admitted in Japan
Yusuke Sawada
食品に金属片や生物等が混入し、これを消費者に販売、提供してしまったために問題となるケースは定期的に発生しており、ニュースなどでもしばしば目にします。特に今日においてはSNSでの拡散等を通じて、事業者のレピュテーションへの影響も深刻となる場合もあり、十分な対策が必要です。本記事では、食品等事業者(ここでは飲食店営業者を主に想定します。)が異物混入を生じさせた場合における法的責任と対応について解説するとともに、異物混入を未然に防止するための対策についても紹介します。
Akihiro Saotome is a Japanese qualified lawyer specialized in general corporate governance, as well as financial regulation and data protection. He graduated from the University of Hitotsubashi School of Law in 2014 and has been admitted to the Tokyo Bar Association in 2015. He started his career as a lawyer by joining Nippon Life Insurance Company in 2016. After graduating the University of Michigan Law School in 2021, he joined ZeLo in 2022.
目次
食品衛生法第6条は、以下のとおり、異物が混入した食品等の販売等を禁止しています。
第六条 次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
食品衛生法第6条
一から三 省略
四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。
本条第4号の「異物」とは、「本来飲食の用に供されるものとして認識されていないものであって、当該物質を摂取することにより、主として物理的な作用によって健康上の危害を生じさせる可能性のあるものである」と解されています。
「異物の混入」に該当しない場合であっても、「その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの」に該当する事情があれば、本号により当該食品の販売等が禁止されます。結局、「人の健康を損なうおそれ」の該当性が重要となりますが、抽象的な文言である一方、後述のとおりリコール時の届出判断にも影響を及ぼすものであり、実際の判断は難しいケースも多いといえます。
本条に違反した場合、営業者に対して、①廃棄命令、②危害除去のために必要な処置(回収命令・改善命令等)、③許可取消、④営業禁停止、⑤名称等の公表が行政処分として課されるおそれがあります(食品衛生法第59条第1項、第60条第1項、第69条)。また、故意に異物混入をした場合であれば、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に科されるおそれもあります(同法第81条第1項第1号)。
なお、2018年の法改正により(施行日:2021年6月1日)、食品衛生法に違反する、またそのおそれがある食品を自主回収(リコール)するときには、原則として、遅滞なく、回収に着手した旨及び回収の状況について都道府県知事に届出をすることが義務付けられるようになったため(同法第58条第1項)、異物混入の発生によってリコールする場合にも当該届出が必要になります。
食品を「製造又は加工」する場合、当該食品は製造物責任法の「製造物」(同法第2条第1項)に該当します。なお、食品の加工については、原材料に加熱、味付け等を行ってこれに新しい属性ないし価値を付加したといえるほどに人の手が加えられていれば、製造物責任法上の「加工」(同法第2条第1項)に該当するとされておりますので(東京高判平成17年1月26日)、製造物責任法の対象となる食品の範囲は極めて広範囲です。
そして、食品への異物混入により、当該食品が通常有すべき安全性を欠いていたとして、「欠陥」(同法第2条第2項)が存在し、かつ、他人の生命、身体を侵害した場合には、製造業者は当該損害を賠償する責任を負うところ(同法第3条)、当該責任は、製造業者の過失を問わない無過失責任とされています。
よって、異物混入が発生した場合、製造業者に当たる食品等事業者は、製造物責任法による損害賠償責任を負う可能性があります。
また、製造業者(飲食店を含みます。)及び当該製造物(食品)の供給を受ける当事者間においては、当該食品に関して主として口頭により契約を締結しているところ、異物が混入している食品の提供は、「債務の本旨に従った履行をしないとき」(民法第415条第1項)に該当するものといえ、当該製造業者は、債務不履行に基づく損害賠償責任等を負う可能性もあります。
以上のような法的責任を負う可能性があるため、食品等事業者は、異物混入が発覚した場合、原因究明及び再発防止策の策定と並行して、被害、損害を可能な限り低減させるべく、消費者、保健所を含む行政等との丁寧な対応・コミュニケーションが求められることになります。
次に、異物混入を未然に防止する対策について見ていきます。
HACCPとは、食品等事業者自らが異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法をいいます。
日本では、2021年6月1日より、原則として、全ての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理をすることを義務付けられました(食品衛生法第51条、食品衛生法施行規則第 66条の2)。
HACCPの制度は、厚生労働省公表の以下図のとおり、二つに分かれています。大規模事業者等に対しては、①HACCPに基づく衛生管理、小規模な営業者等に対しては、②HACCPの考え方を取り入れた衛生管理が求められています。
①は、食品等事業者自らが、使用する原材料や製造方法等に応じ、衛生管理計画を作成し、従業員に周知徹底を図るとともに衛生管理の実施状況を記録、保存する等の対応を行う必要がありますが、②は、各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行うことで足りるという違いがあります。
飲食店営業者は、基本的には②の方法を実施することで足ります。
HACCPに沿った衛生管理は、製造工程を継続的に監視し記録を残すという管理方法であり、最終製品の一部分を抜き取って検査する従来の管理方法と比べて、食品への異物混入のリスクを低減することが可能になったといえます。したがって、食品等事業者は、HACCPに沿った衛生管理の仕組みを構築し、適切に実施することで、一定の異物混入防止対策が可能となります。
HACCPに沿った衛生管理は、意図しない食品の不適切な取扱い(エラー)を防止することが目的であり、誰かが不適切な取扱いを意図的に行った場合については防止することができません。意図的な異物混入から食品を守るために重要なことが、食品防御の対応です。
適切な食品防御態勢が整っていなければ、事件が起きた際に、混入経路、混入の対象となった食品等を迅速に特定することは困難であり、被害・損失が拡大化しやすく、レピュテーションへの影響も懸念されます。例えば、2013年に生じた製造工場における冷凍食品への意図的な異物(農薬)混入事件において、会社は当該工場製品の全品回収や外部有識者による第三者検証委員会の発足等の対応を行うなど、当該事件によって被った損害や信頼回復のためのコストは著しいものといえます。
具体的な食品防御の手法として、農林水産省は、パンフレット「自社製品を守る、+αの食品防御」(最終閲覧日:2023年6月6日)にて、従業員満足の向上につながる労務管理、防犯対策、トップマネジメントによる食品防御の必要性の認識、違和感に気付ける職場づくり等を示しており、参考になります。
本記事では、食品等事業者が異物混入を生じさせた場合を例にとり、食品等事業者に関する法的責任、未然防止策について、2021年6月の改正食品衛生法の内容も踏まえて解説しました。
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