専門性を強みとして働く。幅広い専門性を掛け合わせた労務のスペシャリストとして
Labor and Social Security Attorney
Ikuro Ando
Labor and Social Security Attorney
Chisato Kono
前回、パラリーガルの高井さんより弁護士なのにエンジニアで文学も好きとご紹介いただきました天野文雄です。小学生から小説にハマり、プログラミングは中学生から始めました。法律を学んだのは大学生からです。したがって、文学、哲学やソフトウェアが好きな人がなぜか弁護士になったといったほうが正しいです。近頃取り扱っている業務は、ブロックチェーン、フィンテック、システム開発に関連したものが少なくないです。文学や哲学に関連した仕事があったら携わってみたいものですが、まだあまり聞いたことがありません。ソフトウェアはお金になるが、文学や哲学はすぐにはお金にならないのだと感じたりします。私の本棚は主に①小説、②学術書、③法律書で構成されています。といっても、図書館で借りて読んだ本も多く本棚に現存しないものもあります。図書館は上手に活用すれば何でも読めますので、一市民としてこれを使わない手はありません。ただし、本によって向き不向きはあります。いつか図書館活用ガイドも書いてみたいですね。さて、今回は小説を3冊、学術書を3冊、それから趣味の本を1冊だけ紹介します。
目次
私の中二病はここから。謎めいた殺人事件が起こり、探偵役が謎を解決する、いわゆるミステリです。
森博嗣という作家の特徴はいわゆる「理系」的な合理主義にあります。ミステリには必ず、解かれるべき謎であるトリックがありますから、合理主義とは相性がよいのです。合理的な仮定から飛び出す意外な結論に注目です。さりとて、作中に意味なしジョークを混ぜてみたり、茶目っ気があるのも楽しいところです。
中学生当時、私は森博嗣を意識して日常生活を送っていました。いまだに私の中で「かっこいい」とは分析、設計とほんのすこしの茶目っ気を意味します。
すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&Mシリーズ (講談社文庫)
エンジニアっぽい趣味の小説を一冊。円城塔は研究者、エンジニア出身の作家です。実験小説のような、SFのようななんとも形容しがたい小説を書きます。
この本は、帯を裁断すると豆本になったり、多色刷りで文字色自体に意味があったり、SFかと思いきや古典を引用してきたり、形式も内容もめちゃくちゃしてくるので、ついていくので必死です。知的ジェットコースターを求めている方にぴったりです。
普通、SFは科学に基づく設定を通じて、異なった世界における社会や個人のありかたを描くものです。しかし、円城塔はSF的設定を使って徹底的にテクストそのものと向き合おうとする点が独特でしょう。そのために、帯でも多色刷りでも古典でも総動員するのが円城塔の姿勢です。
後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)
唯一のエモ要素です。
ネタバレを避けるためにぼかしますが、特殊な設定のもとでこそ、人生の悲喜こもごもが輝く筆致となっています。カズオ・イシグロは人生の縮図を描き出すのが非常にうまい。さすがノーベル賞作家ですね。
加えてテクスト的に面白いのが、(ネタバレのためぼかしますが)ある重大な事実にまつわるストーリーテリングです。この小説を読むと、読者はその事実をなんとなく知っているが、いつ知ったのかもわからないし、詳細もわからないという非常に不思議な体験をします。中盤頃に、その事実が登場人物から明示的に語られる瞬間があるのですが、その瞬間に、既に半ば知っている事実に静かな衝撃を受けるという不思議な体験をすることになります。この部分だけで非常に興味深いテクストであり、読む価値があるといえるでしょう。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
小説編はここまで。次は学術書編です。
高校生当時、哲学の扉を叩いた一冊です。カントは非常に悪文で有名で、純粋理性批判もその例に漏れず、大変読みづらかったです。ただ、光文社新書の中山元訳は高校生にも読めました。かなり長大な解説もついて一粒で二度おいしい一冊なのですが、第7分冊まであるので、全部買うと7000円近くします。
主なテーマは認識論(人間がどのように世界を認識しているか)です。アプリオリ/アポステリオリ、分析/総合のような基礎的な概念から始まり、表象と物自体の区別、感性・知性(中山訳以外では悟性)・理性の三段階の枠組み等、ジャーゴンのオンパレードで複雑ですが、丁寧に読めば大まかな言いたいことを掴むことはできます。半年近くかかって通読したような記憶があります。今、哲学に再入門するとしたら、いきなりカントを読むような無謀なことはしません。
ともかく、哲学の基本的な概念や考え方を産んだ一冊であり、哲学を学ぶ上では避けて通れないでしょう。
続いて現代的な哲学書を一冊。
この本のテーマは人間に特有の向社会性がどのように存在するのかです。血縁関係のない他人と協力し、千や万単位での社会集団を作り上げる種は人間だけですが、なぜ人間にはそのようなことができるのかというのが本書の究極の問いです。
本書は分類の難しい本です。その問いに答える過程の大部分が、功利主義を批判したり、欲求、信念、規範に関する非常にテクニカルな言語哲学の議論に費やされているため、「哲学書」と分類しました。しかし、ゲーム理論や統計、進化心理学に関する知見が総合的に盛り込まれており、社会科学の総合格闘技といった様相を呈しています。人間社会への理解を深めるのに非常によい本です。
参考までにいくつか本書の興味深い帰結を紹介します。
①人間はルールに従うことの帰結ではなく、ルールに従うこと自体に価値を感じる
②欲求や規範は人間の考え(専門用語でいう信念)によって変わりうる
③人間がルールに従うのは同調性のためである
『銃・病原菌・鉄』はあまりに有名なので、同じ著者による本書を紹介します。
相変わらずの具体例をふんだんにとりまぜた筆致で、伝統的社会の特徴について述べた本です。議論の対象になっているのはいわゆる「非現代的」な社会であり、我々が共感するのは難しいですが、人間社会の在り方として納得できるところは多々あります。
伝統的な危険とそれに対する対処や、歓待、和解の方法などの人間関係に関する様式は我々の世界観を広げてくれます。
最後は趣味の将棋本を一冊。
将棋において説明の難しい概念である大局観(感覚のようなもの)について記された数少ない書籍です。どのような実力の人が読んでも発見がある不思議な本です。やはり天才、羽生先生はすごい本を書きます。
どの分野でも達人の知見は含蓄があることを感じられます。ただし、将棋以外には何の役にも立ちません(笑)
以上、前回と比較すると大分長くなってしまいました。同士の少ない趣味ばかりですので、共感いただけたらとても嬉しいです。
次はZeLo随一の思想家、松田大輝弁護士に繋げます。私より思想よりの本を紹介いただけると予想します。お楽しみに。
弁護士有資格者(登録抹消中)
2016年慶應義塾大学法学部在学中、司法試験予備試験合格。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2019年法律事務所ZeLo参画。主な取扱分野は、ジェネラル・コーポレート、IT・知的財産、医療・薬事・ヘルスケア、web3(ブロックチェーン/暗号資産/NFTなど)、フィンテック、M&Aなど。主な著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)、『Japan in Space - National Architecture, Policy, Legislation and Business in the 21st Century』(Eleven International Publishing、2021年)など。現在、金融庁総合政策局リスク分析総括課フィンテック参事官室資金決済モニタリング室に任期付公務員として赴任中。
2016年慶應義塾大学法学部在学中、司法試験予備試験合格。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2019年法律事務所ZeLo参画。主な取扱分野は、ジェネラル・コーポレート、IT・知的財産、医療・薬事・ヘルスケア、web3(ブロックチェーン/暗号資産/NFTなど)、フィンテック、M&Aなど。主な著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)、『Japan in Space - National Architecture, Policy, Legislation and Business in the 21st Century』(Eleven International Publishing、2021年)など。現在、金融庁総合政策局リスク分析総括課フィンテック参事官室資金決済モニタリング室に任期付公務員として赴任中。
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